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魔法の剣
別人
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最初こそ陽動になっていたハトゥルの高速移動だが、普段から訓練しているわけではない戦略が祟った。
暗黒剣が巨大刀で狙いを付ける動きが、ハトゥルに合ってきたのだ。
戦いながら成長する暗黒剣。まるで人間そのものである。
(まずいまずい、まずいよー。これじゃあ、あと1分ももちましぇん)
ハトゥルは、こんなしゃべり方でも剣術の達人だ。
グラゴンマ剣学校という、テックが通う冒険学校の剣士専門版といった立ち位置の学校に通っている。
ハトゥルが育ったアレマ家は特別、剣術の達人が集う名家である。そのため、お嬢様で世間知らずなところが、話しぶりにも出てしまうのだろう。
ハトゥルは剣術を独学で学んだわけではない。剣術を扱う多くの戦士がそうであるように、剣の師匠がいる。
ズロ=アレマ。ハトゥルの母だ。
先ほども述べたように、アレマ家は剣豪が集いし名家。ハトゥルの母もまた例外ではない。
かなり歴史を辿るとフィーン流という世界的な剣術の一派からの分家ではある。しかし今ではアレマ流剣術と言えば、少なくともアレマ家があるイクラ王道連邦では誰もが驚くほどの、歴史と実力のある一流の剣術だ。
(つ、疲れてきた。頭、ぼんやり)
しかしハトゥルは、練習不足ゆえの体力不足という弱点がある。いや厳密には、今までの人生では、せいぜい練習試合や大会くらいでしか剣を振るう事がなく、数時間にも及ぶ実戦経験がないのだ。
【ヒャハハ!マタ、代ワッテヤロウカ】
ハトゥルの頭に、声が響いた。
「何、鬼さん、何か言ったの」
疲れからの幻聴と思ったハトゥルは、即座に暗黒剣のせいにした。
【マタ限界ナンダロ。俺ニ代ワレ】
暗黒剣は暗黒剣で、ハトゥルの言葉を挑発と受け取ったのか、いよいよ巨大刀を振り下ろしてきた。
「間に合わない、死ぬ・・・。―――」
テックと違い、防御に特化した魔法剣を持たないハトゥルに暗黒剣の刀が直撃するのは、ハトゥルの死を意味していた。
【シヌ?俺ハ―――】
「シヌコトノナイ武神」
ハトゥルの顔つきが変わった。特に、穏やかそうな目つきは殺人者のそれに近い、鋭さと粗暴さを兼ねた輪郭になった。そして淡い桃色の三つ編み髪も、結わえていた紐がちぎれて鈍い蒼色に変わり、さらに髪の毛が逆立っている。
「ギャハハハ。殺ス、何モカモ破壊スル」
「な、なんだ。ハトゥルが別人になりやがったぞ」
そして、ハトゥルは下ろされた刀を片手で、しかも人差し指と中指だけで受け止めたのだ。
「ヨ・ワ・イ」
無刀取りという技がある。受け止めた刀を我が物として盗んでしまう、武士の高度な技だ。
そう。次の瞬間、たった二本の指でハトゥルは暗黒剣の刀を無刀取りしたのだ。
「イイゾ。小娘ノおもちゃヨリハ使エル」
再び一瞬の変化。今度は無刀取りした刀を、逆に暗黒剣に振り下ろしたのだ。
「な、は、速すぎる」
テックの動体視力で、この一連の動きはギリギリ見えるか見えないか。無刀取りも含めて、それほどの一瞬で起きていたのだ。
「ギャハハハ。ヒーハハァハハハ」
笑いながらハトゥルは、何度も何度も刀を振り下ろした。何度も何度も。地面が抉れ、地下水が吹き出してもなお、何度も何度もハトゥルは暗黒剣を潰し続けた。
「ハ、ハトゥル。やり過ぎだ。もういいだろ」
