創世樹

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第77話 目亘改子の場合

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「――――目亘改子《めわたりかいこ》。こいつは…………多分、4人の中でいっちばんヤベえ女だよな……」




「――ああ……普段からの喋り方、口の悪さや態度もヤベえヤンキーのそれだしな。実際、4人の中で一番喧嘩っ早い。何度こいつの気分を損ねた兵や研究員がぶっ殺されたことか…………おっかねえ。」




「こうして眠ってる分にはイイ女に見えなくもないのにな。あっ、そういやあ……こいつ、メラン=マリギナと乱淫してんだっけ……記憶映像にも意外と鮮明に残ってるよな。見るか?」




「やぁーめろぉーう。一応女性のプライバシーだぞ。生々しいことこの上ねえし。性の多様性は科学者としては認めざるを得ないが、同性愛は、今んとこ非生産的かもな。ガラテアの理念にはあまり適ってねえ。」




 ――――先ほどのライネス=ドラグノン同様、強化ガラス越しに研究員たちは、眠っている改子に聴こえないことをいいことに、好き勝手に思慮の浅いことまで口走り、一方的に軽蔑する。




「――しかし……メワタリカイコ。珍しい名前だよな。元々の署名にあった文字も、世界的にあまり見ない文字みたいだったし。」





「こいつは……確か、東方の僻地・ヤパンの生まれだよ。商業都市・サカイと同盟関係にある小さな国だ。何でも、流罪にされてガラテアへと至ったとか――――」







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 ――――研究員の言う通り、目亘改子は東方の僻地・ヤパンと呼ばれる小国から流れて来た者だ。






 元々、改子の父は祖国の為政者に仕える、官職…………要するに宮仕えをしている身だった。





 家族は父と母の他に、弟もいた。皆、父が官職だったこともあり、父によく従い、助け合って、それなりに良い暮らしをしていたらしい。






 ――――ある時、ヤパンで小さいとはいえ国家を揺るがすクーデター事件が勃発した。






 改子の父は官職とはいえ全くの無実だったのだが、クーデターが勃発した際に嫌疑を掛けられ――――処刑された。





 残る改子と母と弟は、遙か西の方角へ島流しに処された。






 それなりに安定していたはずの家族は一転。日々生命の危機に晒される過酷な流刑の旅を余儀なくされた。







 ――そこからが彼女の苛烈極まりない人生の始まりであった。






 何とか生き延びようと、流される先々で物乞いや窃盗。時には身を守る為だけでなく、路銀を得る為に殺人も犯した。






 『弱い者は食い潰される』。他人から何の助力も援助も得られなかった改子は、人間社会において、その弱肉強食の苛烈なる真理を骨身に刻むこととなってしまった。






 そんな荒んだ生活を続けていたある日…………とうとう改子たちは同じような境遇の野盗に襲われ、母と弟が捕まった。






 改子は、家族を救う為、往来の人々に助けを求めた。泣き泣き、慈悲を乞うた。






 だが、自分たちと同じようにボロを着て泥に汚れ、無一文の貧しい思いをしている往来の者たちの目は、自分たちと同じく、等しく淀んでいた…………誰一人として、救いの手を差し伸べる者など現れなかった。






 もはや、自分の手だけが頼りか。そう思った改子は盗んできた短刀を手に、母と弟が捕らわれている野盗のもとへ戻った。







 だが――――全ては遅すぎた。弟も母も、野盗のひと時の慰み物とばかりにズタズタに凌辱され、正視に堪えぬ有り様だった。






 死にゆく母の最期の言葉――――





「――改子…………力強く、生き…………て――――」







 その言葉だけ何とか聞けたが、あとはその場を走り去るより他なかった。





 ――その目に刻んでしまった、母と弟の変わり果てた姿と、力で何もかもが支配される人間の宿業。






 泣き泣き走り、走り続けるうちに――――改子の中で何かが崩壊した。






 力なき者は、弄ばれるしかないのか。力なき者は、自分よりもほんの少し力の強い者たちの玩具となり果てるしかないのか。






 母と弟だけではない。かつて祖国の官職であり、人を束ねる立場であったはずの、多少なりとも力を持っていたはずの父ですら、国の中の大きな人間の浅ましい心と暴力に屈し、死罪に処された。






 ――やがて、走り疲れた改子は、その場の地べたに膝から崩れ落ちるように座り込んだ。






 その目には、もはや希望は無く…………ただただ絶望と虚無の虚の黒を目に残すのみだった。







 ――――そして、改子という少女は、これも幸か不幸か。偶然その地へ遠征に来ていた軍人――――リオンハルト=ヴァン=ゴエティアの視界に留まった。






「――――そこの娘よ。何故そこで這いつくばっている。何があったのだ?」






「………………」






「その特徴的な顔立ち…………東方の僻地・ヤパンの所縁の者か。あそこでは大乱があった。想像に難くはない。お前もクーデターの惨禍を受け、その身を路上に横たえるみなしごの類いか…………」





「………………」






「――――何故、お前がそんな理不尽な目に遭わねばならぬのか教えてやろう――――力が無いからだ。」






「――――!!」







 ――――そのリオンハルトの言葉は、暴論に思えるが…………力による略奪と凌辱、支配をその目に焼き付けてしまった改子にとっては、真理としか思えなかった。






「……娘よ。お前にも家族がいたのだろう。だがお前一人力があれば救えたのだ! お前の責任なのだ。お前の無力が家族を殺したのだ!! ボロを着て路上に身を横たえるその姿が論より証拠だ…………!」





「――あっ……あああああ~…………っ!!」






 ――――改子は、泣き崩れた。






 そして、己の無力を、そして、弱者を呪った。







 弱き者は造作もなく強者に挫かれる。支配される。






 その日より、改子は弱き者を何より憎悪するようになった――――かつての自分と、母と弟…………そして父のような。






 リオンハルトは、全てを奪われた娘に対しては酷に過ぎると言える言葉を矢のように浴びせた。






 だが…………そのリオンハルトという軍人が他の多くのガラテア軍人と違っていた所は、目の前の弱者へ向ける憐みであった。






「――娘よ。どうするかね。そのまま路上で飢えて死ぬのを待つか…………それとも――――我々の研究に協力し、『力』を得るか。」







「――ぐすっ……ぐすっ…………ううう――――」







 ――力への盲信を始めた改子。力なき者の無惨な末路を記憶に忌まわしきものとして焼き付けてしまった彼女に――――もはや選択の余地など無かった。








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 ――――そうしてリオンハルトの指揮下、改造手術を受け、練気チャクラを扱えるようになり、ライネス=ドラグノン同様あらゆる殺人技を習得した改子は弱者であった過去の自分を捨て去り、むしろ自らが『攻撃』と『支配』を繰り返す、地獄のような闘争の惨禍に喜んで身を投じる殺人狂と化したのだ。





 今現在は改子は弱者であった過去の家族や自分自身の記憶はほとんどない。






 ただ、弱者を憎み、呪う、愛情の無い歪んだ精神だけを残して、『力』を信奉するガラテアの理念に一部同調し、相対する者への『攻撃』と『支配』だけを目標に生きている。






 時には、消し去ったはずの母と弟の凌辱された姿がちらつくのだろうか。今や力を盲信する強者とも言える彼女は、侵略作戦に従事する度、決まって年端もいかぬ少年を凌辱して殺した。






 母が言い遺したはずの『力強く生きて』という願いは…………もはや歪み切った改子の妄念のもとで結実してしまった。





 時に同じ部隊であるメランと乱淫するのも、或いは改子が他者への愛情を向けることの病んだ補完行為なのかもしれない――――






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「――そうだった。レポートによると、リオンハルト准将閣下が……練気を使って戦う改造兵の研究の一環としてこいつらを集めたんだよな。身寄りもなく、帰る祖国もないような、みなしごを…………」





「……結果として、こいつら、戦場では滅法強い特殊部隊…………もしもうちょい理性がまともに機能するもんなら、前線で戦う兵でありながら准将以上の戦果を挙げられたかもな……子供時代に野垂れ死んでたのより幸福なのか違うんだか――――」





「――こういう哀れな奴らの手綱を少しでも取りやすくするのも、俺たち研究者の役目だろう。こいつらが恐ろしいのはしゃあないが、そういう意味では俺らにも必要な義務ってもんがあらぁな。」





 ――レポートを片手にメンテナンスルームを廻る科学者たち。今度は巨躯の改造兵・バルザック=クレイドの近くに立ち止まった――――
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