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第180話 『鬼』という守護神
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――集落の奥に招かれると、見えて来たのは山に挟まれるように開いている洞窟だった。
内部ではあちこちに篝火が灯され、緑青石に輝く岩壁を静かに美しく照らしている。
外に出て来た以外にもかなりの数の人がここで暮らしているようだ。生活の為の様々な作業が営まれているようだが…………。
「――ここの人たち……本当に全員が全員、生まれながらに練気が使えるんだね…………。」
「――左様でございます、男神様。創世樹のお恵みにより、我らは生命の英気を使わせていただき……とても便利な暮らしをさせていただきました。男神様と女神様がひとつになり……世界の生命が一歩進化するその日まで――――」
――酋長の言葉を聞きながら、グロウは洞窟のあちこちの区画で手仕事や細工などをしている人たちを見遣る。
確かに、皆練気の力を日常生活に役立てる目的で使用しているようだった。
恐らく篝火を灯すのに用いている炎は、火気が必要な者が手を翳して念じると忽ち穏やかに灯される。怪我や病気をしていると見られる者は患部に触れて治癒の力ですぐに治す。外で汲んできたと見られる水は、これも手に触れて念じただけで水の中の毒素が浄化され、料理や様々な用途に使える。石を切り出してナイフを作ろうとしている者もまた石に触れて念じるだけで石が、ぴしぴし、と割れ、すぐに磨製石器のようになった。
文明の進み具合を見るとまるで原始時代からそう進んではいないが、練気の力を生まれながらに持っているから、かつての我々人類の原始時代よりも遙かに快適な暮らしが出来ているようだ。練気を使う度に彼らの目と全身の文様が碧色に光り、不思議な雰囲気を醸し出している。
やがて、ひと際ひらけた空間に出た。座布団のように藁状の植物を編んで作られたクッションが地面に置かれている。
「――ここが私、酋長の部屋でございます。ささ、男神様。お座りください。従者の皆様もどうぞ。」
「……従者?」
「――あはははは……酋長さん。この人たちはここまでの旅の仲間だよ。僕の従者でも家来でもない、対等な立場の人なんだ。僕は確かに……自分の事すら知らないことだらけだけど……あまり畏まらないで欲しいかな。」
――『従者』と呼ばれガイやセリーナあたりは怪訝な顔をしたが、グロウはすぐに両手をひらひらと振ってあまり荘重になり過ぎないで欲しい、と頼んだ。男神の『養分の男』、そして女神の『種子の女』は、それほどまでに彼らにとって高位な存在なのだろう。
「男神様ほどの尊き御方が、ヒトを対等と扱ってくださるとは…………今世の男神様は何と寛大なことか!! …………いやいや、あるいは男神様が尊きゆえにヒト如きを対等と見なさるほどの度量をお持ちか。これも前回の生命の刷新進化でしっかりと精神も進化された結果か……」
「――前回? 創世樹の生命の刷新進化は、何度も行なわれていることなの?」
グロウたちはクッションに座りながら、酋長に尋ねる。
「――その通りでございます。この星は幻霧大陸に宿りし創世樹が何億年と言う長い、長いスパンを経て……この星の生命の在り方を見つめ直し、歪んだ生命や強過ぎる生命、星を乱す生命あらば、徐々に正すように……この星の秩序を適切に保ち続ける為に『養分の男』、『種子の女』を遣わして星を巡らせ、最終的には今一度幻霧大陸へと至り……そして創世樹の深奥で生命の刷新進化を一気に行なうのです。」
――生命の刷新進化は、やはり何度もこの星で起きている現象だった。それ以外は、ガラテア軍から得た情報の通りのようだ…………。
「――これまで、生命の刷新進化の度に創世樹にはこの星で生まれ、そして死んでいった生命の全ての情報が蓄積されています。刷新進化が起こる度に、最適解とされる生命の体系を創られて来ました。例えば――――星に力の強い種が蔓延り過ぎた時には、『鬼』という創世樹と二柱の男女神様を御守りする強力な戦闘種族もありましたな。」
「え……」
「『鬼』が……創世樹と二柱の男女神を守った……だと!?」
――――思わぬエリーのルーツが明らかとなった。
エリーの遺伝子に組み込まれている強大な力を持つ『鬼』とは…………今代でいうグロウやアルスリア、そして創世樹を守護する為に生まれて来た守護神のようなものだったのだ――――
「――じゃあ……あたしは無意識に、グロウを守ろうとしているわけ…………!?」
――俄かに、エリーがグロウへ向ける温かな感情は、プログラムされたものだったのかと疑う。
「――貴女は…………なるほど。どういう事情か解りませぬが、遙か昔に役目を終え滅んだはずの『鬼』の気が感じられますな。もしや、男神様……グロウ様へ、一番最初に触れたのでは?」
「触れた……確かにそうだけど…………。」
――ナルスの街近くにあったあの遺跡。そこでグロウに『なりかけていたもの』だった存在に最初に触れたのは間違いなくエリー。
「――安心めされい。男神様も女神様も、初めて接触した種の最も愛情の深い存在への似姿を取られ、精神的にも懐かれるように自然と振る舞いなさる。プログラムされたはされたと言えるかもしれませんが……それは『鬼』の血ではなく、二柱の神様方の御力によるものです。」
――――エリーが普段からグロウへ向ける愛情は、かつての弟分に瓜二つというきっかけはあれども、それは確かな愛情で嘘ではない。『鬼』の血は関係ないという。
胸をなでおろしながらも、酋長の話は続く――――
内部ではあちこちに篝火が灯され、緑青石に輝く岩壁を静かに美しく照らしている。
外に出て来た以外にもかなりの数の人がここで暮らしているようだ。生活の為の様々な作業が営まれているようだが…………。
「――ここの人たち……本当に全員が全員、生まれながらに練気が使えるんだね…………。」
「――左様でございます、男神様。創世樹のお恵みにより、我らは生命の英気を使わせていただき……とても便利な暮らしをさせていただきました。男神様と女神様がひとつになり……世界の生命が一歩進化するその日まで――――」
――酋長の言葉を聞きながら、グロウは洞窟のあちこちの区画で手仕事や細工などをしている人たちを見遣る。
確かに、皆練気の力を日常生活に役立てる目的で使用しているようだった。
恐らく篝火を灯すのに用いている炎は、火気が必要な者が手を翳して念じると忽ち穏やかに灯される。怪我や病気をしていると見られる者は患部に触れて治癒の力ですぐに治す。外で汲んできたと見られる水は、これも手に触れて念じただけで水の中の毒素が浄化され、料理や様々な用途に使える。石を切り出してナイフを作ろうとしている者もまた石に触れて念じるだけで石が、ぴしぴし、と割れ、すぐに磨製石器のようになった。
文明の進み具合を見るとまるで原始時代からそう進んではいないが、練気の力を生まれながらに持っているから、かつての我々人類の原始時代よりも遙かに快適な暮らしが出来ているようだ。練気を使う度に彼らの目と全身の文様が碧色に光り、不思議な雰囲気を醸し出している。
やがて、ひと際ひらけた空間に出た。座布団のように藁状の植物を編んで作られたクッションが地面に置かれている。
「――ここが私、酋長の部屋でございます。ささ、男神様。お座りください。従者の皆様もどうぞ。」
「……従者?」
「――あはははは……酋長さん。この人たちはここまでの旅の仲間だよ。僕の従者でも家来でもない、対等な立場の人なんだ。僕は確かに……自分の事すら知らないことだらけだけど……あまり畏まらないで欲しいかな。」
――『従者』と呼ばれガイやセリーナあたりは怪訝な顔をしたが、グロウはすぐに両手をひらひらと振ってあまり荘重になり過ぎないで欲しい、と頼んだ。男神の『養分の男』、そして女神の『種子の女』は、それほどまでに彼らにとって高位な存在なのだろう。
「男神様ほどの尊き御方が、ヒトを対等と扱ってくださるとは…………今世の男神様は何と寛大なことか!! …………いやいや、あるいは男神様が尊きゆえにヒト如きを対等と見なさるほどの度量をお持ちか。これも前回の生命の刷新進化でしっかりと精神も進化された結果か……」
「――前回? 創世樹の生命の刷新進化は、何度も行なわれていることなの?」
グロウたちはクッションに座りながら、酋長に尋ねる。
「――その通りでございます。この星は幻霧大陸に宿りし創世樹が何億年と言う長い、長いスパンを経て……この星の生命の在り方を見つめ直し、歪んだ生命や強過ぎる生命、星を乱す生命あらば、徐々に正すように……この星の秩序を適切に保ち続ける為に『養分の男』、『種子の女』を遣わして星を巡らせ、最終的には今一度幻霧大陸へと至り……そして創世樹の深奥で生命の刷新進化を一気に行なうのです。」
――生命の刷新進化は、やはり何度もこの星で起きている現象だった。それ以外は、ガラテア軍から得た情報の通りのようだ…………。
「――これまで、生命の刷新進化の度に創世樹にはこの星で生まれ、そして死んでいった生命の全ての情報が蓄積されています。刷新進化が起こる度に、最適解とされる生命の体系を創られて来ました。例えば――――星に力の強い種が蔓延り過ぎた時には、『鬼』という創世樹と二柱の男女神様を御守りする強力な戦闘種族もありましたな。」
「え……」
「『鬼』が……創世樹と二柱の男女神を守った……だと!?」
――――思わぬエリーのルーツが明らかとなった。
エリーの遺伝子に組み込まれている強大な力を持つ『鬼』とは…………今代でいうグロウやアルスリア、そして創世樹を守護する為に生まれて来た守護神のようなものだったのだ――――
「――じゃあ……あたしは無意識に、グロウを守ろうとしているわけ…………!?」
――俄かに、エリーがグロウへ向ける温かな感情は、プログラムされたものだったのかと疑う。
「――貴女は…………なるほど。どういう事情か解りませぬが、遙か昔に役目を終え滅んだはずの『鬼』の気が感じられますな。もしや、男神様……グロウ様へ、一番最初に触れたのでは?」
「触れた……確かにそうだけど…………。」
――ナルスの街近くにあったあの遺跡。そこでグロウに『なりかけていたもの』だった存在に最初に触れたのは間違いなくエリー。
「――安心めされい。男神様も女神様も、初めて接触した種の最も愛情の深い存在への似姿を取られ、精神的にも懐かれるように自然と振る舞いなさる。プログラムされたはされたと言えるかもしれませんが……それは『鬼』の血ではなく、二柱の神様方の御力によるものです。」
――――エリーが普段からグロウへ向ける愛情は、かつての弟分に瓜二つというきっかけはあれども、それは確かな愛情で嘘ではない。『鬼』の血は関係ないという。
胸をなでおろしながらも、酋長の話は続く――――
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