祠を壊した少女と長髪無精ヒゲ退魔師オジさん

卯月幾哉

文字の大きさ
2 / 14

第2話 祠を壊した者たち

しおりを挟む
「ベソベソ泣きながら何もせず膝を抱えて死ぬか、生き足掻あがいて化け物に一矢報いてから死ぬか、だ」

 〝霊能探偵〟を名乗る不審な大男、六守破ろくすわ譲悟じょうご科白せりふを聞き、りん刹那せつな、頭が真っ白になった。

 ――結局、死ぬんじゃない!

 それはあまりに理不尽な宣告だった。
 不慮ふりょの事故でほこらを壊した報いがそれとは、凛にとって受け入れがたいものだった。

「死ぬ、しかないんですか……?」

 だから、凛の口調に大男――譲悟を責めるようなトーンが入ったのは無理もないことだった。

 譲悟はそんな凛の疑問を、煙草の紫煙をくゆらせながら飄々ひょうひょうと受け流す。

「なんだ、生きたいのか?」
「えっ」

 何を当たり前のことを――。凛はそう思ったが、譲悟は不思議そうに目を丸くしていた。

「生きていれば、つらいこと苦しいこともいっぱいあるだろう。そりゃあ、化け物に殺されるのは嫌だろうが、苦痛を和らげるすべはある。いっそ、ここで死んじまった方がラクなんじゃないのか?」
「――――」

 譲悟のそんな言葉に、凛は息をんだ。その言葉はあまりにも厭世的えんせいてきだったが、凛の口からはそれを即座に否定する言葉が出て来なかった。


 ――未解決の航空機事故で両親を亡くした凛が、母方の祖父母に引き取られて転校したのはこの秋のことだった。

『あのまい東京モン。ましとって、気に入らんね』

 長閑のどかな田舎の山村に唯一の中学校で、都会から来た凛は浮いた。
 結果として、クラスで大きな存在感を持つ女子グループに目をつけられ、陰湿ないじめを受けることになった。岡部円香まどかという女子を筆頭とする三人の女子グループだ。

 凛がくだんの祠を壊してしまったことにも、彼女たち三人が関係していた。
 昨日、学校行事として行われた遠足。その帰りがけ、凛は円香らに強要されて、正規のルートを外れてその祠の近くまで行くことになった。
 そこで一悶着ひともんちゃくあった末に、凛は祠が立っていた場所に突き飛ばされ、勢いよく​​衝突しょうとつしてしまったのだ。石造りの小さな祠は根元から倒れ、一目で修復不可能とわかるほどに砕け散ってしまった。

『ヤバっ! やしろこわしとるやん。ウケる~』

 円香たち三人は、壊れた祠のただ中に倒れた凛を指差し、ケラケラと笑った。


 ――この一件に限らず、凛は彼女たち三人から様々な形で精神的・肉体的な苦痛を与えられていた。
 だから、まれに「死にたい」と思うこともないではなかった。
 譲悟のはしばみ色の瞳は、まるでそんな凛の心の揺らぎを見透かしているかのようだった。

「嬢ちゃんが望むなら、苦痛を和らげるじゅつを掛けてやってもいいぜ」

 譲悟の言葉はまるで、悪魔のささやきのように甘美な響きを持っていた。

「私は……」

 凛が何かを答えようとしたそのときだった。

 譲悟が身にまとう空気が一変した。
 急に北の方角を振り返った譲悟は、その先のある一地点を見据え、眉根を寄せて細い目を更に鋭くした。

「? 何か――」
「嬢ちゃん。祠を壊したとき、ひょっとして他にも誰かいたか?」

 雰囲気の変化を察した凛が質問するよりも早く、譲悟はあり得る可能性を凛に問うた。

「は、はい。私以外にも、三人。全員、クラスメートの女子です」
「チッ……。おそらく、それだな」

 やや慌て気味に凛が答えると、譲悟は舌打ちと共に煙草を地面に弾き飛ばし、爪先で踏みつけた。
 凛は譲悟の様子から、ただならぬ何事かが進行していることを察する。

「何かあったんですか?」
「ああ、最悪なことがな。……チッ、面倒だな。おい、嬢ちゃん。脚に自信はある方か?」

 譲悟はこたえつつ、黒革のアタッシェケースを左手で拾い上げる。
 再び舌打ちをした彼は、手袋をしたままの右手で朽葉色の頭髪をぼりぼりときながら、続けて凛にたずねた。

「はい。元は陸上部だったので」
「よし、じゃあ走るぞ。ついて来い」
「えっ? ――は、速っ!」

 凛がうなずくのを見るや否や、譲悟は彼女に背を向け、北へ向かって駆け出した。

 凛は慌てて、譲悟のその大きな背中を追って走り出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

OLサラリーマン

廣瀬純七
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

処理中です...