歌のふる里

月夜野 すみれ

文字の大きさ
71 / 144
魂の還る惑星 第三章 Sopdet -太陽を呼ぶ星-

第三章 第三話

しおりを挟む
 歌い終えた小夜が視聴覚室のドアを開けると廊下に清美がいた。

「清美、なんでここに……」
「それはこっちの台詞だよ。具合が悪いって言って教室飛び出したのに、なんでこんなところで歌なんか歌ってんの?」
 防音とは言えドアの近くで歌ったから聴こえてしまったのだろう。
「それは……」
「もしかして、また柊矢さんに贈る歌?」
「そ、そんなとこ……」
 清美は溜息をいた。
「歌うときは楸矢さんに聴こえないところにしてあげてね」
「う、うん」
 ムーシカでそれは無理なのだが小夜は頷くしかなかった。

 楸矢が話しているとき、小夜の歌声が聴こえてきた。時計に目をやる。

「まだ、授業が終わったばっかのはずだけど、まさか学校で歌ってるのかな」
「これは……」
 椿矢が真剣な表情になった。
「どうしたの?」
「これ、呪詛払じゅそばらいのムーシカだよ」
「え?『じゅそ』って呪いの呪詛じゅそ?」
「そう。この前、小夜ちゃんが車にかれそうになったとき、小夜ちゃんにはムーシカが聴こえたけど、柊矢君には聴こえなかったんだよね?」
「うん。森も見えなかったって言ってたよ。小夜ちゃんが突然立ち止まったと思ったら、真ん前を車が通り過ぎてったって」
「そのムーシカで車の運転手を眠らせたんだと思う」
 それでコントロールを失った車が小夜をねそうになったからムーシケーが足止めをしたのだ。

「そういえば、柊兄が帰還派に狙われて事故ったときもムーシカが聴こえてきたと思ったら意識を失ったって……。それが呪詛?」
「そう。それに君も病院送りにさせられて危うく死ぬところだったでしょ。普通は当人にしか聴こえないはずなんだけど、小夜ちゃんには聴こえたって言ってたよね」
 確かにあの時、楸矢と小夜には聴こえていたが柊矢は聴こえないと言っていた。
「多分、今も何かの呪詛のムーシカが聴こえたから、小夜ちゃんはそれを打ち消すために歌ったんだよ」
「でも、小夜ちゃん、呪詛払いのムーシカなんていつの間に知ったんだろ」
「知ってたわけじゃないでしょ。つい最近までムーシコスのこととか何も知らなかったくらいなんだから。ただ、この前の事故の時と似たようなムーシカが聴こえてきたから打ち消した方がいいんじゃないかって考えて、そういうムーシカを歌ったんだと思う」
 ムーシコスなら望めばムーシカの旋律と歌詞はすぐに分かる。

「今、あんたも呪詛のムーシカ聴こえてなかったよね?」
「うん、普通は呪詛を受けてる当人以外聴こえないものだからね」
「じゃあ、小夜ちゃんはクレーイス・エコーだから聴こえたってこと? それとも聴こえる人がクレーイス・エコーに選ばれるの?」
「クレーイス・エコーは関係ないよ。極稀ごくまれに聴こえる人がいるんだよ」
 椿矢がそう言ったとき、テーブルの横に椿矢に似た面差しの青年が来た。
 年は楸矢と同じくらいだろうか。
 青年は椿矢の前にA4サイズの封筒を置いた。

「人をパシリにしないで欲しいんだけど」
「それは叔父さんに言ってよ。楸矢君、こいつが榎矢。榎矢、楸矢君だ」
「知ってるよ。この前、会ったの覚えてないの?」
 椿矢に喧嘩腰の口調で言った。
「そのとき、お前達が起こした停電のせいで真っ暗だったの覚えてないの?」
 椿矢が小馬鹿にした表情で言い返した。
 榎矢はむっとした顔で椿矢を睨み付ける。それから周囲を見回した。

「今の、兄さんがあの子に歌わせたんじゃないの?」
「また、お前達の悪巧み邪魔しちゃったかな?」
 椿矢が挑発するように訊ねた。
「誰が呪詛してたにしろ今のは僕じゃないよ」
 榎矢はそう言うときびすを返した。
「ちょっと待った」
 椿矢が榎矢を呼び止めた。
「何?」
「お前、小夜ちゃんに先祖返りって言ったそうだけど」
「だから?」
「どういう意味?」
 椿矢が訊ねた。

「え?」
「小夜ちゃんを先祖返りだと思った理由。もしかして、雨宮家ではムーシコスの家系を追ってて、小夜ちゃんはそれ以外の家から出てきたとか?」
「先祖返りって言ったのは能力ちからの強さのことだよ。血の薄まってる家系なんかいちいち調べたりするわけないでしょ」
「その割には楸矢君と柊矢君が親戚だって知ってたよね」
 椿矢が嘲るように言った。
 暗に「いつも楸矢達のことを血が薄いって言ってるのに」とほのめかしている。
 榎矢は答えに詰まって椿矢を睨んだ。

「そもそも、能力ちからが強いって何のこと言ってるわけ?」
能力ちからがなきゃクレーイス・エコーには選ばれないでしょ」
「それだけ? クレーイス・エコーに選ばれたなら能力ちからがあるだろうって思っただけ? 何か出来たとか、したとかじゃなく? クレーイス・エコーを選ぶ基準はムーシケーの意志に従う人でしょ」
「あの子も同じこと言ってたけど、もしかして、あれ兄さんの入れ知恵?」
「小夜ちゃんの話聞けば誰だって分かるよ。ああ、そういえばお前、振られたから話聞けなかったんだったね」
 椿矢がせせら笑いを浮かべた。
 榎矢の顔が赤くなった。椿矢を険しい目で睨み付けている。

 こいつも呪詛のムーシカ知ってるのに大丈夫なのか?
 楸矢はハラハラしながら椿矢と榎矢を交互に見た。
 さすがに実の兄を呪詛したりはしないと思うが自分達が三人とも命を狙われたことを考えると安心出来ない。

「あ、ごめん。古傷えぐっちゃったかな。色男気取ってみんなの前で、女子高生落とすのなんか簡単だって大見得おおみえったのに、相手にされなくて大恥おおはじいちゃったんだよね」
「誰からそれを……!」
「やっぱり、そう言ったんだ」
 椿矢のしてやったりという笑みを見て鎌を掛けられたと気付いた榎矢が耳まで赤くなった。
「意志って言うけど、今までは意志表示なんてしたことなかったじゃない」
「意志表示したことなかったのはムーシケーに行こうなんて考えるバカがいなかったからでしょ」
 椿矢は冷めた表情で辛辣しんらつな言葉を放った。
 榎矢の形相がますます険しくなった。
「まぁ、いいや。これ届けてくれたお駄賃だちんやるよ」
 その言葉に榎矢が手を出したのを見て楸矢は目を丸くした。

 これだけ虚仮こけにされたのに、あっさり手を出すって結構単純な性格なんだな。

 椿矢が呪詛の心配をしないのも頷ける。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい 

設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀ 結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。 結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。 それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて しなかった。 呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。 それなのに、私と別れたくないなんて信じられない 世迷言を言ってくる夫。 だめだめ、信用できないからね~。 さようなら。 *******.✿..✿.******* ◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才   会社員 ◇ 日比野ひまり 32才 ◇ 石田唯    29才          滉星の同僚 ◇新堂冬也    25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社) 2025.4.11 完結 25649字 

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...