テックは思わず声をかけた。ハトゥルがハトゥルでなくなってしまったような、そんな予感がしたからだ。
「ウゼー・・・ヨ?」
背後から、ハトゥルの声がした。目の前には、今いたはずのハトゥルはいない。
瞬時にテックの後ろに回り込んだハトゥルは、ただの膝蹴りを食らわせた。
「ぐぼぇええっ!?」
背骨が完全に折れてしまったのがテックには分かる。そして、村の中で一番遠くにある、300m離れた民家にそのまま物凄い勢いでぶつかった。
「がはっがはっ。うっ・・・ハ・・ハトゥ・・・」
ハトゥルはわざとその民家を目がけたのだ。村なりにひしめき合う家々を縫って、ハトゥルはテックをサッカーボールのように扱ったのである。
【やめなさい!やめてやめてやめて】
内なる本来のハトゥルはようやく自我を取り戻し、蒼髪のハトゥルから主導権を奪い返そうとした。
「ケッ。オセエヨ、ノロマ。マタ、繰リ返スノカ?」
意味深な問いを投げかける蒼髪だが、ハトゥルには心当たりがない。そもそも、こんな風に人格を奪われた事すら今までなかったはずなのだ。
【あなた誰?私の体を返しなさい】
「ソノ内、イヤデモ分カルサ。・・・飽キタ」
ハトゥルは、ハトゥルに戻った。
「はっ。先輩、先輩!大丈夫ですか?」
――
―――
「ユルン。キミは本当に強いね」
誰かがテックを呼ぶ声がする。しかし、その声は何故か、テックをユルンと呼んだ。
「そんな事はないさ、テス。お前も魔法剣、使えるようになってきたじゃないか」
テックは、自分の意思とは無関係にそう言った。
(な、なんだ俺。テスって誰だよ)
「なあ、ユルン。お前は、この世界をどう思うんだ」
「どうって別に。って、おい。何するんだ。や、やめろ。テ―――」
「テック、いつまで寝てんだぜ」
テックが目を覚ますと、そこにフレイアたちの姿があったのだった。
暗黒剣が巨大刀で狙いを付ける動きが、ハトゥルに合ってきたのだ。
戦いながら成長する暗黒剣。まるで人間そのものである。
(まずいまずい、まずいよー。これじゃあ、あと1分ももちましぇん)
ハトゥルは、こんなしゃべり方でも剣術の達人だ。
グラゴンマ剣学校という、テックが通う冒険学校の剣士専門版といった立ち位置の学校に通っている。
ハトゥルが育ったアレマ家は特別、剣術の達人が集う名家である。そのため、お嬢様で世間知らずなところが、話しぶりにも出てしまうのだろう。
ハトゥルは剣術を独学で学んだわけではない。剣術を扱う多くの戦士がそうであるように、剣の師匠がいる。
ズロ=アレマ。ハトゥルの母だ。
先ほども述べたように、アレマ家は剣豪が集いし名家。ハトゥルの母もまた例外ではない。
かなり歴史を辿るとフィーン流という世界的な剣術の一派からの分家ではある。しかし今ではアレマ流剣術と言えば、少なくともアレマ家があるイクラ王道連邦では誰もが驚くほどの、歴史と実力のある一流の剣術だ。
(つ、疲れてきた。頭、ぼんやり)
しかしハトゥルは、練習不足ゆえの体力不足という弱点がある。いや厳密には、今までの人生では、せいぜい練習試合や大会くらいでしか剣を振るう事がなく、数時間にも及ぶ実戦経験がないのだ。
【ヒャハハ!マタ、代ワッテヤロウカ】
ハトゥルの頭に、声が響いた。
「何、鬼さん、何か言ったの」
疲れからの幻聴と思ったハトゥルは、即座に暗黒剣のせいにした。
【マタ限界ナンダロ。俺ニ代ワレ】
暗黒剣は暗黒剣で、ハトゥルの言葉を挑発と受け取ったのか、いよいよ巨大刀を振り下ろしてきた。
「間に合わない、死ぬ・・・。―――」
テックと違い、防御に特化した魔法剣を持たないハトゥルに暗黒剣の刀が直撃するのは、ハトゥルの死を意味していた。
【シヌ?俺ハ―――】
「シヌコトノナイ武神」
ハトゥルの顔つきが変わった。特に、穏やかそうな目つきは殺人者のそれに近い、鋭さと粗暴さを兼ねた輪郭になった。そして淡い桃色の三つ編み髪も、結わえていた紐がちぎれて鈍い蒼色に変わり、さらに髪の毛が逆立っている。
「ギャハハハ。殺ス、何モカモ破壊スル」
「な、なんだ。ハトゥルが別人になりやがったぞ」
そして、ハトゥルは下ろされた刀を片手で、しかも人差し指と中指だけで受け止めたのだ。
「ヨ・ワ・イ」
無刀取りという技がある。受け止めた刀を我が物として盗んでしまう、武士の高度な技だ。
そう。次の瞬間、たった二本の指でハトゥルは暗黒剣の刀を無刀取りしたのだ。
「イイゾ。小娘ノおもちゃヨリハ使エル」
再び一瞬の変化。今度は無刀取りした刀を、逆に暗黒剣に振り下ろしたのだ。
「な、は、速すぎる」
テックの動体視力で、この一連の動きはギリギリ見えるか見えないか。無刀取りも含めて、それほどの一瞬で起きていたのだ。
「ギャハハハ。ヒーハハァハハハ」
笑いながらハトゥルは、何度も何度も刀を振り下ろした。何度も何度も。地面が抉れ、地下水が吹き出してもなお、何度も何度もハトゥルは暗黒剣を潰し続けた。
「ハ、ハトゥル。やり過ぎだ。もういいだろ」
テックは思わず声をかけた。ハトゥルがハトゥルでなくなってしまったような、そんな予感がしたからだ。
「ウゼー・・・ヨ?」
背後から、ハトゥルの声がした。目の前には、今いたはずのハトゥルはいない。
瞬時にテックの後ろに回り込んだハトゥルは、ただの膝蹴りを食らわせた。
「ぐぼぇええっ!?」
背骨が完全に折れてしまったのがテックには分かる。そして、村の中で一番遠くにある、300m離れた民家にそのまま物凄い勢いでぶつかった。
「がはっがはっ。うっ・・・ハ・・ハトゥ・・・」
ハトゥルはわざとその民家を目がけたのだ。村なりにひしめき合う家々を縫って、ハトゥルはテックをサッカーボールのように扱ったのである。
【やめなさい!やめてやめてやめて】
内なる本来のハトゥルはようやく自我を取り戻し、蒼髪のハトゥルから主導権を奪い返そうとした。
「ケッ。オセエヨ、ノロマ。マタ、繰リ返スノカ?」
意味深な問いを投げかける蒼髪だが、ハトゥルには心当たりがない。そもそも、こんな風に人格を奪われた事すら今までなかったはずなのだ。
【あなた誰?私の体を返しなさい】
「ソノ内、イヤデモ分カルサ。・・・飽キタ」
ハトゥルは、ハトゥルに戻った。
「はっ。先輩、先輩!大丈夫ですか?」
――
―――
「ユルン。キミは本当に強いね」
誰かがテックを呼ぶ声がする。しかし、その声は何故か、テックをユルンと呼んだ。
「そんな事はないさ、テス。お前も魔法剣、使えるようになってきたじゃないか」
テックは、自分の意思とは無関係にそう言った。
(な、なんだ俺。テスって誰だよ)
「なあ、ユルン。お前は、この世界をどう思うんだ」
「どうって別に。って、おい。何するんだ。や、やめろ。テ―――」
「テック、いつまで寝てんだぜ」
テックが目を覚ますと、そこにフレイアたちの姿があったのだった。
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