幻想神話朗読譚:星紡ぎの書架

Sora_Shirakawa

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夢の章

第一話「夢をたべる鳥」

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今宵もまた、青の丘に星が灯ります。
やわらかな灯火のもと、セレーナお嬢様は静かに椅子へと腰かけ、
目の前の子どもたちに微笑みながら口を開きました。

「さあ、今宵は……夢にまつわる、ちょっと不思議なお話をいたしましょうか」

それは、とてもとても昔のことですの――

 * * *

夜ごと夢を食べるという、一羽の鳥がいました。
その鳥は、眠る人の枕元に舞い降りては、その者の夢をひとくち、またひとくちと食べてゆくのです。

食べられた夢は、翌朝になるとすっかり忘れ去られてしまいます。
けれど、人々はなぜかその鳥を憎まず、むしろ“夢守りの鳥”と呼んでいました。

夢を食べられることが、なぜ守ることになるのか。
それは、この国に伝わる、あるひとつの逸話に由来します。

むかしむかし、小さな村に住むひとりの少女が、毎夜うなされておりました。
何度眠っても、悪い夢ばかりを見るのです。

「また、こわい夢だった……」

彼女は目を覚ますたび、布団をきつく握りしめて、涙をこぼしていました。
その姿を、ある晩、あの“夢守りの鳥”が見つけたのです。

鳥は、少女の枕元にそっと降り立ちました。
そして、彼女の見ている悪夢を、やさしく、やさしくついばみ始めたのです。

……その夜、少女は初めて、安らかな眠りにつきました。

「ありがとう、ちいさな鳥さん」

翌朝、目を覚ました少女は、夢の内容を何も覚えていませんでした。
ただ、温かく柔らかな羽の感触だけが、頬に残っていたのです。

それからというもの、鳥は毎夜、少女のもとを訪れました。
悪い夢を食べて、眠りを見守るようにして。

季節がめぐり、少女は成長しました。
そして、鳥がもう来なくなった夜、彼女は最後にこう言ったのです。

「もう、大丈夫。こわい夢は、わたしの中で、ちゃんと意味を持ったから」

それを聞いたかのように、どこからか羽ばたく音が聞こえました。
それ以来、彼女は決して悪夢にうなされることはなかったといいます。

……今もなお、悪い夢に泣く誰かのもとへ、その鳥は現れるのだとか。

 * * *

もっとも、信じるか信じないかは……あなた次第ですわ。

「おやすみなさいませ。今夜は、よく星が見えますわよ」


■ 登場人物
【語りを聞いていた人物】
・セレーナ・イリア・F・クリスティア:語り部。語りを通して子供たちを眠りへと導く吟遊詩人。
・ミレーヌ:セレーナに最も懐いている9歳の少女。膝の上で眠る。
・テオ:物静かな6歳の少年。夢の話に強く反応する。
・他、孤児院の子どもたち数名

【物語内の登場人物】
・夢をたべる鳥:夜ごと人の夢をついばみ、悪夢から守る不思議な存在。
・少女:悪夢に悩まされていた村の子。鳥との出会いによって変化を遂げる。
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