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EP01「出会いと再会」
SCENE-022(Side S) >> 流される猫
しおりを挟む――寄越せってば。
長椅子に落ちた影からにょろっと頭を出してきた蜜色の蛇が、その琥珀のように透き通った胴体を私の足に巻きつけて催促してくる。
「ジーナ?」
レナードから渡されたエリクサーの小瓶を、私が両手に包んでベルンシュタインから隠すような素振りを見せると。どうしたの? と窺うような声をかけてきたレナードが、私の手の平からはみ出している小瓶の蓋の部分をちょんっ、とつついた。
「使わせてやらないの?」
「無理。二本分は払えない」
なんなら一本分だって厳しい。
「払うって、ポーションの対価を? そんなのいらないよ。俺の話をちゃんと聞いてた? 俺が持ってるものはジーナが好きに使っていいんだよ?」
そう言いながら、魔法鞄になっているベルトポーチからもう一本、普段使いのポーションのような気軽さでエリクサーを取り出したレナードが、既にエリクサーを握りしめている私の手の平にもう一本、追加でエリクサーを押し込んでくる。
更に取り出された三本目は「もう持てないね」と、私の足に巻きついて事の成り行きを見守っていたベルンシュタインへ。
「二度とジーナを咬むなよ」
――甲斐性のあるベスティアでよかったね。
レナードに向かって頷いて見せたベルンシュタインは、差し出された小瓶をくわえて影の中へと戻っていった。
「ああああ……」
桁違いの負債が積み上がっていく現実に思わず呻くと、口元をにんまりとさせたレナードが顔を寄せてくる。
「なんなら、本当に結婚する? そうすればぜーんぶ共有財産だよ」
「これで頷いたら私、あまりに酷い女じゃない……?」
「そうかな? どちらかといえば、俺の方がろくでなしだと思うけど」
柔らかく頬を食まれて片目を瞑ると、閉じた目元をざらついた舌が舐めて、くふりと満足そうな吐息とともに離れていった。
膝の上で横抱きにしていた私ごと立ち上がったレナードが、私だけを長椅子に下ろして手を放す。
「レナード?」
「ジルベルトの様子を見てくる。ジーナはここで待ってて」
「エリクサーは――」
両手に一本ずつ握らされている小瓶を返そうと伸ばした手は、そのまま押し返された。
「俺はまだ持ってるから、その二本はジーナの鞄に入れておきな? 二本は使っちゃったんだし、どのみち払えない借金が四本分に増えてもたいして変わらないよ」
「うっ……」
残酷な事実を突きつけられた私が胸を押さえているうちに、ついさっき舐めた方とは逆の目元にちゅっ、と唇を落としたレナードが離れていく。
尻尾をゆらゆらとさせた後ろ姿は、すぐそこの部屋へと入っていった。
「うーわー、ざまぁないなぁ」
部屋の扉はベルンシュタインが出てくるときに開けたっきり。レナードもいちいち閉めたりはしなかったから、相変わらず私以外とは別人のような声色で話すレナードの盛大な呆れ声は、廊下にいる私のところまでしっかりと届いた。
「ジーナー? 蛇の使い魔にジルベルトの拘束を解くように言ってくれる?」
入ったばかりの部屋からひょっこり顔だけ覗かせたレナードに言われて、私は長椅子の下に下ろした足元へと視線を落とす。
「ベル?」
――忘れてた。
「ん。ありがと」
どさっ、と何か重いものが落ちるような音がして、部屋の中を振り返ったレナードが首を引っ込める。
部屋の奥の方へ行ってしまったせいか、それきりレナードの声は聞こえてこなくなった。
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