91 / 144
魂の還る惑星 第五章 Sothis-水の上の星-
第五章 第五話
しおりを挟む
だから大して離れてない場所に住んでいながらつい最近まで霧生兄弟と小夜が知り合うことはなかったし、柊矢と沙陽も付き合っていながら互いに気付かなかった。
同じムーシコスですら隠されたら見抜けないのに呪詛の依頼者はどうやって複数のムーシコスを突き止めたのだろうか。
霧生兄弟も小夜もムーシカのことを話さないようにきつく口止めされていたと言うくらいだから当の祖父自身が不用意にムーシカを奏でて知られたとは考えにくい。
小夜のように他人に向けられた呪詛が聴こえる人間がいるというのは知っていたが無条件でムーシコスを見分けられる者がいるという話は聞いたことがない。
椿矢が知らないだけで、そういう能力を持った者がいるのだとしても小夜の祖父と椿矢の知り合いを狙った理由が分からない。
二人とも最近まで生きていたから計画は頓挫したようだが、それもよく考えてみれば変だ。
霧生兄弟の祖父に断られたくらいで諦められる程度のことなら何故そんなことを企んだりしたのか。
それに、どうして他人に呪詛したことを知られる危険を冒してまで依頼する必要があったのか。
呪殺なら警察に捕まる心配はないのだから自分でやればいい。
いや、キタリステースじゃ無理か……。
キタリステースが歌っても効果は出ないし演奏だけでも効果はない。
呪詛は基本的には狙われてる当人にしか聴こえないから演奏を聴いたムーソポイオスが歌うということがないからだ。
それでもムーシコスを見つけられる力があるなら他のムーソポイオスを探せばいいだけだ。
ノートには聴こえると言ったとしか書いてなかったが歌詞を渡されて歌ってほしいと依頼されたということは霧生兄弟の祖父はムーソポイオスだったのだろう。
だが霧生兄弟の祖父に断られた後どうして他のムーソポイオスを捜して頼まなかったのか。
狙いが全てのムーシコスではなく一部の者だけな理由も不明だ。
雨宮家の人間は東京に何人も住んでいるし霍田家の者もそうだ。
霧生兄弟や小夜の祖父を見つけられて何故雨宮家や霍田家の人間は見つけられなかったのか。
それに霧生兄弟と小夜が揃って幼い頃に両親を亡くしているのも関係があるのだろうか。
呪詛の依頼と、霧生兄弟と小夜の両親が亡くなるまで三十年ほど間が空いているのは関係ないからだろうか。
雨宮家と霍田家の人間の名前はなかったが、両家とも血が薄いという理由でムーシコスを殺して回るほどイカレてる者はいないはずだ。
何より、どちらの家もムーシコスの一族なのだからムーソポイオスはいくらでもいる。赤の他人に頼む必要はない。
一応この前手紙を読んだときにリストを写させてもらったが、小夜の祖父や椿矢の知り合いが楸矢の祖父と同世代だったことを考えると大半の人は鬼籍に入ってしまっていて捜し出せたとしても話は聞けないだろう。
先月の件で相手がムーシコスならこちらもムーシコスだと明かしやすくなった――その点では帰還派のやらかしも多少は役に立ったと言える――が、さすがにあの世に逝ってしまった人間とは話せない。
分からないことが多すぎるな……。
柊矢君がわざわざ探してくれたんだし、まずは日記の類を調べることから始めてみることにしよう。
小夜が夕食の皿を並べていると柊矢が部屋から下りてきて席に着いた。
楸矢は既に椅子に座って待っていた。
「明日の夕食リクエストするの柊兄の番だけどさ、俺に譲ってくれない?」
「明日じゃないとダメな理由でもあるのか?」
「俺、彼女に振られちゃったからさ、心の傷を癒やすようなものが食べたい」
「なんでそんなことで譲らなきゃいけないんだ」
柊矢が冷たく答えた。
「彼女と別れたんですか?」
案の定すぐに小夜が食いついてきた。
清美に教えて欲しいと頼まれているからだろう。
これで明日には清美に伝わるはずだ。
「うん」
「柊矢さん、明日は楸矢さんのリクエスト聞いてあげていいですか?」
小夜がそう言うと、
「ああ」
柊矢はあっさり頷いた。
「小夜ちゃんは優しいなぁ」
柊兄は小夜ちゃんにだけは甘いな……。
けれど彼女の生い立ちを考えると小夜に一番必要なのは柊矢みたいな相手なのかもしれない。
「譲ってくれたのは柊矢さんですよ」
小夜はそう言ってご飯をよそい始めた。
大学の助手室で休憩していた椿矢は思い立ってパソコンで小夜の家の火事を検索してみた。
楸矢の話していた通りだ。
そして小夜の祖父の名前はやはり『光蔵』だった。
火事の原因は載ってないから沙陽がやったというのも間違いないようだ。
時期的に柊矢が小夜をクレーイス・エコーに選んだ頃で、二人はまだ付き合ってはいなかったから単純に小夜がクレーイス・エコーになったことに腹を立てて抹殺を企てたのだろう。
その程度のことで人の命を奪おうとするなんて、やはりムーシコスの家系だの血筋だのに拘ってる連中はまともじゃない。
血が濃くなり過ぎるのは良くないと言われるが実際のところ雨宮家も霍田家もかなり地球人の血が入ってるし、何より両家の人間より柊矢や小夜の方が遥かにムーシコスらしいのだから血の濃さとムーシコスらしさに関係はないだろう。
霧生兄弟の祖父が良識のある人だったから小夜の祖父を呪詛したりせず、おかげで柊矢と楸矢は後ろめたい思いをせずに小夜と接することが出来るのだ。
