創世樹

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第52話 ご立派な一人前っス!!

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 ――――一行は装備を新たにし、再び旅立つ準備も調えた。出発の前にミラに挨拶に行くと…………セフィラの街の人々が何人かいる。どうやら見送りに来てくれたようだ。




「ミラさん、それにセフィラの街の皆さん。本当にありがとう!! おかげですっごく助かったわ!」



 エリーが深々と頭を下げ、他の仲間も続いてお辞儀をする。



「グロウ、行っちゃうのか? つまんねえなあ……また来いよ! また一緒に遊べるよな? な?」




「うん……大変な旅だけど、またきっと帰って来るよ。ありがとうみんな!! またね!!」




 最初に川遊びを教えてくれ、療養中も目いっぱい遊んでくれてすっかり仲良くなった街の子供たちは、別れを惜しんでグロウに声を掛ける。グロウもまた一抹の寂しさを覚えながらも、見送る子供たちには晴れ晴れとして応えた。




「エリーちゃんにガイの兄さん。この街の特産の果物は美味かっただろ? さっさと結婚して子供こさえにこの街に住みに来い、な? ワハハ!!」




「う……い、いいって……んなこたあ――――でも世話になったな。またきっと会いに来るぜ。」





 街の年配の者からも将来を祝福する温かい声を掛けられ、照れつつも気持ちはありがたく感じ入るガイ。





「テイテツの兄ちゃん。俺ぁもう少しこの街に滞在するし目的地も逆だ。ここでお別れだあな。短い間だったが、あんたらにその装備品やら鉱石の価値について考える助けになったんなら嬉しいわ。学の深い話も沢山聴けて楽しかったぜ。達者でな」





 鉱石について専門的な意見をくれた行商の男。彼もイロハが行なう鍛冶に大きく貢献してくれた。





「ありがとうございました。これも後学の助けとしていきます」





 相も変わらず端的に素っ気なく礼を述べるテイテツ。だがそれでも行商の男は蓄えた顎髭を揉みながらも満足そうに頷く。





「――――皆様、この街を御守り頂いて本当に感謝しております。ありがとうございました――――セリーナ様。何度も言いましたが、私はここを守ります。貴女様が新しい強さを手にして、納得して帰ってくるまで、居場所を守り続けます。どうか……健やかなる旅路をお祈りいたします。」





「――本当に、ありがとう、ミラ。私は必ず帰ってくる。ミラと幸せに暮らす為に必ず…………お互い寂しくなるが、待っていてくれ…………」





 セリーナとミラは、別れを惜しみつつ…………ひと度抱擁し、お互いの背中をポンポン、と優しく叩いた。





 街の衆の前にイロハは1歩、2歩と歩み出て周囲を睥睨し、頷いた。




「よっしゃ! 挨拶も準備も万端ッスね! じゃあ親父! 行くッスよ!!」





 そうして親父の方を向き直るイロハだったが、意外な言葉が返ってきた。





「おう。イロハ。おめえとはここでしばらくお別れだ。達者でな――――」





「――は? えっ?」





 何と、当然ついて来ると思っていたイロハの親父は、ここで別れると言う。戸惑うイロハ。





「エリーさんたちと俺ら親子の飯や宿やあれこれ……世話になった対価が今すぐ充分払えねえ以上、誰かがここに残って保証人になっておかなきゃなんねエ。まあ、借金のカタ代わりみてえなもんだな。」





「――な、何言っているっスか、親父! そこまでする必要ないっス! 今まで通りついてきてくれれば――――」





 戸惑うイロハに、親父は静かに語りかける。




「――――イロハよ。おめえは16歳。まだ若え。若いのに、俺ら親やご先祖様が培ってきた鍛冶錬金術師としての技も、商売人としての頭脳も全ておめえは習得しやがった。薄々思ってたが、もう一人立ちしても良い頃だ…………俺ぁもう気力も体力も盛りはだーいぶ過ぎちまった。腹も出っ張ってきたし、膝も痛え。だいぶ疲れちまったんだよ、アテのない長旅にはな。その長旅もイロハ。おめえを育て上げる為だったんだよ。そろそろ俺ぁ腰を落ち着けて、1つの街の職人として余生を過ごしてエ。」





「お……親父ぃ…………」





 ――初めて聴くと言ってもいい情けない声。豪快で胆力も凄まじいイロハが、親父から切り出された突然の別れに、煤にまみれた顔でもハッキリ解るほどに表情を曇らせた。





「……そんな顔すんじゃあねえ。おめえはもう一人前に成長した。これからまだまだ成長すっだろう。俺には解る。これから先の旅には想像を絶する苦難も待ってる。それには、俺みたいな足手まといの爺が付いて回るより、同じくれえ若い冒険者と行動を共にする方がよっぽど逞しく成長する。心も、身体も、技も――――だからそんな顔してんじゃあねえよ。今生の別れなんかじゃあねえ。俺はこの街で余生のついでに、若い連中に鍛冶錬金術師の技を伝えていくさな。」



