5 / 10
3.深海
上
しおりを挟む
貝の国には、危機が迫っていた。
人を喰らうラングハーヒテスの群れが、かつてない規模で押し寄せていたのだ。ラングハーヒテスはラングスとも呼ばれる、サメに近い細鋸牙の魚だ。
キャルは勇者ラヒエとして、この未曾有の危機を乗り越えようとしていた。それは、魔神の力を借りる事が出来たキャルにしか出来ない事のようだったからだ。
泳ぎつつ、人目を気にしながら青年勇者に変身するキャル。魔神も、いかにも最初から存在しなかったかのように姿を消した。
もっとも、魔神については元より契約者であるキャルにしか見えないはずである。しかし念には念をで、基本的にはキャルにも見えないように気配を絶ちきっているのだ。
「ラングスが、貝の国に侵入する前に終わらせますよ」
「我が輩を誰と心得るか。それしき容易い。いや、容易いと思う前に片が付く」
キャルが魔神と契約する事が出来たのは偶然だ。
怪しげな古書物店から譲ってもらった、いかにも訳ありな廃棄寸前のスクロール。遊び半分で読み上げ、気付けば貝の国にいた。
そして隣には、魔神がいたのだ。
キャルは決して強い人間ではない。精神的にも、肉体的にも平凡以下の弱虫だと本人さえ自覚している。
そんな少女の心は、むしろ魔神の糧となるようだ。正確に言えば、その裏側にある強さへの憧れ。それが魔神の腹さえ満たしているらしかった。
と、その時とてつもない気を勇者から放たせる魔神。貝の国の人々はそれだけでどこまでも安心するらしい。
「勇者様がいらしたぞ」
「子どもだけでもお助けを」
「神のお導きがありますように」
口々に思い思いの言葉を紡ぎ出す人々。
神とは言っても魔神なんだけどね、と内心では嘆息しながら、キャルはラングスに向かって気の波動を放った―――というより、魔神にあたかもキャル自らが気を放ったかのように見させた。
仮にその技を気の衝撃、気衝撃と名付けたのはキャルだ。実際にはキャルには出来ていないが、本当にコツはあるらしく、ただ一人の少年が見事この技を扱いこなす様を目の当たりにしたのを、ふとキャルは思い出した。
(確か、王家の子どもだったな)
そう思う間に、全ては終結した。
魔神の気衝撃はラングスを塵に帰したのだ。
感謝する人々。しかしそれに目をくれる時間はない。いや、実際にはそう振る舞わないと勇者らしくない。
(それに、私には他にやる事がある)
そう思いつつも簡単な挨拶だけ人々に済ませ、去り際に一言こう告げるのだった。
「私は深海へ行く」
人を喰らうラングハーヒテスの群れが、かつてない規模で押し寄せていたのだ。ラングハーヒテスはラングスとも呼ばれる、サメに近い細鋸牙の魚だ。
キャルは勇者ラヒエとして、この未曾有の危機を乗り越えようとしていた。それは、魔神の力を借りる事が出来たキャルにしか出来ない事のようだったからだ。
泳ぎつつ、人目を気にしながら青年勇者に変身するキャル。魔神も、いかにも最初から存在しなかったかのように姿を消した。
もっとも、魔神については元より契約者であるキャルにしか見えないはずである。しかし念には念をで、基本的にはキャルにも見えないように気配を絶ちきっているのだ。
「ラングスが、貝の国に侵入する前に終わらせますよ」
「我が輩を誰と心得るか。それしき容易い。いや、容易いと思う前に片が付く」
キャルが魔神と契約する事が出来たのは偶然だ。
怪しげな古書物店から譲ってもらった、いかにも訳ありな廃棄寸前のスクロール。遊び半分で読み上げ、気付けば貝の国にいた。
そして隣には、魔神がいたのだ。
キャルは決して強い人間ではない。精神的にも、肉体的にも平凡以下の弱虫だと本人さえ自覚している。
そんな少女の心は、むしろ魔神の糧となるようだ。正確に言えば、その裏側にある強さへの憧れ。それが魔神の腹さえ満たしているらしかった。
と、その時とてつもない気を勇者から放たせる魔神。貝の国の人々はそれだけでどこまでも安心するらしい。
「勇者様がいらしたぞ」
「子どもだけでもお助けを」
「神のお導きがありますように」
口々に思い思いの言葉を紡ぎ出す人々。
神とは言っても魔神なんだけどね、と内心では嘆息しながら、キャルはラングスに向かって気の波動を放った―――というより、魔神にあたかもキャル自らが気を放ったかのように見させた。
仮にその技を気の衝撃、気衝撃と名付けたのはキャルだ。実際にはキャルには出来ていないが、本当にコツはあるらしく、ただ一人の少年が見事この技を扱いこなす様を目の当たりにしたのを、ふとキャルは思い出した。
(確か、王家の子どもだったな)
そう思う間に、全ては終結した。
魔神の気衝撃はラングスを塵に帰したのだ。
感謝する人々。しかしそれに目をくれる時間はない。いや、実際にはそう振る舞わないと勇者らしくない。
(それに、私には他にやる事がある)
そう思いつつも簡単な挨拶だけ人々に済ませ、去り際に一言こう告げるのだった。
「私は深海へ行く」
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
ちゃんと忠告をしましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。
アゼット様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる