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第73話 道を求めて
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――グロウがタイラーとテイテツの助力で検査を始めた一方。エリーたち武闘派3人は、あのガラテア軍の特殊部隊4人のような凶悪な敵にも打ち勝つ力を欲し、更なる修行をここニルヴァ市国、自らの『道』を求めて求道者が訪ねてくる地で始めるべく、取り敢えず日課の朝稽古を終えた。
だが……肝心の『修行』とやらは何をどうすれば良いのか、誰を頼っていけばいいのかさっぱりわからない状態であった。何とも間抜けな情況にからっ風が吹く風情だ。
3人が『どうしたもんだ、これ』と項垂れかけた時……一行の中で比較的に朝はゆっくりなイロハがエリーたちを見つけ、走って声をかけてきた。
「――オイーッス!! 皆さん今朝も早いっスねえ~!! もう修行、始めてんスか?」
低血圧の人には羨ましいほどに朝から快活な笑顔と声を向けて来るイロハにエリーがばつが悪そうに言った。
「いやあ……その、修行したいのはもっともなんだけどね…………肝心の修行。何から始めりゃいいのか、誰を頼っていきゃいいのかさっぱりわかんなくってさあ……」
「ぶっはああっ!?」
イロハは盛大に吹き出し、腕をだらりと下げて俯いてしまう。
「――マージっスか…………エンデュラ鉱山都市脱出からセフィラの街のはぐれ軍人さんとの死闘を経て…………修行の為にここまで来たっつってたじゃあないっスかあ~…………てっきりグロウくんの検査だけじゃあなくてそっちも伝手があるもんだと思ってたっスよ~……」
「その様子だと、イロハも知らねえみてえだな…………やれやれ……どっかに俺たちに手解きしてくれるような猛者はいねえもんかよ…………」
ガイは取り敢えず朝稽古に使う訓練用装備を仕舞いつつ、辺りを見回しながら呟く。
「……元々テイテツがここの、タイラー、だったか? あいつを頼って来たんだろう。テイテツかタイラーなら何か知ってるんじゃあないのか? ……私はあまりあの男に頼むのは気が進まないが。」
確かにテイテツが連絡し、頼みとしたのはタイラー。ニルヴァ市国に自宅と研究所を構えるぐらいだから、この土地に馴染みも深いだろう。修行者の行くべき処ぐらいは知っている可能性が高い。
しかしガラテアの狂気的な研究に禍根を持つセリーナは、つい渋々とした表情で言ってしまう。
「確かにあいつを頼るのは……俺も解るが、嫌がってる場合かよ。仕方ねえ、聞きに行くか?」
修行の為に、背に腹は代えられない。ガイがガラテアやタイラーとの禍根に一旦目をつぶって、彼のもとを訪ねようとした、その刹那――――
「――それには及ばんよ、若人たちよ。」
――朝霧の中から人影が2つ。サンダルのような靴の、かしゃっ、かしゃっと足音立てて現れたのは…………この高山の8合目付近から護衛を務めてくれた禿頭の僧侶、ヴィクターとカシムだった。ヴィクターは野太いながらも落ち着いた声で告げる。
「タイラーから聞いておるよ。エリーにガイ、そしてセリーナ。君たちにはうってつけの修行……そう。俺たちと同じ『練気』を開花させる為の修行の手解きをしよう。」
「何でも、ガラテア軍の中の練気を操る連中と死闘を繰り広げたそうじゃあないか。よく生命が長らえたものだ…………そんな連中とも対等以上に立ち会う為にも、私たちが相応しい術を教えよう。」
「練気を!?」
「やっぱそうだよな」
「うむ……」
ライネスたちガラテアの特殊部隊4人の強襲を受け、辛くも生き延びたエリーたち。練気使いの恐ろしさ、そして強さは身に染みて知っている。
戦闘における強さの探求ならば、確かに練気の習得がいいのかもしれない、と内心思っていた一行。幸いなことに、先ほどの練気と思われる能力で窮地を救ってくれた僧侶2人が修行を付けてくれるという。
「そいつはありがてえ。だが…………俺たちゃ練気ってもんを本当につい最近、あのガラテア軍の特殊部隊の糞野郎どもを相手にしてようやく知ったような程度だぜ。こんな状態の俺らが会得出来るような……そんな資質はあるのか?」
修行を受けるのはありがたく思いつつも、自らの資質を疑い、ガイは言う。
ヴィクターとカシムはガイの疑念に対しハッキリとした動きで首肯した。
「資質なら……充分にあるとも。ガイとセリーナ。君たち2人には、俺たちの目から見てハッキリと……練気のエネルギーの流れをある程度コントロール出来ているのが見える。恐らく会得までそう長くはかかるまい。そして…………エリー、君は…………」
ヴィクターは、ひと際『末恐ろしいものだな』と言った風情で、エリーを見遣る。代わりの言葉を、傍らのカシムが続ける。
「エリー。君はガラテア軍の生物実験で産み出されたのだったね。それ自体は全くもって悲劇的なことだ。だが、君は並みの練気の資質がある者に比べて…………遙かに恵まれた資質と才能を持っている。自己流だろうが、何だったらもう練気を会得していると言ってもいいレベルに達している…………」
「あたしが…………そこまで――――!?」
――やはり、エリーの『鬼』の力由来と思われた能力は、練気と繋がりがあった。あのライネスと死合った時に「練気を使いこなしている」と言った彼の見解は妄言などではなかったのだ。
「――強力過ぎる力は、ただ持て余してしまうのは恐ろしかろう。力と精神を制御出来ずに屍山血河を積み上げてしまった悲しみと惨さが……君の練気の流れから伝わってくる…………練気はその者の精神の在り様がダイレクトに出るものだ。力に振り回され、さぞ辛い思いをしたことだろう――――」
「――あ…………」
ヴィクターはそう告げて、例の拳を合わせる一礼を以てエリーの、否。エリーの悲しき力そのものに瞑目した。この2人には、エリーの強過ぎる力ゆえの苦しみが理解出来たようだ…………。
自分の力に対して、相対する敵からは化け物と謗られ、最も近しい恋人のガイからですらもどうしても恐れられてしまう。
そんな自分の呪われた力に、ここに来て初めて、本当は他者を殺したくなどないのに…………制御出来ない強過ぎる力を持つことの悲しみと残酷さを理解し、分かち合う人がようやく現れた――――エリーは初めて向けられる想いに言葉を詰まらせた。
「だが、安心し給え。確かに強力な練気を常に身に纏っているが、自己流で扱ってきたそれはやはり荒々しく不安定だ。修行によりもっと繊細に、もっと正確にその力を理性を持ってコントロールすることが可能になるはずだ。俺たちのように、制御してこその力だからな。」
「ここで徹底的に修行を積んでおけば、ただ力を抑えるだけでなく、むしろもっと高い出力で開放しつつも理知を持って己を制御することも可能になるはずさ。君はまだまだ強くも優しくもなれる! 私たちが助力しよう。もちろん、ガイとセリーナもな。」
「――本当に!?」
「やったな……エリー!!」
思いもよらぬ修行の意味。そして目指すべき目標に、エリーとガイは感極まってしまった。2人共目に涙すらたたえる。最も身近で苦楽を共にして来た者同士の切なる想いだ――――
「――さて…………気を取り直して。俺から具体的な修行の中身を教えるが…………その前に問いたい。君たちは、どんな『強さ』を得たい? どんな『強さ』を目指しているのだ――――?」
「む……」
「それは…………」
思いがけず、シンプルでいて深遠な問いかけだ。『強さ』を得て何がしたいのか。どんな『強さ』を目指したいのか。
目標の確たるを得ない修行に人はまず耐えられないものだ。いざ問われてみると、口ごもってしまう。
「――あたしは…………今教えてくれたことと同じ! もっと強く、もっと優しくなる為に力を制御したい!! 自分と、みんなを危険から守る為に――――!!」
「おっ……」
「素晴らしい。」
――だが、エリーは即答した。言葉にしてみればシンプルなことだ。ヴィクターとカシムが満足そうに頷く。
もっと自らの秘める力を強くしつつ、コントロールしたい。自分や大切な人を守る為に。
シンプルだが、それゆえに果ての無い、難しい修行の道のりとなりそうだ。
「――俺ぁ…………なんつーか…………そう。こいつと同じ。誰かを守る為にもっと力を付けてえ。その為には練気なんかもどんどん身に付けて、剣も鋭く振るえるようになりてえ。」
「――強さ…………強さか…………改めて問われると、私は解らなくなってしまう…………ただ武力だけを漫然と鍛えていては駄目なことは解っているんだが……ただ、私が力だけでなく、心も成長して帰ってくるのを待っていてくれる人がいる。その人の伴侶に相応しい人間に、私はなりたい……と思う。」
ガイとセリーナは問いかけに戸惑いつつも、自分の中から言葉を探し、述べてみた。
「――ふむ。エリーほどの確たる心胆はまだ備わっていないようだが…………まあ最初はそんなものだろう。2人共練気による強さを求めるに充分だと思うよ。」
ヴィクターが頷き、次にカシムがイロハにかぶりを振る。
「――君はどうなんだ。イロハ。」
「――ハイ!? ウチもっスか!?」
――てっきり自分は門外漢だと思っていたイロハ。急に自分にも問われたので思わず小動物のような驚きの声を上げてしまう。
「……うーん…………確かに……その練気って力が使えれば色々便利そうっスけど…………ウチはどっちかっつーと、戦闘の為の強さより…………もっと自分の鍛冶錬金術師の技や商売に役立つような力が良いっス。そりゃ、多分練気とかとは違う分野の『強さ』だと思うっス…………そう! ウチは商売をもっとやりたいんス!! ガラテア側にいるより商売してた方が幸せっスよ、ってみんなを幸せに、豊かに出来るようなモン。それがウチの求める『強さ』ッス!!」
――イロハは所々言いよどみながらも、明確な言葉で答えた。戦闘の力ではなく、求めるのは産業的な強さであると。
「――ほう……それもまた殊勝な心掛けだな。ある意味、この3人よりも資質がある。」
「商いと職人の技術力か。そういう『道』を求める者もこのニルヴァ市国には結構いるよ。蛇の道は蛇。君の求める強さを得たいなら、ずばりこの街でビジネスをしているあらゆる商人や技術者と会ってみるといい。タイラーのような研究者はもちろん、酒場など人の出入りが多い処にそういう類いの人は多いよ。」
――ヴィクターがより強く頷き、次いでカシムが具体的にイロハにアドバイスした。イロハには練気の修行はともかく、技術者と商売人としての力を求めるのが目標と聞き、2人の僧侶はある意味最も世の為になるような『道』を目指そうとするイロハに敬服したようだ。
「――よし。では3人とも俺たちについて来給え。早速練気を操る為の基本から教えよう。今はタイラーが検査をしているようだが……念の為グロウにも練気の修行をしたいか、訊かねばな。」
「よっし!! お願いしまっす!!」
「これからよろしく頼むぜ、ヴィクター。カシム。」
「よろしくご指導ご鞭撻のほどを――――」
3人が一礼した後、ヴィクターとカシムについて行った。
「――おーし!! ウチもこうしちゃいられんっス! この街の職人と商売人の技は余さず身に付けるっスよー!! ――新しいよいしょ本もきっとあるっス。ぬふふふふ――――」
そう不穏に呟いて笑みを浮かべ、イロハもまた、手始めにあの飲食店を訪ねて走ることにした。
――――こうして、エリー一行の修行の道のりのスタートラインへと到達した――――
だが……肝心の『修行』とやらは何をどうすれば良いのか、誰を頼っていけばいいのかさっぱりわからない状態であった。何とも間抜けな情況にからっ風が吹く風情だ。
3人が『どうしたもんだ、これ』と項垂れかけた時……一行の中で比較的に朝はゆっくりなイロハがエリーたちを見つけ、走って声をかけてきた。
「――オイーッス!! 皆さん今朝も早いっスねえ~!! もう修行、始めてんスか?」
低血圧の人には羨ましいほどに朝から快活な笑顔と声を向けて来るイロハにエリーがばつが悪そうに言った。
「いやあ……その、修行したいのはもっともなんだけどね…………肝心の修行。何から始めりゃいいのか、誰を頼っていきゃいいのかさっぱりわかんなくってさあ……」
「ぶっはああっ!?」
イロハは盛大に吹き出し、腕をだらりと下げて俯いてしまう。
「――マージっスか…………エンデュラ鉱山都市脱出からセフィラの街のはぐれ軍人さんとの死闘を経て…………修行の為にここまで来たっつってたじゃあないっスかあ~…………てっきりグロウくんの検査だけじゃあなくてそっちも伝手があるもんだと思ってたっスよ~……」
「その様子だと、イロハも知らねえみてえだな…………やれやれ……どっかに俺たちに手解きしてくれるような猛者はいねえもんかよ…………」
ガイは取り敢えず朝稽古に使う訓練用装備を仕舞いつつ、辺りを見回しながら呟く。
「……元々テイテツがここの、タイラー、だったか? あいつを頼って来たんだろう。テイテツかタイラーなら何か知ってるんじゃあないのか? ……私はあまりあの男に頼むのは気が進まないが。」
確かにテイテツが連絡し、頼みとしたのはタイラー。ニルヴァ市国に自宅と研究所を構えるぐらいだから、この土地に馴染みも深いだろう。修行者の行くべき処ぐらいは知っている可能性が高い。
しかしガラテアの狂気的な研究に禍根を持つセリーナは、つい渋々とした表情で言ってしまう。
「確かにあいつを頼るのは……俺も解るが、嫌がってる場合かよ。仕方ねえ、聞きに行くか?」
修行の為に、背に腹は代えられない。ガイがガラテアやタイラーとの禍根に一旦目をつぶって、彼のもとを訪ねようとした、その刹那――――
「――それには及ばんよ、若人たちよ。」
――朝霧の中から人影が2つ。サンダルのような靴の、かしゃっ、かしゃっと足音立てて現れたのは…………この高山の8合目付近から護衛を務めてくれた禿頭の僧侶、ヴィクターとカシムだった。ヴィクターは野太いながらも落ち着いた声で告げる。
「タイラーから聞いておるよ。エリーにガイ、そしてセリーナ。君たちにはうってつけの修行……そう。俺たちと同じ『練気』を開花させる為の修行の手解きをしよう。」
「何でも、ガラテア軍の中の練気を操る連中と死闘を繰り広げたそうじゃあないか。よく生命が長らえたものだ…………そんな連中とも対等以上に立ち会う為にも、私たちが相応しい術を教えよう。」
「練気を!?」
「やっぱそうだよな」
「うむ……」
ライネスたちガラテアの特殊部隊4人の強襲を受け、辛くも生き延びたエリーたち。練気使いの恐ろしさ、そして強さは身に染みて知っている。
戦闘における強さの探求ならば、確かに練気の習得がいいのかもしれない、と内心思っていた一行。幸いなことに、先ほどの練気と思われる能力で窮地を救ってくれた僧侶2人が修行を付けてくれるという。
「そいつはありがてえ。だが…………俺たちゃ練気ってもんを本当につい最近、あのガラテア軍の特殊部隊の糞野郎どもを相手にしてようやく知ったような程度だぜ。こんな状態の俺らが会得出来るような……そんな資質はあるのか?」
修行を受けるのはありがたく思いつつも、自らの資質を疑い、ガイは言う。
ヴィクターとカシムはガイの疑念に対しハッキリとした動きで首肯した。
「資質なら……充分にあるとも。ガイとセリーナ。君たち2人には、俺たちの目から見てハッキリと……練気のエネルギーの流れをある程度コントロール出来ているのが見える。恐らく会得までそう長くはかかるまい。そして…………エリー、君は…………」
ヴィクターは、ひと際『末恐ろしいものだな』と言った風情で、エリーを見遣る。代わりの言葉を、傍らのカシムが続ける。
「エリー。君はガラテア軍の生物実験で産み出されたのだったね。それ自体は全くもって悲劇的なことだ。だが、君は並みの練気の資質がある者に比べて…………遙かに恵まれた資質と才能を持っている。自己流だろうが、何だったらもう練気を会得していると言ってもいいレベルに達している…………」
「あたしが…………そこまで――――!?」
――やはり、エリーの『鬼』の力由来と思われた能力は、練気と繋がりがあった。あのライネスと死合った時に「練気を使いこなしている」と言った彼の見解は妄言などではなかったのだ。
「――強力過ぎる力は、ただ持て余してしまうのは恐ろしかろう。力と精神を制御出来ずに屍山血河を積み上げてしまった悲しみと惨さが……君の練気の流れから伝わってくる…………練気はその者の精神の在り様がダイレクトに出るものだ。力に振り回され、さぞ辛い思いをしたことだろう――――」
「――あ…………」
ヴィクターはそう告げて、例の拳を合わせる一礼を以てエリーの、否。エリーの悲しき力そのものに瞑目した。この2人には、エリーの強過ぎる力ゆえの苦しみが理解出来たようだ…………。
自分の力に対して、相対する敵からは化け物と謗られ、最も近しい恋人のガイからですらもどうしても恐れられてしまう。
そんな自分の呪われた力に、ここに来て初めて、本当は他者を殺したくなどないのに…………制御出来ない強過ぎる力を持つことの悲しみと残酷さを理解し、分かち合う人がようやく現れた――――エリーは初めて向けられる想いに言葉を詰まらせた。
「だが、安心し給え。確かに強力な練気を常に身に纏っているが、自己流で扱ってきたそれはやはり荒々しく不安定だ。修行によりもっと繊細に、もっと正確にその力を理性を持ってコントロールすることが可能になるはずだ。俺たちのように、制御してこその力だからな。」
「ここで徹底的に修行を積んでおけば、ただ力を抑えるだけでなく、むしろもっと高い出力で開放しつつも理知を持って己を制御することも可能になるはずさ。君はまだまだ強くも優しくもなれる! 私たちが助力しよう。もちろん、ガイとセリーナもな。」
「――本当に!?」
「やったな……エリー!!」
思いもよらぬ修行の意味。そして目指すべき目標に、エリーとガイは感極まってしまった。2人共目に涙すらたたえる。最も身近で苦楽を共にして来た者同士の切なる想いだ――――
「――さて…………気を取り直して。俺から具体的な修行の中身を教えるが…………その前に問いたい。君たちは、どんな『強さ』を得たい? どんな『強さ』を目指しているのだ――――?」
「む……」
「それは…………」
思いがけず、シンプルでいて深遠な問いかけだ。『強さ』を得て何がしたいのか。どんな『強さ』を目指したいのか。
目標の確たるを得ない修行に人はまず耐えられないものだ。いざ問われてみると、口ごもってしまう。
「――あたしは…………今教えてくれたことと同じ! もっと強く、もっと優しくなる為に力を制御したい!! 自分と、みんなを危険から守る為に――――!!」
「おっ……」
「素晴らしい。」
――だが、エリーは即答した。言葉にしてみればシンプルなことだ。ヴィクターとカシムが満足そうに頷く。
もっと自らの秘める力を強くしつつ、コントロールしたい。自分や大切な人を守る為に。
シンプルだが、それゆえに果ての無い、難しい修行の道のりとなりそうだ。
「――俺ぁ…………なんつーか…………そう。こいつと同じ。誰かを守る為にもっと力を付けてえ。その為には練気なんかもどんどん身に付けて、剣も鋭く振るえるようになりてえ。」
「――強さ…………強さか…………改めて問われると、私は解らなくなってしまう…………ただ武力だけを漫然と鍛えていては駄目なことは解っているんだが……ただ、私が力だけでなく、心も成長して帰ってくるのを待っていてくれる人がいる。その人の伴侶に相応しい人間に、私はなりたい……と思う。」
ガイとセリーナは問いかけに戸惑いつつも、自分の中から言葉を探し、述べてみた。
「――ふむ。エリーほどの確たる心胆はまだ備わっていないようだが…………まあ最初はそんなものだろう。2人共練気による強さを求めるに充分だと思うよ。」
ヴィクターが頷き、次にカシムがイロハにかぶりを振る。
「――君はどうなんだ。イロハ。」
「――ハイ!? ウチもっスか!?」
――てっきり自分は門外漢だと思っていたイロハ。急に自分にも問われたので思わず小動物のような驚きの声を上げてしまう。
「……うーん…………確かに……その練気って力が使えれば色々便利そうっスけど…………ウチはどっちかっつーと、戦闘の為の強さより…………もっと自分の鍛冶錬金術師の技や商売に役立つような力が良いっス。そりゃ、多分練気とかとは違う分野の『強さ』だと思うっス…………そう! ウチは商売をもっとやりたいんス!! ガラテア側にいるより商売してた方が幸せっスよ、ってみんなを幸せに、豊かに出来るようなモン。それがウチの求める『強さ』ッス!!」
――イロハは所々言いよどみながらも、明確な言葉で答えた。戦闘の力ではなく、求めるのは産業的な強さであると。
「――ほう……それもまた殊勝な心掛けだな。ある意味、この3人よりも資質がある。」
「商いと職人の技術力か。そういう『道』を求める者もこのニルヴァ市国には結構いるよ。蛇の道は蛇。君の求める強さを得たいなら、ずばりこの街でビジネスをしているあらゆる商人や技術者と会ってみるといい。タイラーのような研究者はもちろん、酒場など人の出入りが多い処にそういう類いの人は多いよ。」
――ヴィクターがより強く頷き、次いでカシムが具体的にイロハにアドバイスした。イロハには練気の修行はともかく、技術者と商売人としての力を求めるのが目標と聞き、2人の僧侶はある意味最も世の為になるような『道』を目指そうとするイロハに敬服したようだ。
「――よし。では3人とも俺たちについて来給え。早速練気を操る為の基本から教えよう。今はタイラーが検査をしているようだが……念の為グロウにも練気の修行をしたいか、訊かねばな。」
「よっし!! お願いしまっす!!」
「これからよろしく頼むぜ、ヴィクター。カシム。」
「よろしくご指導ご鞭撻のほどを――――」
3人が一礼した後、ヴィクターとカシムについて行った。
「――おーし!! ウチもこうしちゃいられんっス! この街の職人と商売人の技は余さず身に付けるっスよー!! ――新しいよいしょ本もきっとあるっス。ぬふふふふ――――」
そう不穏に呟いて笑みを浮かべ、イロハもまた、手始めにあの飲食店を訪ねて走ることにした。
――――こうして、エリー一行の修行の道のりのスタートラインへと到達した――――
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