「………………」





 『借金のカタ』などという言い方は恐らく湿っぽいのを嫌う親父の方便だろう。だが、真意はしっかりとイロハに伝わっていた。





 16歳という若さに加えて、既に親父を超える実力を身に付けたイロハは、親元にいつまでもいるより旅に出した方が良い。『かわいい子には旅をさせよ』。イロハの一層の活躍と成長を願う父にとっては、我が子を野に放つことこそが重要だったのだ。





 しばし俯くイロハだったが――――すぐに頷いた。





「――解ったっス!! 親父はこの街で、ウチはエリーさんたちと世界中で鍛冶錬金術師としての技を振るっていくッス!! でも親父! せめて天寿を迎える前には連絡入れるっスよ!!」




「ぬははは!! 舐めるんじゃあねえ、娘っ子よ!! 簡単にくたばってたまるかってんだ。いつか、『どこそこの国に世界一繁盛してる店の店主・タタラ=イロハあり!!』という広告を目にするまではな!!」





「――――ッ!!」





 ――激情が込み上げ、忽ちイロハは両の目から滝のような涙を流した。





 だが、すぐに顔を腕で乱暴に擦り、涙も止めた。涙で顔の煤や泥が少し落ちた。温かな微笑みを親父に返した。





「――――はいっス!! 親父、元気で! 超元気でいてくれッス!!」





 親父は最後に、イロハの紫の頭巾越しに頭を荒々しく撫でたのち、背中をバンッと強く掌で叩いた。




「……イロハちゃん…………本当にいいの?」




 心配そうに、エリーも声を掛けるが、イロハは既に平生の豪快な笑みで返した。





「これで良いんス!! 2手に分かれた方が鍛冶錬金術師としての技は種を蒔くようにもっと世界中に根付くっス!! これ、ウチらの家訓でもあるっス。今がその時だったってだけっスよ!!」





 そうしてイロハは大量の荷物を巨大なリュックサックに背負い、森の向こうを指差して高らかに、快活に叫ぶ。もはや別れの悲しみも寂しさも無い。





「――――さあ! まず目指すは東の砂漠のカジノ都市・シャンバリア!! 共に来て…………そんでバリバリジャンジャン稼ぐっスよー!!」





 ――エリー一行は、改めてミラをはじめ街の人々に一礼したのち、旅立った――――






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 そうして、エリー一行は再び森の中を東へ向け駆けていた。





 エリーが、そのとてつもない視力を以て目まぐるしく木々が生い茂る中、危険が無いか目視で警戒しつつ、ガイの運転の補助をする。





 セリーナは知覚鋭敏化の感覚が鈍っていないか、瞼を閉じ精神統一。グロウは補充したボウガンの矢にワイヤーを括り付ける作業の傍ら、読書。テイテツはいつも通り2階席でレーダー類をチェックしつつ、イロハが作ってくれたパーツからどう端末を組み上げるか設計図を手持ちの端末に入力していた。




 ――さて、そのイロハはどこにいるのかと言うと――――





「――ヒューッ!! 湿った風が段々乾いてきたッスねー! きっともう少しで砂漠地帯に近付くっスー!!」





 ――――ガンバの横を大型の自動二輪車。つまりはバイクに跨り並走していた。





 ただの乗用車のようなバイクではなく、あらゆる武器や道具類、そして大量の工具類や錬金の為の荷物、薬品がギューギューに詰めてあり、かなり大きい。





 頑強な装甲も張ってあるそれは、もはやバイクと言うより二輪の戦車のようであった。実際、手元のコントロールパネルを取り出してボタン操作ひとつで車体の前面から小型ミサイルやら鋭器類やらアンカーやらが射出出来るようにしてある。限りなく戦車に近いバイクだった。





 そのゴツく巨大なモンスターバイクを、イロハは力強くハンドルを切り、ペダルを踏み替え、猛烈なエンジンを唸らせ早馬の如く疾走している。超ハードなモトレーシングを上回る激しいスリル感とスピード感。これを臆せず乗りこなせる者はそうそういないだろう。しかも巧みに障害物を躱したり飛び越えたりしている。改造したガンバに負けず劣らず悪路をものともしない。





「――イロハー!! その走る鋼の馬みたいなのカッコイイねー!!」





「FOOー!! グロウくん、バイク知らないんスか!! そうっしょ、そうっしょーッ!? ウチが初めて親父に『業物』と認めた貰えた一品っス!! 宇宙にただひとつきりのバイクッスー!!」





「……武人としての訓練を積んだわけでもないのに、その運転……いや、『操縦』捌き。やるな…………私の空中走行盤エアリフボードとどっちが乗りこなすのが難しいかな」



「さっきから思ったけど、やっぱイロハちゃんのバイク、カッコイイわねー!! あたしにも今度乗せてよー!!」




「ムムッ!? ダーメッス!! 駄目に決まってるっス!! こりゃあウチの大事な旅の脚なんスから!! 整備もウチがやるっス! 何より、一品もののお宝っスよ!? よっぽどの非常時を除いて、指一本触れちゃならんっス!!」





