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魂の還る惑星 第二章 タツァーキブシ-立上げ星-
第二章 第六話
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椿矢が口を開こうとしたとき、不意に白く半透明な巨木の森が現れた。
二人が黙って見ているとムーサの森は静かに消えていった。
「そういえば、あんた、この森はムーシコスの前に現れるって言ったんだって?」
「そうだよ」
「でも、小夜ちゃんは柊兄と知り合うまで見たことなかったらしいよ」
「え、そうなの? 柊矢君が小夜ちゃん連れてきたの、去年の秋頃って言ってたよね。知り合ったのっていつ?」
「連れてくる一、二ヶ月くらい前じゃないかな。正確な時期は聞いてない」
楸矢は、柊矢と小夜が知り合ったきっかけを話した。
「小夜ちゃんが、あの辺で学校帰りに歌ってたらしいんだよね」
楸矢は柊矢から聞いた場所を指した。
「小夜ちゃんが歌ってるの見つけて毎日聴きに通ってたんだって。柊兄が小夜ちゃん連れてくるまで俺も知らなかったんだけど。……どうかした?」
楸矢は黙り込んだ椿矢に訊ねた。
「クレーイスがクレーイス・エコーの元に来るって話は知ってるでしょ」
「知らない」
そういえば雨宮家や霍田家では常識だが霧生兄弟と小夜はムーシコスなどのことは何も知らずに育ってきたのだった。
柊矢には話した気がするのだが楸矢に伝えてなかったらしい。
「クレーイスはクレーイス・エコーが死ぬとその人の持ち物から消えるんだよ。先々代のクレーイス・エコーはうちの祖父様で、祖父様が死んだとき消えて君達のお祖父さんの遺品の中に現れた。君達が次のクレーイス・エコーに選ばれたからね」
「あんた、沙陽が小夜ちゃんの前のクレーイス・エコーだったって言ったよね。それならなんでクレーイスは沙陽のところに行かなかったの?」
「クレーイスはまずキタリステースの元に行くから。クレーイスを手に入れたキタリステースがムーソポイオスに渡すの」
祖父の代の時、クレーイスを手にしたキタリステース――祖父の従兄――によると、クレーイスを手に入れてしばらくすると祖母が相応しいように思えて彼女に渡したのだという。
その後、祖母は祖父に渡した。
「僕はずっとクレーイス・エコーを選んでるのはムーシケーだと思ってたんだけど……」
「ムーシケーでしょ。ムーシケーがムーシコスにクレーイス持たせたんだし、クレーイス・エコーが死んだら消えて他の場所に現れるとか、ムーシケー以外じゃなきゃ無理じゃん」
「うん、最初のクレーイス・エコーを選んでるのは間違いなくムーシケーだと思う。でも、実質的なクレーイス・エコーってムーソポイオスでしょ」
楸矢もそれは朧気ながら気付いていた。
ムーシカはムーソポイオスが歌わなければ効力を発揮しないのだから、キタリステースはムーソポイオスの協力が必要になる。
普段歌っているような特に効果のない、ただのムーシカならともかく、封印のムーシカのような効果を発生させる必要があるものはムーソポイオスが必須だ。
「三人のうちの最初のクレーイス・エコーがキタリステースなのはどうしてだろうって、ずっと疑問だったんだけど、もしかしたら一人目のクレーイス・エコーがムーソポイオスを選んでるのかもしれない」
「でも、沙陽がムーシケーに行ったのって別れ話の後だよ」
「多分、クレーイス・エコーとしての資質を確かめたかったんじゃない?」
祖父の従兄のクレーイス・エコーは、なんとなくクレーイス・エコーにクレーイスを渡したと言っているから頭で考えて決めてるのではなく無意識に選んでるのだ。
推測の域を出ないが柊矢が潜在意識下で沙陽を外したのではないだろうか。
クレーイス・エコーは聖職者ではないが、それでも二股を掛けるような人間は相応しくないと思われて当然だ。
それでムーシケー自ら、沙陽がクレーイス・エコーに相応しいか見極めるために呼んだということは十分考えられる。
クレーイス・エコー同士は大体カップルになるから選定者(一人目のクレーイス・エコー)がキタリステースなのだろう。
「で、ムーシケーのムーシカが聴こえなかった沙陽は失格。その後、柊矢君が小夜ちゃん好きになってクレーイス・エコーに選んだんじゃない?」
それなら身寄りが亡くなった小夜を引き取ったのも頷ける。
楸矢はずっと不思議に思っていたのだ。
いくら初めて見つけた〝歌ってる人〟とはいえ普通、知り合って間もない赤の他人を引き取ったりはしないだろう。
しかも後になって聞かされたが、柊矢は毎日小夜の歌を聴きに通っていたという。
どこにいても聴こえるのだからわざわざ会いに行く必要はないし、なんなら家にいればムーシカにあわせてキタラを弾くことも出来るのだ。
実際、椿矢の歌声が聴こえても用がなければ会いに来たりはしない。
だが会ってみて好感を持ったのなら毎日通っていたのも頷けるし、そんな相手が身寄りをなくして頼れる人がいないとなれば引き取ってもおかしくない。
「クレーイス・エコーだからって、必ずムーシケーに呼ばれるわけじゃないんだよね」
「そうなの?」
「僕が知ってる中で、行ったことがあるのは沙陽と小夜ちゃんだけだよ。うちの祖父様だって呼ばれなかったし。過去に何人かはいるみたいだけど、沙陽の前は大昔だよ」
