創世樹

mk-2

文字の大きさ
38 / 223

第37話 幻惑されて

しおりを挟む
 ――もう少しで改子を返り討ちに出来たかもしれない、熱線の一撃。


 だがそれも、あと一歩……否、半歩届かず。



 改子の身体能力、練気チャクラ、そして戦う為に一時的に自傷することを全く厭わない異常なまでに冷徹な判断力。



 改子は、笑った。



 エリー一行の中で最も弱いと見えるテイテツとグロウ相手に攻勢一方かと思ったが、思いの外の反撃に、満足そうにせせら笑う。



「――ひひひひひ……全然弱くて『はずれ』引かされたかと思ったけど、いいじゃん、いいじゃん!! 面白いじゃん、アンタらァ!! 次は何を見せてくれんの? ええ!?」




 ――やはり自分にとって不利に状況が転びそうでも、バルザックやメラン同様、地獄のような闘争の歓喜に身震いし、相手への期待を込めた殺意を向けてくる。4人の中で普段から最も凶暴性が高いと見える改子は、なおそのこげ茶の瞳を収縮させぎらつかせる。




 ――――ここで臆している場合ではない。




「木たち! お願いッ!!」



 グロウが再び地に手をついて念じる!!




「あ!?」





 蔦の次は、改子を取り囲むように伸びている木枝を急成長、活性化させ――――巨大な無数の針と化し、突き刺さる!!




「――ぐっ……わけわかんねえ、術を――――」




 木枝の針は改子の全身を何箇所も貫通している――――が、またも改子は手にしているナイフで木枝を叩き切っていく。




「――ごめんね、木たち…………『化合』だ!!」




「!?」





 グロウの攻撃は木枝を刺したり蔦で絡めとるだけでは終わらなかった――――今度は刺した木枝を通じて、極小の細菌を活性化させ、改子の血に化合させた!! エンデュラ鉱山都市の時の、捕縛されたガンバの鎖を錆びさせた物理現象のさらなる応用である――――





「――ぐあ……か…………御丁寧に、毒入り、かよ――――!!」




 忽ち細菌による熱毒が全身に回り…………改子は肌の色がどんどんと紫がかっていく。




「――や、やった!!」




 グロウは勝利を確信し、木の陰から飛び出る。





「――ぐぐっ…………こ、のガキ……一体、ど、んな手品を――――」




 改子は苦痛に顔を歪めながら、目の前のグロウを睨む。




「……痛い? 苦しいよね…………?」




 グロウはやはり、相手が人を喜んで殺す殺人狂だとしても、生命を尊ぶ情に脆い。毒に苦しむ改子を憐みの目で見つめる。




「……僕は…………無駄に生命を殺したくないんだ。もう、お前をそんなにする為に何本もの木の生命を殺してしまったんだ――――どうか、降参して欲しい。仲間と共に逃げてよ。」



「――!!」




 改子は、熱毒の灼けるような苦痛の中でもハッキリと驚愕の表情を浮かべる。



「――グロウ。先ほども言った通り、生き延びるための戦闘です。情けをかけてはなりません。よしんば彼女を生かしたら、他の仲間に報復される恐れもあります。とどめを刺しましょう。」




 テイテツが冷然とグロウに諭す。




「……駄目だよ。僕には出来ない。この人たちだってガラテア軍に生命を弄ばれて、生命を蹂躙されてこんな目に遭っているんだ…………このまま殺すなんて悲し過ぎるよ」




「グロウ。そんな道理は彼女らには――――」




 そうテイテツが止めかけた時、改子が叫んだ。




「――ああああああ……痛い痛い…………苦しい、苦しい…………た、頼むよオ……アンタ、グロウ、って言った? そういうからには毒を治すことも出来るん、だろぉ? 助けて、助けてよオオ…………!」




 改子は、木枝と切り損ねた蔦に絡まり身動きが取れないが、どうやらまだ声は出せるようだ。身体を震わせながら命乞いを始めた。




「……もう、人を殺したりしないか? 諦めて仲間と一緒に、自然の中で平和に暮らすか?」




 グロウは良心が痛み、改子に問いかける。




「はあっ、はあっ……わかった、わかったよおおお! もう人殺しはやめる……降参だ、降参!! 軍も抜けて田舎でオレンジ農園でもやって静かに暮らすよおお……だから助けて――――誓う! 誓うぅうよおおおおおぉぉぉぉ……!」





 改子は、涙まで浮かべて懇願してくる…………。




「グロウ。恐らく罠です。騙されてはなりません。とどめを――――」





「大丈夫だよ、テイテツ。こんなに言っているんだ…………それにこの人はもう身動き取れない。例え、嘘をついて見逃してもらうつもりでも……セリーナの時みたいに心を入れ換えさせて見せる。」





 グロウは、力を使って解毒と改心をするため…………改子のすぐ傍まで駆け寄った。





「あああ…………信じて、くれんのね…………助けてくれてありがとう……きっと罪滅ぼししてみせるわ…………」




「うん。今楽にしてあげる。じっとしてて――――」




「ああぁ……あんたが、ね――――」







「――え?」

「グロウ、飛び退いて!」





 刹那――――改子は動けないふりをしていた左手のナイフを振ってきた!!




 ――間一髪。グロウは首をはねられるところを、何とか頬に切り傷を負う程度で回避出来た――――




「――――な~んて、なあぁあ~♪ ――うらぁッ!!」




 突然、改子が怒号を放ちながら力を込めると、一瞬にして木枝も蔦も一気に引きちぎってしまった!!





「――だぁあああれが、オレンジ農家になんぞなるかァ、ボケがアァッ!! 舐め腐りやがって、脳がお花畑の坊ちゃん❤」




「――くっ…………」




 グロウが息をつく間に、騙し討ちに出た改子は、改造軍服のポケットから、大きなカプセル状の薬を取り出す。





「改造手術と、練気チャクラで身体をマシマシに強化してるあたしらに……この程度のちっぽけな毒で殺せると思ったんかァ!? その毒も…………あたしらが常備してる解毒剤飲めば一発で打破なんだよぉ!!」





 そう突き刺すような声をグロウに浴びせると、改子は薬を飲んだ――――みるみるうちに、血色が回復していく。




 ――グロウは、ようやく思い知った。




 この目の前の妖女は、わざわざ破壊と殺戮の悦びを得るためだけに、セフィラの街の子供たちを戯れに傷付け、騙し、殺そうとした卑劣極まりない人間であることを、思い出した。




「――くっそお――――」




 今度は、グロウが悔し涙を流した。




 自分が間違っていたこと。人間の中には、度し難い悪意に染まり切った者もいること。生命を侮辱するだけの生命もまた、この世には混在すること。




 その残酷過ぎる事実を、その身を以て学んだ。




「グロウ。次が来ます、構えて。」




「――――ちくしょうっ!!」




 グロウは飛び退いたのち、涙ながらに矢を掴み、ボウガンに束にして撃った!





「ひゃはは、とうとう泣き出して、ヤケクソになったねえ!? かっわいいわねえ~っ!! ――今更、そんな矢が当たると思ってんのか、カスがあ!!」



 やはり、束にして撃っても矢は一本も当たらない。掠りもしない。改子の軽やかなフットワークで容易く避けられる……矢はあちこちの木に刺さるだけ。




「無駄無駄ァ!! そろそろおっ死ねやコラアッ!!」
「くうっ――」




 グロウはなおも、改子の周りを円を描くように動きながら、ありったけの矢を撃ち続ける。




 だが、やはり当たらない。





「――去ねや、クソガキぃッ!!」




「ぐあっ!!」





 ――矢を避けられ、グロウは腹を蹴られて吹っ飛ばされた!




「――ごほっ、げほっ――――」





 苦痛と腹圧に咽ぶ。




「――さあ~っ……もう逃げられない。これで終わりだ!!」





 ――ナイフを振りかぶり突進しようとする改子に――――グロウは毅然と睨み、言い放った。






「――これで、いいんだ。逃げられないのは、お前だ――――!!」




「――何ィ!?」





 改子が気付いた。




 いつの間にか、グロウは糸の束のような物を持っている。





「ふんっ!!」





 非力ながらもグロウがその糸の束を引っ張ると――――無数の糸が結界のように張り巡らされた!!





 ――――金属製のワイヤーだ。激昂しながら撃っていたように見えたボウガンの矢には全て、このワイヤーが括り付けてあったのだ。もしもの時の為にボウガンを渡されたその日から、暇があれば内職のようにワイヤーを括り付ける作業をしていた――――




「――くっ……何を、はな――――」





 蔦の次は張られたワイヤーで捕縛された改子。引きちぎろうにも、ワイヤーの強度の方が勝っているようだ――――



「テイテツ!!」



「了解。光線銃《ブラスターガン》を最大出力。電磁圧パラライズモードに切り換え――――」




 テイテツは光線銃を何やらツマミを操作して切り換え、ワイヤーに銃口を当てがった。





「――プランC、完了――――!」




 引き金を引いた瞬間――――猛烈な電撃がワイヤーを走り、辺りを真っ白に照らし出した!!




「――あばばばばがががが、ぎゃあああああああーーーーッ!!」





 ――ブラスターの強力な電磁圧が、改子を襲った。





 改子は忽ち感電し――――無残な黒い塊になった。辺りに不快な悪臭が立ち込める。





「――うっく…………今度こそ、やった――――」




 グロウが嗚咽し、安堵した。





「――え!?」






 だが、どうやら勝ったのではなかった。





 何故なら、改子の黒焦げの死体が――――煙のように消えたからだ。セフィラの街でグロウと最初に出会った時と同じ――――



「――がっ!!」
「!?」





 グロウが振り向くと、テイテツが頭を蹴り飛ばされ、忽ち昏倒した。蹴り飛ばしたのは勿論――――




「お、まえ……なんで――――」





 ――感電死したはずの、改子だった。




「――ふう~っ…………やるわね、アンタら。ここまでやるとは、正直舐めてたのはこっちだわ。獲物を嬲る時の悪い癖…………油断したわね。」




 さっきまでの狂気に歪んだ喜色満面とは違い、冷静さを感じる面持ちになっている。




「あたしの練気は、こうやって相手の認知を騙す、幻覚を見せるやつ…………ホントは、奥の手を見せるまでもなく殺すつもりだったんだけどねー……」



「幻……覚――――!?」





 ――そう。




 改子はワイヤーで捕縛される直前に、実は飛び退いて回避していた。だが練気によって幻覚をグロウとテイテツに見せ…………まんまと出し抜いたのだ。





 だが、手の内は隠しておきたかったらしい。戦力的に最弱と見込んでいた2人が、思わぬ働きを見せたので一旦冷静になったようだ。




「――あたしゃ、弱い奴がいっちばん嫌い。されるがままでおっ死ぬ奴なんざ、この世界の糞っしょ。」

「――うわっ!?」


 そう呟くなり、一瞬にしてグロウに間合いを詰め――――組み伏した。





「――でも、アンタらは一応合格。せめて、気持ちいいことした後に、痛みを感じない程度に殺ったげる――――お楽しみはこれから……❤」





「――――!! やっ、やめて、離せっ!!」




 改子は、地に押さえつけたままグロウの衣服を剥ぎ取ろうとする――――貞操を蹂躙して殺す気だ――――



「――ぐっ!?」




 グロウは、せめて最後の抵抗とばかりに――――服の中に仕込んでいた最後の矢を掴み、改子の右目に突き刺した!!





「――お前らは馬鹿丸出しだッ!! こんなちっぽけな僕一人にさえ、片目を奪われたんだ――――土に還った後で、お前らがくだらない死に方をするのを…………楽しみに待っててやる!!」




 ――グロウは、初めて、呪詛を吐いた。




 それは、グロウにとって初めて人間の魂の穢れを知った瞬間だったのかもしれない。




「――――こぉのクソガキが…………!! 犯しつくして、バラバラにしてやるッ!!」





(お姉ちゃん……ガイ……テイテツにセリーナ…………ごめん。もう終わりみたい――――)




 ――グロウはとうとう、蹂躙され尽くして殺される覚悟を決め、目を閉じた――――
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。 だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。 失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。 どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。 「悪女に、遠慮はいらない」 そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。 「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。  王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」 愛も、誇りも奪われたなら── 今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。 裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス! ⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...