「ええー!? ケチー!!」





「にっひっひっひ!! 何とでも吠えるっス!! つーかエリーさん、その気になって『鬼』の力とやらを使えばバイクより速く走ったり空飛んだり出来るじゃあないっスか!! 贅沢っス!! 勝手に乗ったら……乗る度に請求額に10万ジルドプラスするっスよー!?」




「うっ……ぬぬぬ…………気を付けますぅー!! ちぇっ、さすが商売人。ケチ臭いわねー……」





 普段からスリルを求めるきらいのあるセリーナとエリー。実際、彼女たちほどの身体能力とセンスがあればこのモンスターバイクすら乗りこなせるだろう。だがそこは商売気質のイロハ。勝手に乗れば罰金という厳しさ。エリーだけでなく、セリーナもやや落胆する。





「――むおっ!! 見えてきたッス、見えてきたッス!! 森林地帯の出口が!! でも砂漠に出るのは明日にして……今日は出口付近でキャンプにするっスよー!!」




「あーい、りょうかーい」
「あいよ」
「了解です」
「わかった……」
「テント張りの準備しとくね!!」






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 遠くにうっすら砂漠地帯が見える森の出口付近。日が暮れ行く中、エリー一行は速やかにキャンプインの準備を進め、木々に器具を括り付けながらテントを張り、食事の準備をする。





「……イロハちゃんもあたしらのテントに入るの?」



「ありゃ、いいんスか!? ……むー……でもテントのスペースが足りなくないっスか?」



「あっ……それもそっか~……」




「木の枝使ってハンモックにすりゃあ、女1人分ぐれえ空くだろ。そんなに暑くも寒くもねえし、誰か外で寝てもいいんじゃあねえか? 俺ぁ構わねえぜ」





 エリーの厚意に、さりげなくガイは笑顔で提案する。




「そっか! そうよね! いいわよイロハちゃん。寝袋、持ってるわよね?」




「勿論っスよ!!




 イロハは荷物から荒々しく寝袋を取り出し、テントの近くに投げるように置いた。




 だが、取り出した時に引っかかったのか、何か別の物も飛び出て来た。




「――おっと。うふへえへへへへへ…………そういやあ、セフィラの街の行商から買ったやつがまだ堪能してなかったっスねえ~…………」





 ――何やら、不気味な笑みを浮かべる。





「え~、何なに? 本かな――――うっわあ…………!! 人と人が裸で絡み合ってる~!!」




 ――無邪気に手に取るグロウの言葉に、一同がぞわっとした空気を撫で付けられた。




「……イロハ、ちょっと……エロ本? エロ本なの……?」




 エリーは恐る恐る尋ねる。





「エロ本!? 失敬なことを言うもんじゃあないっス!! これは『よいしょ本』!! 世界中で取引される男色も女色も幅広く取り扱う同好の士による創作漫画と小説っス!!」





 おもむろにグロウから『よいしょ本』を奪い返し、物陰で1人、イロハは読み込む……。





「――にひひひ……うおっ!! マジっすか!? あのイケメン軍官と盗賊団のお頭との激しい夜…………ッ!! さらに、地方の巫女さんと都会のお嬢とのアブノーマルな蜜月も――――くほおっ!! よいっしょおおおおおおおお!! こりゃあたまんないっスうううううううう…………!!」





 ――――男と男、女と女が複雑に絡み合う本を読んで、激しく高揚しながら低い声で笑ったり、嬌声を上げているイロハ。





 ちなみに『よいしょ本』というのはお察しの通り、同人誌の遙か古い呼び方である。





「……あ、あの~……あのね、イロハちゃん。エッチな本読んでるとこ悪いんだけど…………それ、16歳のあんたが読んでていいもんだっけ…………?」





「ぐふふふふ――んあっ? ウチの国では15歳で大体成人っスよ? もっとも、よいしょ本は今のとこ年齢制限なんか無いっス!! 好み、嗜好、地雷ごとにゾーニングされてる程度なんスよ。夕食の頃合いになったら声掛けて欲しいっス。ウチも自分の分ぐらいは食料持ってるし……でも今は浸らせて欲しいっス!! ――――ああ~…………この肌のラインの描線の表現! この艶やかで陶酔した目付きの描き方っ!! たまんないっス~っ!! ぬふふふふへへっへへへ――――」





「うわあ~……否定はしないけど、うわあ~……」

「……グロウ、イロハの本は勝手に読まないでおこう。その、私物だからな。何より性の倫理がこんがらがることに……」

「え~っ! 気になるよお。セリーナ、何で僕の目を隠すの? 離してよ~!」

「――ハンモックで寝る奴決まりだな。イロハ。てめえだけは外で寝ろ。俺らのテントで寝てみろ。悪夢に魘されながら泣くからな。俺が。」






 ――――改めて強烈な個性を持つ仲間が増えたと意識すると同時に、イロハ以外の一同はさっさと夕食の準備をするのだった。
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