同じムーシコスですら隠されたら見抜けないのに呪詛の依頼者はどうやって複数のムーシコスを突き止めたのだろうか。
霧生兄弟も小夜もムーシカのことを話さないようにきつく口止めされていたと言うくらいだから当の祖父自身が不用意にムーシカを奏でて知られたとは考えにくい。
小夜のように他人に向けられた呪詛が聴こえる人間がいるというのは知っていたが無条件でムーシコスを見分けられる者がいるという話は聞いたことがない。
椿矢が知らないだけで、そういう能力を持った者がいるのだとしても小夜の祖父と椿矢の知り合いを狙った理由が分からない。
二人とも最近まで生きていたから計画は頓挫したようだが、それもよく考えてみれば変だ。
霧生兄弟の祖父に断られたくらいで諦められる程度のことなら何故そんなことを企んだりしたのか。
それに、どうして他人に呪詛したことを知られる危険を冒してまで依頼する必要があったのか。
呪殺なら警察に捕まる心配はないのだから自分でやればいい。
いや、キタリステースじゃ無理か……。
キタリステースが歌っても効果は出ないし演奏だけでも効果はない。
呪詛は基本的には狙われてる当人にしか聴こえないから演奏を聴いたムーソポイオスが歌うということがないからだ。
それでもムーシコスを見つけられる力があるなら他のムーソポイオスを探せばいいだけだ。
ノートには聴こえると言ったとしか書いてなかったが歌詞を渡されて歌ってほしいと依頼されたということは霧生兄弟の祖父はムーソポイオスだったのだろう。
だが霧生兄弟の祖父に断られた後どうして他のムーソポイオスを捜して頼まなかったのか。
狙いが全てのムーシコスではなく一部の者だけな理由も不明だ。
雨宮家の人間は東京に何人も住んでいるし霍田家の者もそうだ。
霧生兄弟や小夜の祖父を見つけられて何故雨宮家や霍田家の人間は見つけられなかったのか。
それに霧生兄弟と小夜が揃って幼い頃に両親を亡くしているのも関係があるのだろうか。
呪詛の依頼と、霧生兄弟と小夜の両親が亡くなるまで三十年ほど間が空いているのは関係ないからだろうか。
雨宮家と霍田家の人間の名前はなかったが、両家とも血が薄いという理由でムーシコスを殺して回るほどイカレてる者はいないはずだ。
何より、どちらの家もムーシコスの一族なのだからムーソポイオスはいくらでもいる。赤の他人に頼む必要はない。
一応この前手紙を読んだときにリストを写させてもらったが、小夜の祖父や椿矢の知り合いが楸矢の祖父と同世代だったことを考えると大半の人は鬼籍に入ってしまっていて捜し出せたとしても話は聞けないだろう。
先月の件で相手がムーシコスならこちらもムーシコスだと明かしやすくなった――その点では帰還派のやらかしも多少は役に立ったと言える――が、さすがにあの世に逝ってしまった人間とは話せない。
分からないことが多すぎるな……。
柊矢君がわざわざ探してくれたんだし、まずは日記の類を調べることから始めてみることにしよう。
小夜が夕食の皿を並べていると柊矢が部屋から下りてきて席に着いた。
楸矢は既に椅子に座って待っていた。
「明日の夕食リクエストするの柊兄の番だけどさ、俺に譲ってくれない?」
「明日じゃないとダメな理由でもあるのか?」
「俺、彼女に振られちゃったからさ、心の傷を癒やすようなものが食べたい」
「なんでそんなことで譲らなきゃいけないんだ」
柊矢が冷たく答えた。
「彼女と別れたんですか?」
案の定すぐに小夜が食いついてきた。
清美に教えて欲しいと頼まれているからだろう。
これで明日には清美に伝わるはずだ。
「うん」
「柊矢さん、明日は楸矢さんのリクエスト聞いてあげていいですか?」
小夜がそう言うと、
「ああ」
柊矢はあっさり頷いた。
「小夜ちゃんは優しいなぁ」
柊兄は小夜ちゃんにだけは甘いな……。
けれど彼女の生い立ちを考えると小夜に一番必要なのは柊矢みたいな相手なのかもしれない。
「譲ってくれたのは柊矢さんですよ」
小夜はそう言ってご飯をよそい始めた。
大学の助手室で休憩していた椿矢は思い立ってパソコンで小夜の家の火事を検索してみた。
楸矢の話していた通りだ。
そして小夜の祖父の名前はやはり『光蔵』だった。
火事の原因は載ってないから沙陽がやったというのも間違いないようだ。
時期的に柊矢が小夜をクレーイス・エコーに選んだ頃で、二人はまだ付き合ってはいなかったから単純に小夜がクレーイス・エコーになったことに腹を立てて抹殺を企てたのだろう。
その程度のことで人の命を奪おうとするなんて、やはりムーシコスの家系だの血筋だのに拘ってる連中はまともじゃない。
血が濃くなり過ぎるのは良くないと言われるが実際のところ雨宮家も霍田家もかなり地球人の血が入ってるし、何より両家の人間より柊矢や小夜の方が遥かにムーシコスらしいのだから血の濃さとムーシコスらしさに関係はないだろう。
霧生兄弟の祖父が良識のある人だったから小夜の祖父を呪詛したりせず、おかげで柊矢と楸矢は後ろめたい思いをせずに小夜と接することが出来るのだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
3
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる