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第3話

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「申し訳ない!」

テーブルに頭をぶつける謝罪のパフォーマンスをするインガーロ男爵。
誠意を見せているつもりなのかもしれないけど、頭を下げても何も解決しない。
必要なことは慰謝料やそれに類するものだというのに。

「謝罪は不要だ。それよりも慰謝料について相談しよう。いいかな?」
「あ、ああ」

やっと頭を上げたインガーロ男爵。

「まずはアシューの有責での婚約破棄だ。慰謝料を支払う意思はあるのか?」
「…ある」
「それなら金額は―――」

お父様が口にした金額は十分なものだった。

「わ、わかった。支払おう」
「それとアシューへの処分だ。まさかあのようなことをして何も罰を与えないということはないよな?」
「…もちろんだ」

そう言うしかないのだろう。
明確に言葉にさせなければ甘い処分で済ませたのかもしれない。
あのアシューの親だから、こんなものなのかもしれない。

「具体的にどういった処分を下すのかな?」
「……それはまだ決めかねている」
「確かにすぐに処分を決められるものではないな。後でどういった処分を下したのか教えてくれ」
「わかった」

熟慮しての処分内容なのだから、納得できるものになると期待しておく。
期待を裏切られそうだけど。
どうせ期待を裏切られるなら今のうちに処分を決めてしまったほうがいいと思う。

「ルビアはそれでいいか?」

幸いにもお父様が話を振ってくれたので、私は今までの流れを台無しにする。

「…お言葉ですが、私は納得できません。本人から謝罪すら無いのですよ。どうせならこの場で厳しい処分を決めたほうがいいのではありませんか?」
「ということだ。インガーロ男爵、どう考える?」
「……どういった処分をすれば納得できるというのだ?」

甘い条件を提示する必要はなく、せっかく訊いてくれたのだから無理難題を押し付けてみる。

「処刑してもいいのでは?本気で申し訳ないと思うのであれば、それくらいしてもいいと思いますけど。もしレクーナ男爵家を軽んじるというのであればお好きになさってください」
「くっ…だが処刑はやりすぎではないか?」
「実際に処分を決めるのはインガーロ男爵ですから。私はただ希望を述べたまでです」
「……処刑は無理だ。他の処分で勘弁してくれないか」

私だって無理だと理解している。
これで準備は整ったし、本当の狙いの条件を提示する。
一度断ったのだから次は断りにくいはず。

「いいでしょう。では私がアシューについて広める噂について一切不問にしてください。また、広めることを邪魔しないでください。もちろん結果についても不問にしてください」
「…それだけでいいのか?」
「はい」
「ルビアがそう言っているのだ。処分としてその条件でいいだろう。では慰謝料の支払いも含めて契約書にしようか」
「ああ」

私の求めた条件が甘いと判断したのか、インガーロ男爵の表情も少しは良くなったように思えた。
私が本気で処刑を求めるような人だと思われたなら心外だ。
厳しい条件を提示したのは本当の狙いを受け入れさせるための交渉のテクニックでしかないのに。
田舎の男爵程度ではそういった学がないのかもしれない。

こうして慰謝料も処分と引き換えの条件も契約書として両者がサインした。
サインした以上、これは契約。
守ってもらわなくては信用問題に発展してしまう。

ここからは私がアシューにやり返す番。
噂を広めてあげる。
浮気相手に本気になったことを大勢に知ってもらわないと。
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