創世樹

mk-2

文字の大きさ
35 / 223

第34話 妖艶な蛇と猛る竜騎士

しおりを挟む
 ――――ガイが生死の境を彷徨う闘いの一方。



 セリーナは空中走行盤エアリフボードで森の上を飛び、敵から逃れようとしていた。



 だが――――



「――くっ! 飛び道具持ちとは、厄介な――――!」




 空中を飛べるならセリーナが優位に思えるが、それは地上が見渡せる平野などでの話。



 姿を隠せる森なら、地上から空中を飛び回り、逆に目立つセリーナのような獲物は、飛び道具で狙われる格好の的だった。森を高速で動き回る敵の姿は捉えられず、反撃も出来ない。



 飛んでくる弾を辛うじて避け、また大槍で弾いてやり過ごそうとするセリーナだが……弾の威力が予想以上に重く、弾くだけでも体勢を崩しかねない。




(ちっ! 空は却って不利か……なら地上で迎え撃つ!)




 素早く、器用に空中走行盤を踏み替え、セリーナは地上に降りた。




 ――辺りは木々の間から僅かに入る日光がちらつき、果ての無い闇。虫や小動物の鳴き声、風によって樹木がざわつく感覚。敵の気配が感じられない。



 一体何処から仕掛けてくるのか。



 セリーナは緊張し、大槍を構えながら勇敢に声を張り上げた。




「――隠れてないで出てこい、ガラテア軍人!! 遠くから狙い撃つだけなど卑怯だぞ!! 武人の端くれならば……闘技で勝負しろッ!!」




(――とは言ってみるが……それこそ冒険者や武人以上に殺し合いに慣れた軍人のすること……奴にすればこれが堅実なやり方なのだろうな。ちっ……)




 武人らしく闘え、と叫びつつも、相手にも戦い方があることを内心認め、舌打ちをする。




「――あらン❤ 逞しい言葉と声だこと…………そんなに心配しなくっても、私は逃げも隠れもしないわん♪」



「……!」



 だが、予想に反し、敵は――――セフィラの街から散々誘惑にも似たアプローチを繰り返してきた女・メラン=マリギナはセリーナの正面から現れた。声色は相変わらず甘ったるいが、眼光は豹のように鋭い……。




(……こいつ……ガラテア軍人のくせに、酷く軽装なままだ……さっき撃ってきたよくわからん弾を撃ち出せそうな銃の類いは持ってない――――)



 セリーナの察する通り、メランは肌の露出が多い、扇情的ではだけた改造軍服のままだ。砲はおろか、拳銃すら見当たらないし、隠せるよう布地のゆとりもない。


「……銃も持たないのに私が弾を撃ってるのが…………わかんなくって不思議~?」



「むっ……」



 一瞬心を読まれたかと錯覚した。セリーナの疑念をそのまま言い当てられてしまった。思わず声に出る。




「あははは、やっぱりイイ反応~♪ 図星だったわねン❤」




 推測が当たったことと、セリーナがすぐに反応を示したことに、満足そうにクスクス、と微笑むメラン。




 徐に、両手を広げて伸ばし、掌を天に向ける。




 すると――――




「――!?」



 メランの全身から一瞬『圧』を感じたかと思った瞬間、ボウッ、と火を灯すような音と共に、掌からエネルギーの『弾』が出た。メランの手元で浮かんでいる。





「――私たちはねン……軍から改造手術と薬漬けで、全身弄くり回されちゃったのよン。玉のようなカラダの色んなトコ、色んなモノで…………勿論脳味噌も。まあ……なんでそうなったかは語ると長いからやめとくけどぉ――――お陰で練気《チャクラ》っていう生物が持つ生命エネルギーのようなモノを練って、重傷を治したり……他にも色ぉんな超能力が使えちゃうのよぉん♪」




「……そんな……力が…………」




(――練気だと!? そういえば…………グアテラにいた頃に父上や兄弟子から聞いたことがあったが…………『千年に一人しか現れない』とか『太古の昔の武の仙人が使った』とか言われていたはずの言葉……ただの御伽噺だと思っていたが――――こいつらはそれが使えるのか!?)




