10 / 54
第一章
**花の影かは
しおりを挟む
「ここは我らが……」
早太が祥顕の隣にいる花籠を見て一瞬怪訝そうな表情を浮かべてから言った。
「え?」
「此奴らの相手は我らがします。あなたはその娘を連れてお逃げ下さい」
早太が祥顕と狐達の間に立ってこちらに背を向ける。
「いいのか?」
早太達も花籠を狙っていたはずだ。
何か企んでるのか?
「我らがその娘を殺そうとしているのは人の世を守る為。あなたも守るべき〝人〟の一人です」
早太が祥顕に背を向けたまま言った。
「……花……彼女がその〝人〟に入ってないなら別の機会に襲うって事か」
「ご聡明でいらっしゃる」
思わず『聡明じゃなくても分かるだろ』と突っ込みそうになったがやめておいた。
「なら有難く行かせてもらおう」
祥顕はそう答えると花籠を促して反対方向に歩き始めた。
家に向かいながら祥顕は並んで歩いている花籠を見下ろした。
知り合ったばかりでよく知らないが、なんとなく今日は悩んでいるように見える。
「あんなのに狙われてたら怖いよな」
と、声を掛けたものの、それ以上なにを言えばいいのか分からない。
祥顕もまさか人を掴んで空を飛べるような化物がいるとは思わなかった。
花籠はしばらく躊躇ってから、
「……人違いだったんです」
と明かした。
祥顕は初対面の花籠でさえ守ってくれたのだ。
まして親しい香夜を危険に晒すようなことをあの男達に言ったりするはずがない。
花籠は祥顕を信じて打ち明けた。
「誰と?」
「姉の……香夜ちゃ、香夜です」
祥顕は香夜と親しいのだから危険があるなら伝えておいた方がいいはずだ。
「お姉さんがいるのか?」
「双子なんです。だから姉とか妹とかはあまり関係ありませんけど」
「へぇ」
意外そうに言った祥顕の真意を測りかねて思わず顔を見上げた。
香夜ちゃんと私が双子ってこと、結構有名だと思ってたけど……。
同じ学校にそっくりな顔の生徒が二人いるのだ。
親ですら顔だけでは見分けが付かないくらいそっくりだから珍しいと有名だった。
性格が全く違うから話せば区別が付くとは言え黙っていたら分からない。
だから高校に入るまで花籠は髪を伸ばせなかったのだ。
学校が定めた服装を守ってしまうとリボンなどを着けて区別を付けるという事が出来ないので、香夜が髪を伸ばし、花籠は肩の辺りで切って髪の長さで判別出来るようにしていたのである。
花籠も髪を伸ばしたかったが二人を見分ける為には仕方ないと思って諦めていたのだ。
違う高校に行けば区別の必要はなくなるから香夜とは別の学校にしようと思っていたら志望校が同じだと分かった。
そのとき志望校を変えるか迷ったが、双子は何をするにも二人分の金が掛かるから私立には行かれない。
国立大付属は花籠の成績では無理だし、そうなると都立だが、同じくらいの距離にあるもう一つの高校は難易度が高くて受かりそうになかった。
今の高校も上位校だから、かなりぎりぎりだったのだ。
徒歩通学を諦めて遠くの高校を受けるか迷っていた時に祥顕に会った。
祥顕は覚えていないようだが。
すれ違っただけみたいなものだし……。
―― 相坂の 関にし春を とどめせば 山のこなたは 霞まざらまし ――
去年の春、花籠が歩道を歩いていると自転車のベルの音が聞こえた。
振り向くと自転車はすぐそこまで迫っていた。
ぶつかる……!
