上 下
8 / 23
EP01「出会いと再会」

SCENE-008(Side S) >> 猫にまたたび

しおりを挟む
                                       
                                    
 女の一人旅なんて、何かと物騒なのが当然で。
 だからこそ、不寝番なんてしなくても安心して休めるくらいの備えはしていた。

 なのに――


                                    
 夜半過ぎ。肌寒さにふと目覚めると、見慣れた天幕の中で、見知らぬ誰かが私の体に覆い被さっていた。

「きゃあああああっ」
 怖気立つ感覚へ正直に喉の奥から迸った悲鳴に、猫が水でも飲むようぴちゃぴちゃと私の股座を舐め啜っていた音が止む。
「――やーっと起きた」
 まるでそうなることを待ち望んでいたような口振りで顔を上げ、おもむろに体を起こした男は、既に衣一つ纏っていない。
 恥ずかしげもなく晒された裸身の中心では、今の私にとって悪夢のような欲望がそそり立っていた。
「いやあっ」
「ふふっ。かーわい。それで抵抗してるつもりなの?」
 最悪の次の次くらいに嫌な未来予想が脳裏を過って、じたばたと暴れさせた足首を掴み上げられる。

 腰が浮き、足を開かされると、小さく絞ったランプの明かりが、どちらの涎でそうなっているのかもわからないほど、しとどに濡れそぼっている膣口をまざまざと照らし出した。

「力を抜いておいた方が楽だよ。今日の俺はすっごーく興奮してるから、暴れられると力加減が上手くできないかも」
「ひっ」
 怯える私を見下ろして、月を嵌め込んだような金瞳きんどうを爛々と輝かせた男が笑う。
「俺とあんたが結ばれるところを、よぉーく見ておきなよ」
 足の付け根にくちくちと擦り付けられた男の切先が、狙いを定めるよう、物欲しそうに開いて涎を垂らしている膣口へと宛がわれ――
「いやああああああ――っ」
 焼きごてのよう熱くて硬いものを捻じ込まれ、喉から押し出された悲鳴の最後は、私の体を押し潰す勢いで上体を倒してきた男の口に呑み込まれていった。


                                    
「あっは。最高。挿れただけで射精ちゃった」
「いやあ……」
 胎の中にどくどくと注ぎ込まれた精液が抽挿のたびに掻き出され、ぐぷぐぷと耳を塞ぎたくなるような音を立てて泡立つ。
 一度出しても硬さの変わらない男の一物は、ガツガツと容赦なく私の奥を抉った。
「ひっく、ううぅっ……」
「ほら、こっちむいて。あんまり泣くと目玉が溶けちゃうよ」
 ざらざらとした舌で涙の止まらない目元を舐めながら勝手なことを言う男めがめて振りかぶった拳は、防がれることも避けられることもなくぽかりと命中する。
「なんで、こんなっ」
「んー? まだわからない?」
 私の上で、男は殴られたとも思っていないような顔で笑っていた。

 上半身をぴったり合わせて奥を嬲られるのが気持ちいいことさえ悔しくて、腹立たしくて。ぐっと歯を食いしばった私の口に、節くれ立った男の指が捻じ込まれる。
「俺みたいな獣人が我を忘れて人を襲う理由なんて、そんなにないと思うけど」
 口の中で血の味がしても、男は機嫌の良い猫のように笑ったまま。思い出したように腰を打ち付けては私に悲鳴を上げさせた。
「あっ、あっ、あぁっ……やだっ。あんたなんかでイきたくないっ!」
「無理だよ。俺たち体の相性最高だもん。素直に気持ち良くなった方が楽だよ?」
「勝手なこと言わないでっ」
「まぁ、あんたが嫌がっても、体は勝手に気持ち良くなっちゃうんだけど」
「……あああぁっ!」


                                    
 そうやって、男の好き放題に一晩中嬲られて。
 夜明け近くになってようやく意識を失うことができた私が次に目を覚ますと、銀髪金瞳の強姦魔はどこにもいなくなっていた。

 その代わり――
「にゃーん」
 猫と呼ぶにはあまりに大きな体躯の獣が、素っ裸のまま放置されていた私に温もりを分け与えるよう寄り添いながら、天幕の中に体を横たえていた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

隣の夜は青い

BL / 連載中 24h.ポイント:63pt お気に入り:33

ピンセット

大衆娯楽 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

贄にされたうさぎ族のはずれ者ですが幸せになります

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:40

幼馴染を起点とする異世界ハーレム

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:72

異世界でお金を使わないといけません。

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:328

魔力なしと虐げられた令嬢は孤高の騎士団総長に甘やかされる

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:12,404pt お気に入り:2,262

処理中です...