 密かに伝え聞く名前だけは知っていたセリーナだが、とても現実のものとは思っていなかった。



「――自分の得物の正体を自ら敵に教えるとは!! 随分と舐められたものだな…………そんな豆鉄砲のような弾など、喰らう前に貴様の胸を刺し貫いてやるッ!!」



 動揺を掻き消す意も込めて、メランに猛然と言い放つ。



 メランは…………相も変わらず情欲を伴った恍惚とした笑みを浮かべて応える。




「『刺し貫く』…………ああん。なんて素敵な言葉…………❤ 逞しい肉と骨を穿ち、大事な大事な臓物を、あのリンゴみたいに潰して、突く――――強烈なのが欲しいし、逆に貴女にもあげたいわン❤ うふふふふふ。」





「くっ……戯れるのも大概にしろッ!! 貴様はここで死ぬ。他の3人もな――――参るッ!!」




 掛け声ののち、大槍を真っ直ぐ構えセリーナは猛スピードで距離を詰め――――突きを繰り出す!!




「――あん❤ 鋭い…………♪」




 ひらりと躱したメラン。まだまだ余裕の姿勢を崩さない。




 セリーナの隙を狙い、両手の気弾を右、左と撃つ!!




「ふッ!!」




 セリーナは計算づく。突きの勢いを殺さず地面に切っ先を突き立て、全身を槍に対して水平に、逆立ちのような形で身を翻して鮮やかに避ける――――そしてそのままメランの脳天目掛けて踵落としを見舞う!!




「うんッ……すっごい反射ねン、大きな猫ちゃんみたいよん!!」




「むっ――!!」




 メランは両手を交差して頭上に掲げ、踵落としを受ける。圧力でメランが少し地面に沈み、砕けながら土埃が舞う――――刹那、メランは両手のグローブに仕込んだナイフを突き出し、セリーナの脚に刺そうとする! だが、セリーナもすかさず槍を軸に回転して受け流す!!




 お互いに体勢を整え、過たず互いに刃と体術を織り交ぜた連撃を打ち込み合う!!




「あっは❤ 想像以上に良いわ、良いわあ!!」




 互いに強力な一撃。一撃の応酬。メランは紫の長い髪を振り乱し、ピンク色の瞳をなおギラつかせる。



「ふんっ、てやぁっ、はあっ!!」




 セリーナの技、身体に一部の隙も無い。




 攻撃の勢いを全く殺さず、無駄にせず、槍の突き、払い、体術の蹴りや肘鉄と、連撃を叩きこんでいく。相手の攻撃に対しても、セリーナの黒い長髪の筋一本すら触らせない。




 ――ドゴオオオオンン!!



「!!」



 ――先ほどメランが撃った2発の気弾が、少し離れた木に炸裂した。




 なかなかの大木だが、気弾の威力も凄まじい。幹が裂け、木が倒れてしまった。ずずぅん……と大地を揺るがす音がこだまする。




(こいつの攻撃……華奢な身体から練った気弾とは思えん威力だ。喰らえばひとたまりもないな――――ここは気弾を撃たせない、撃たせる隙を与えんよう槍の間合いを活かした近距離戦インファイトのまま決める――――!!)



 セリーナは近距離が有利と見てさらに間合いを詰め、攻撃のペースを速めていく。




「んんッ…………!」




 さすがに軍人と言えども、セリーナほどの武芸者の素早く、重い攻撃を受け続けてはひとたまりもないように見える。防戦一方だ。



「せいっ!!」



 セリーナの大槍からの強烈な刺突。メランは脇腹に掠めて出血しながらも、片手で槍を掴んで止める――――が、それはフェイク。セリーナは槍を一瞬手放し、腰を落として正拳突きを見舞った!!