クレーイス・エコーがムーシケーに呼ばれたときの話はいくつか伝わっていたが何百年も前の事だから、どこまで本当なのか分かっていなかった。
「そもそも帰還派が生まれちゃったのも沙陽がムーシケーに行ったときの話をしたからだし」
二人が黙って見ているとムーサの森は静かに消えていった。
「そういえば、あんた、この森はムーシコスの前に現れるって言ったんだって?」
「そうだよ」
「でも、小夜ちゃんは柊兄と知り合うまで見たことなかったらしいよ」
「え、そうなの? 柊矢君が小夜ちゃん連れてきたの、去年の秋頃って言ってたよね。知り合ったのっていつ?」
「連れてくる一、二ヶ月くらい前じゃないかな。正確な時期は聞いてない」
楸矢は、柊矢と小夜が知り合ったきっかけを話した。
「小夜ちゃんが、あの辺で学校帰りに歌ってたらしいんだよね」
楸矢は柊矢から聞いた場所を指した。
「小夜ちゃんが歌ってるの見つけて毎日聴きに通ってたんだって。柊兄が小夜ちゃん連れてくるまで俺も知らなかったんだけど。……どうかした?」
楸矢は黙り込んだ椿矢に訊ねた。
「クレーイスがクレーイス・エコーの元に来るって話は知ってるでしょ」
「知らない」
そういえば雨宮家や霍田家では常識だが霧生兄弟と小夜はムーシコスなどのことは何も知らずに育ってきたのだった。
柊矢には話した気がするのだが楸矢に伝えてなかったらしい。
「クレーイスはクレーイス・エコーが死ぬとその人の持ち物から消えるんだよ。先々代のクレーイス・エコーはうちの祖父様で、祖父様が死んだとき消えて君達のお祖父さんの遺品の中に現れた。君達が次のクレーイス・エコーに選ばれたからね」
「あんた、沙陽が小夜ちゃんの前のクレーイス・エコーだったって言ったよね。それならなんでクレーイスは沙陽のところに行かなかったの?」
「クレーイスはまずキタリステースの元に行くから。クレーイスを手に入れたキタリステースがムーソポイオスに渡すの」
祖父の代の時、クレーイスを手にしたキタリステース――祖父の従兄――によると、クレーイスを手に入れてしばらくすると祖母が相応しいように思えて彼女に渡したのだという。
その後、祖母は祖父に渡した。
「僕はずっとクレーイス・エコーを選んでるのはムーシケーだと思ってたんだけど……」
「ムーシケーでしょ。ムーシケーがムーシコスにクレーイス持たせたんだし、クレーイス・エコーが死んだら消えて他の場所に現れるとか、ムーシケー以外じゃなきゃ無理じゃん」
「うん、最初のクレーイス・エコーを選んでるのは間違いなくムーシケーだと思う。でも、実質的なクレーイス・エコーってムーソポイオスでしょ」
楸矢もそれは朧気ながら気付いていた。
ムーシカはムーソポイオスが歌わなければ効力を発揮しないのだから、キタリステースはムーソポイオスの協力が必要になる。
普段歌っているような特に効果のない、ただのムーシカならともかく、封印のムーシカのような効果を発生させる必要があるものはムーソポイオスが必須だ。
「三人のうちの最初のクレーイス・エコーがキタリステースなのはどうしてだろうって、ずっと疑問だったんだけど、もしかしたら一人目のクレーイス・エコーがムーソポイオスを選んでるのかもしれない」
「でも、沙陽がムーシケーに行ったのって別れ話の後だよ」
「多分、クレーイス・エコーとしての資質を確かめたかったんじゃない?」
祖父の従兄のクレーイス・エコーは、なんとなくクレーイス・エコーにクレーイスを渡したと言っているから頭で考えて決めてるのではなく無意識に選んでるのだ。
推測の域を出ないが柊矢が潜在意識下で沙陽を外したのではないだろうか。
クレーイス・エコーは聖職者ではないが、それでも二股を掛けるような人間は相応しくないと思われて当然だ。
それでムーシケー自ら、沙陽がクレーイス・エコーに相応しいか見極めるために呼んだということは十分考えられる。
クレーイス・エコー同士は大体カップルになるから選定者(一人目のクレーイス・エコー)がキタリステースなのだろう。
「で、ムーシケーのムーシカが聴こえなかった沙陽は失格。その後、柊矢君が小夜ちゃん好きになってクレーイス・エコーに選んだんじゃない?」
それなら身寄りが亡くなった小夜を引き取ったのも頷ける。
楸矢はずっと不思議に思っていたのだ。
いくら初めて見つけた〝歌ってる人〟とはいえ普通、知り合って間もない赤の他人を引き取ったりはしないだろう。
しかも後になって聞かされたが、柊矢は毎日小夜の歌を聴きに通っていたという。
どこにいても聴こえるのだからわざわざ会いに行く必要はないし、なんなら家にいればムーシカにあわせてキタラを弾くことも出来るのだ。
実際、椿矢の歌声が聴こえても用がなければ会いに来たりはしない。
だが会ってみて好感を持ったのなら毎日通っていたのも頷けるし、そんな相手が身寄りをなくして頼れる人がいないとなれば引き取ってもおかしくない。
「クレーイス・エコーだからって、必ずムーシケーに呼ばれるわけじゃないんだよね」
「そうなの?」
「僕が知ってる中で、行ったことがあるのは沙陽と小夜ちゃんだけだよ。うちの祖父様だって呼ばれなかったし。過去に何人かはいるみたいだけど、沙陽の前は大昔だよ」
クレーイス・エコーがムーシケーに呼ばれたときの話はいくつか伝わっていたが何百年も前の事だから、どこまで本当なのか分かっていなかった。
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