そう思った瞬間、身体が後ろに引かれ、同時に誰かが自転車と花籠の間に割って入った。
自転車は祥顕に掠めたが止まらずに走っていってしまった。
「だ、大丈夫ですか!?」
花籠が慌てて祥顕に声を掛けると、
「大丈夫だ。それより脇道はああ言うのが飛び出してくることがあるから気を付けて」
と言うと言ってしまった。
「あ、ありがとうございました!」
頭を下げた花籠に祥顕は背中を向けたまま軽く手を上げた。
格好いい……。
そう思った時、祥顕の着ているのが花籠が受けるか迷っていた高校の標準服だと気付いたのである。
それで志望校を変えるのをやめ、頑張って勉強して同じ高校に入った。
もし彼が三年生だったら入れ違いになってしまうかもしれないと思ったので念のため文化祭に行ってみた。
二年の教室に祥顕はいた。
新宿に縁のある文豪を紹介するパネルの前で女子に囲まれて説明をしていた。
やっぱりモテるんだ……。
予想はしていたが。
「弓弦さん」
「祥顕君」
女子達がそう呼んでいるのを聞いて名前が分かった。
「そっちは人気だな」
クラスメイトの男子が羨ましそうに祥顕に声を掛けると、
「猫は可愛いからな」
と祥顕が答えた。
皆猫が目当てだと思っているらしい。
猫と一緒に写ってる文豪は他にもいるけど……。
花籠はそちらにチラッと視線を走らせた。
見事に誰もいなくて説明役の女子は退屈そうにしている。
周囲のクラスメイト達が呆れ顔をしていたが祥顕は気付いていないようだった。
とりあえず名前は分かったし、二年だから合格すれば一年間は同じ高校に通える。
それで必死で勉強して合格したのだ。
頑張って良かった……。
高校に入り、香夜は私服、花籠は標準服で区別が付けられるので、ようやく花籠も髪を伸ばせるようになった。
髪が長ければそれだけ様々な髪型に出来る。
保育園の時から中学校まで香夜が色々な髪型にしているのを見て羨ましかった。
顔は同じなのだから香夜に似合う髪型は花籠にも似合うはずだ。
そう思って髪を伸ばしたら真似しようと香夜の髪型をしっかり覚えておいたのである。
伸ばしはじめて間もないから、まだそれほど長くはなっていないのだが。
―― よそにのみ 思ふ雲井の 花なれば 面影ならで 見えばこそあらめ ――
早太が祥顕の隣にいる花籠を見て一瞬怪訝そうな表情を浮かべてから言った。
「え?」
「此奴らの相手は我らがします。あなたはその娘を連れてお逃げ下さい」
早太が祥顕と狐達の間に立ってこちらに背を向ける。
「いいのか?」
早太達も花籠を狙っていたはずだ。
何か企んでるのか?
「我らがその娘を殺そうとしているのは人の世を守る為。あなたも守るべき〝人〟の一人です」
早太が祥顕に背を向けたまま言った。
「……花……彼女がその〝人〟に入ってないなら別の機会に襲うって事か」
「ご聡明でいらっしゃる」
思わず『聡明じゃなくても分かるだろ』と突っ込みそうになったがやめておいた。
「なら有難く行かせてもらおう」
祥顕はそう答えると花籠を促して反対方向に歩き始めた。
家に向かいながら祥顕は並んで歩いている花籠を見下ろした。
知り合ったばかりでよく知らないが、なんとなく今日は悩んでいるように見える。
「あんなのに狙われてたら怖いよな」
と、声を掛けたものの、それ以上なにを言えばいいのか分からない。
祥顕もまさか人を掴んで空を飛べるような化物がいるとは思わなかった。
花籠はしばらく躊躇ってから、
「……人違いだったんです」
と明かした。
祥顕は初対面の花籠でさえ守ってくれたのだ。
まして親しい香夜を危険に晒すようなことをあの男達に言ったりするはずがない。
花籠は祥顕を信じて打ち明けた。
「誰と?」
「姉の……香夜ちゃ、香夜です」
祥顕は香夜と親しいのだから危険があるなら伝えておいた方がいいはずだ。
「お姉さんがいるのか?」
「双子なんです。だから姉とか妹とかはあまり関係ありませんけど」
「へぇ」
意外そうに言った祥顕の真意を測りかねて思わず顔を見上げた。
香夜ちゃんと私が双子ってこと、結構有名だと思ってたけど……。
同じ学校にそっくりな顔の生徒が二人いるのだ。
親ですら顔だけでは見分けが付かないくらいそっくりだから珍しいと有名だった。
性格が全く違うから話せば区別が付くとは言え黙っていたら分からない。
だから高校に入るまで花籠は髪を伸ばせなかったのだ。
学校が定めた服装を守ってしまうとリボンなどを着けて区別を付けるという事が出来ないので、香夜が髪を伸ばし、花籠は肩の辺りで切って髪の長さで判別出来るようにしていたのである。
花籠も髪を伸ばしたかったが二人を見分ける為には仕方ないと思って諦めていたのだ。
違う高校に行けば区別の必要はなくなるから香夜とは別の学校にしようと思っていたら志望校が同じだと分かった。
そのとき志望校を変えるか迷ったが、双子は何をするにも二人分の金が掛かるから私立には行かれない。
国立大付属は花籠の成績では無理だし、そうなると都立だが、同じくらいの距離にあるもう一つの高校は難易度が高くて受かりそうになかった。
今の高校も上位校だから、かなりぎりぎりだったのだ。
徒歩通学を諦めて遠くの高校を受けるか迷っていた時に祥顕に会った。
祥顕は覚えていないようだが。
すれ違っただけみたいなものだし……。
―― 相坂の 関にし春を とどめせば 山のこなたは 霞まざらまし ――
去年の春、花籠が歩道を歩いていると自転車のベルの音が聞こえた。
振り向くと自転車はすぐそこまで迫っていた。
ぶつかる……!
そう思った瞬間、身体が後ろに引かれ、同時に誰かが自転車と花籠の間に割って入った。
自転車は祥顕に掠めたが止まらずに走っていってしまった。
「だ、大丈夫ですか!?」
花籠が慌てて祥顕に声を掛けると、
「大丈夫だ。それより脇道はああ言うのが飛び出してくることがあるから気を付けて」
と言うと言ってしまった。
「あ、ありがとうございました!」
頭を下げた花籠に祥顕は背中を向けたまま軽く手を上げた。
格好いい……。
そう思った時、祥顕の着ているのが花籠が受けるか迷っていた高校の標準服だと気付いたのである。
それで志望校を変えるのをやめ、頑張って勉強して同じ高校に入った。
もし彼が三年生だったら入れ違いになってしまうかもしれないと思ったので念のため文化祭に行ってみた。
二年の教室に祥顕はいた。
新宿に縁のある文豪を紹介するパネルの前で女子に囲まれて説明をしていた。
やっぱりモテるんだ……。
予想はしていたが。
「弓弦さん」
「祥顕君」
女子達がそう呼んでいるのを聞いて名前が分かった。
「そっちは人気だな」
クラスメイトの男子が羨ましそうに祥顕に声を掛けると、
「猫は可愛いからな」
と祥顕が答えた。
皆猫が目当てだと思っているらしい。
猫と一緒に写ってる文豪は他にもいるけど……。
花籠はそちらにチラッと視線を走らせた。
見事に誰もいなくて説明役の女子は退屈そうにしている。
周囲のクラスメイト達が呆れ顔をしていたが祥顕は気付いていないようだった。
とりあえず名前は分かったし、二年だから合格すれば一年間は同じ高校に通える。
それで必死で勉強して合格したのだ。
頑張って良かった……。
高校に入り、香夜は私服、花籠は標準服で区別が付けられるので、ようやく花籠も髪を伸ばせるようになった。
髪が長ければそれだけ様々な髪型に出来る。
保育園の時から中学校まで香夜が色々な髪型にしているのを見て羨ましかった。
顔は同じなのだから香夜に似合う髪型は花籠にも似合うはずだ。
そう思って髪を伸ばしたら真似しようと香夜の髪型をしっかり覚えておいたのである。
伸ばしはじめて間もないから、まだそれほど長くはなっていないのだが。
―― よそにのみ 思ふ雲井の 花なれば 面影ならで 見えばこそあらめ ――
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる