創世樹

mk-2

文字の大きさ
113 / 223

第112話 再起

しおりを挟む
「――――エリー…………グロウ…………っ!!」




 目の前に映し出された、ガイの中核である生きる希望。その身を囚われつつもエリーとグロウの魂と尊厳を守る為の敢然たる抵抗。





 ガイはようやく目が覚めた。







「――――へんっ!! なーにが『疲れた』ッスか! その刀…………ウチが誂えた業物を、ただの希望を捨てた飲んだくれが後生大事に手入れして持ってるわけが無いっス!! 戯れに人を斬ってもいないし。何より……練気チャクラ発動サプリを飲んでないウチにもハッキリくっきり見えるっスよ。そんな飲んだくれでも常に練気のコントロールの修練を怠っていないエネルギーの揺らぎが! その分だと刀と肉体の鍛練もっスよね!? 助ける気満々なのに、あー! 馬鹿らしいっス!!」





「む……」





 ――イロハが看破した通り、ガイは一見希望を失い飲んだくれているが、少年の頃からの日課だった自己鍛錬、そしてニルヴァ市国で会得した練気のコントロールを怠ってはいなかった。スラム街で喧嘩を吹っ掛けられたことも多かったが、決して刀で人を殺さず、手入れを欠かしてはいなかった。







 本当に無意識的に希望を失っていたかは定かではないが、生活の一部にまで溶け込んだ自己鍛錬の日常。そして理不尽な敵への抵抗の精神。少なくともその心身の習慣をガイは忘れてはいなかったのだ。






「……むっ。ここだと騒ぎになりそうっスね。さっ! とっととエリーさんとグロウくんを助けに行くッスよ、ガイさん!!」





「――な、おっ……」






 ガイの手を引き、バーから去ろうとするイロハ。






 だが、この吹き溜まりの街の住人と見える連中が道を塞ぎ、こう告げる。






「――ちょーっと待ってくれや、娘っ子。そいつは俺らに貸しがあるんだぜぇ。ポーカーの負け分に酒代、それに食いもんも。そいつを耳を揃えて払ってもらわにゃあ――――ひひっ。そいつをズダボロに切り裂いてぶっ殺すしかねえんだよなああ……」






 ――ガイ以上に淀んだ瞳をしたゴロツキたち。手に手にナイフや銃を持っている。






「――ガイさん……やれやれ。あんなにシャンバリアの街で稼いであった金、もう使い切ったっつーんスか。どうやらあんたもウチからの小遣い制にする必要もあるかもッスねえ……しゃーない――――」





 イロハは頭に手を当て首を横に振りながらも、懐に手を入れた。






「――――荒くれの兄さんら。これで足りるっスよね?」






 言い終わると同時にイロハは――――その場で出せる限りの紙幣と小銭を宙にばら撒いた。





「――うおおっ……!?」




「金……カネだあああ…………!!」






 ――人心の荒廃した土地でゴロツキを煙に巻くにはこれが一番、とばかりにばら撒き、そのままガイの手を掴んで走り出した。テイテツも続く。






「――ウチのツケにしとくっスよ、ガイさん!! いつかきっちり払ってもらうっスからね!!」






「――イロハ……おめえ――――」





「ともかく場所を変えましょう。」







 ばら撒いた金に群がる輩を尻目に、イロハたちは慌ただしくバーを後にし、人の少ない荒野へと駆け出した――――






 <<






 <<






 <<







 ――スラム街とはいえ、どこでガラテア軍の息がかかっているかわからない。一行の報復を恐れ、どこかで一行を指名手配しているやもしれない。






 ゆえに、イロハたちは取り敢えず人のいない街の外の荒野まで脱出した。





「――ふーっ。ここなら何話そうと問題ないっスよね。さあ、取り敢えず酒でぐらついたガイさんの為に、この気付け薬でも飲むッス。スッキリするはずっスよ!」





「……俺ぁ――――」





「――これ以上四の五の言ってると、気付け薬が熱湯になって第二弾の拳をお見舞いするっスよ~? さあ! これは金取らないっスから!!」





「…………」





 イロハから有無を言わさず気付け薬を渡され、仕方なく飲みだすガイ。






「――っ!! こりゃあ効くな……」






 一口飲んだだけでも効果てきめんのようだ。続けて気付け薬の入った缶の中身を飲み干した。






「――――ふぅーっ…………」





 ひと息、大きく息を吐く。





「――どうすか? 目エ覚めたっしょ?」




 イロハに声を掛けられ、ガイは両手で自らの顔を何度かはたいた。





「――――あア。ようやく目エ覚めたぜ。ずっと悪夢を堂々巡りしちまってた…………ありがとな、イロハ。テイテツ…………それで、ニルヴァ市国はあの後どうなったんだ……?」






 ――希望の全てを取り戻したわけではないが、ひとまず行動する為の目は醒めたガイ。すぐにいつもの調子を取り戻し、尋ねる。





「――――残念ながら、あの後あのままガラテア軍によって全滅しました。何とか逃げ延びた人たちもいるようですが……ほとんど殺されたか、労働力として攫われたようです。練気使いや冒険者の中には、そのまま戦力として接収された者もいるやも。」






「――――例の『治験』っつー名の人体実験と洗脳か。あの糞野郎どもめ…………エリーやグロウ同様、抵抗して生きていることを祈りたいぜ。」






 冷静に伝えるテイテツ。俄かにガイの中のガラテア軍への反逆心と憤怒も蘇ってきた。






「ところで、セリーナはどうなんだ? 見つかったか?」







 ガイが正気を取り戻したのを見て安心した反面か、今度はイロハの声と表情が曇る。





「…………それが……途中まで発信器に反応あったんスけどね…………途中で反応が途絶えたっス。セリーナさんの携帯端末に呼び掛けても反応なし。発信器と端末をロストしただけなのか、それとも敵に――――」






「――それを決めつけるのはまだ早え。だろ? 行方知れずなら仕方ねえ。先にエリーたちを助けに行くぜ!」






 ――セリーナのことも不安に思うが、1ヶ月前までの気力と覇気を取り戻したガイ。今度は自らエリーたちを救うと公言する。





「――にひひ。そうでなくっちゃあ!! 幸い、ウチの黒風もあるしガンバはテイテツさんが持ってたっス。すぐにガラテア軍の研究所に潜入するっス!!」





 『リーダー』が意気を取り戻し、途端にイロハも意気軒昂。目の前の現実に対処する覚悟を新たにした。






「――っと。済まねえ…………行先なんだが……どうしても立ち寄りたい場所があんだ。」






「――途中にっスか? ここって……」






 イロハが端末の地図画面を見て尋ねる。







「――――ガラテア軍の前に落とし前を付けてえ奴がいるんだよ。あいつは――――俺が叩き斬る――――」





 ――不殺を心がけるグロウがいないせいもあるかもしれない。ガイは脳裏にある人物への殺意を募らせた――――
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。 だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。 失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。 どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。 「悪女に、遠慮はいらない」 そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。 「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。  王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」 愛も、誇りも奪われたなら── 今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。 裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス! ⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

処理中です...