「ぜあーッ!!」
「ぐうっ!!」




 ――メランのみぞおちに炸裂。凄まじい圧力で地面を擦りながらメランは数メートル吹き飛んだ。何とか踏みとどまる。




 急所に剛拳をクリーンヒット。普通なら意識を失うほどのダメージだが――――








「――――ふう……お見事、お見事ぉん❤ このまま近距離で戦ってたら私の不利ねえン。ここまで出来るなんて思わなかった! 惚れ惚れしちゃうわン♪」




 メランは――――悶絶するどころか、快い笑顔を向け、パチパチパチ……とセリーナに向け拍手をした。不利だと言いつつも、いまだ余裕綽々のように見える…………。




(――なんだ、こいつの硬さは……!? この正拳突きをみぞおちに喰らえば、屈強な男でも悶絶し嘔吐する……下手したら即死の一撃なんだぞ…………!?)




 地面に落ちた大槍を抜け目なく拾いつつも、セリーナは相手の底が知れず不気味な感覚を味わうのみだった。




「――その顔は……ひょっとして私のタフさが恐いのかしらぁん? ウフフッ、これも練気の力の賜物よン♪」




「…………」




「見たところ……貴女も少し使えるみたいねン? 訓練次第でどう応用出来るか、楽しみだけどぉ…………」




 メランの目にも、セリーナにガイの回復法術と同様、練気の流れがあることが解るようだ。セリーナの場合は知覚の鋭敏化と神経伝達物質の速度上昇に使っているわけだが――――




「――ふふっ。やっぱり近距離戦では私が殴り勝つのは難しそ。悪いけど『卑怯な武人らしく』やらせてもらうわン♪」




 そう呟いた瞬間、メランは――――目にも止まらぬ速さで飛び退き、森の闇に消えた。




「!! 待てッ!!」




 距離を取られればこちらが不利――――そう思うや否や、すかさず森の奥から無数の気弾が飛んできた!!





「――くっ!!」




 素早く躱し、身を翻す。しかし、さっきまでと違い、気弾は嵐のように飛んでくる…………!!




 メラン自身も高速で移動しているのだろう。四方八方から、一瞬も気を緩められないほど大量に気弾が飛び交い、森はさながら鉄火が飛び交う戦場だ。




 ――何処からかメランの甘ったるい猫なで声が響いてくる。





「――悪いけどぉ…………ここで――――王手詰みチェックメイトにするわねえン❤」





「――――!?」





 ふと気が付くと、空が明るい――――





「上か――――!!」




 木々の間から空を見遣ると――――メランを中心に、とてつもなく夥しい数の気弾が空を埋め尽くしていた!! その数、百や千では効きそうもない――――




「――勿体ないけどぉン……これでバイバーイ♪」




 凄まじい勢いで飛び上がり風を受けるメランが地上のセリーナに向け、ウインクをすると同時に――――全ての気弾が一斉に降り注いでくる!!




 とても、逃げられない。避け切れない――――




 どごごごごごごごおおお…………と、爆雷の絨毯爆撃のような音が辺りに響き渡る。気弾は火薬ではないので、森が焦土と化してしまわないのがせめてもの救いか。




「ざ~んねん❤ かわいいコだったのに――――あらン?」





 と、一瞬。





 一瞬にして、セリーナは空中の、メランの真後ろに飛んでいた――――




(――――感覚鋭敏化。筋力のリミッター解除――――神経伝達高速化!!)




 暗示で身体能力を限界まで引き出したセリーナが、ついにメランを捕らえた!!




「――――うっそぉん――――」

「でやあああああああッ!!」




 セリーナの大槍が、メランの胴を刺し貫く――――!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。 だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。 失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。 どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。 「悪女に、遠慮はいらない」 そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。 「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。  王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」 愛も、誇りも奪われたなら── 今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。 裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス! ⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

処理中です...