創世樹

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第188話 全精力開放

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「――――固まって進むと集中砲火を浴びる! 奴らは創世樹を死守する為に要所要所に強敵を配置しているだろうが……やむをえん、散開して進めッ!!」





 ――背に、フォルテのブリッジからのゴッシュの声がスピーカー越しに響く。





 戦いが始まった平野。すぐにとてつのなく大量の砲撃が、嵐を超えて雑音嵐ノイズにすら聴こえるほどの爆音が、強風を伴って耳をつんざく。無数に飛び交うはずの砲撃や銃撃や雄叫びが……もはやひとつの耳を突き刺す破壊音がひとつながりに延々と聴こえる錯覚すら起こす。




「――事前に通信機をヘッドセットにして取りつけといて正解だったっスね!! しっかし……この弾幕と……ッ大軍の中をどう搔き分けて進めば……」




 イロハが通信機越しに、しかし可能な限り大声で呼びかける。絶えず飛んでくる銃弾を、練気チャクラ発動サプリを働かせながら必死に戦闘用ハンマーで弾く。





「――この大軍は……あたしに任せて。どんな手を使ってでも、切り開いて見せるわ。」




 ――エリーが応じるその声は、この地獄のような鉄火場の狂騒にあって、冷たく、熱を持たぬ圧があった。





「――エリー!! まさかもう使っちまうのかよ!? せめて俺らが創世樹へにじり寄るまで待っ――」





「――この大軍相手に、そんな悠長なこと言ってらんないでしょ。ぐずぐずしているとグロウが――――いや、世界が終わっちゃうわ。」





「エリー…………。」





 ――引き締まったエリーの顔つき。その引き締まり方は、精悍さを超えて……氷のような悲愴さえ感じられた。





「――糞がッ!! ――――解ったぜ。好きにしやがれ。悔いの残らねえほど、とことんな。だが――――」





「――何? ガイ。」





「……理性の片隅にでもほんのちょっぴりでも置いといてくれ。俺らのこと。おめえの無事を願ってる奴が沢山いることを、な。」





「――ありがと。ガイ――――。」




 ――エリーが頷く。その様子を見て、ガイは悔しみで自らの歯を折らんばかりに噛みしめたのち、全員に号令を出した。





「――――味方は退がれッ!! エリーが本気で戦う……巻き添えを食うぜッ!! 生命が惜しけりゃ、一旦退がれッ!!」





「――? ガイさん……?」


「どういうことだ。エリーが一騎当千の力を持つのは解るが……」





「――ガイ。あの手をついに使ってしまうのですね。始動したら、止められる可能性は保証しかねます。万一――――」





「――解ってんだよ、んなことは!! この馬鹿みてえなガラテア全軍の物量に立ち向かうには、これしかねえんだ…………ッ!!」





 ――――眼前に立ち塞がる、無数のガラテア軍。戦車に戦闘機、歩兵、そして戦艦。有象無象の敵兵と言う名の障壁がエリーたちの行く手を阻んでいる。





 エリー自身も出来ればアルスリアの顔面に怒りの拳を叩き込むその瞬間までとっておきたかった手だが、これまで経験したことの無い夥しい数の敵を前に、『その』決断をした。





「――? 何だ、あれは――――」





 ガラテア兵の誰かがそう呟いた。




 エリーの周囲にのみ、突如静寂が張り詰めている――――このとてつもない砲撃の嵐の最中に? ――そんなはずはないのだが、不思議とエリーを視認する者はそう感じた。





 エリーは、精神を集中したのち――――右腕の金のリミッターを外し、その場に打ち捨てた。





 ――そう。10年前のガラテア軍の生体兵器実験での惨劇以来、絶えず取り付けていたエリーの『鬼』の力を大幅に抑え、制御するリミッター。それを解除するのだ――――打ち捨てた地面が、重量で激しく割れて沈む。




 同時に、エリーの練気の立ち昇る圧が、飛躍的に強まった――――




 続いて左腕。右脚。左脚…………リミッターを外す度に、エリーの力は、本来のものへと近付き、そのエネルギーはリミッターありで全力で戦う時の比較にならないものだ。




 ――そして、最後に首に取り付けてあるリミッターを外し、打ち捨てた――――





 ――――瞬間。その場で戦う者たちは誰もが凍り付いた。





 理由は言わずもがな。




 エリーの全身から赤黒い練気の圧が激しく立ち昇り、まるで真っ赤な炎を伴う巨大な気流そのものだったからだ。ガラテア全軍はもちろん、味方であるはずの冒険者などの友軍も本能的な危険を感じ、戦慄した――――




「――――うっ、撃てェーッ!! あの『鬼』に集中砲火せよーッ!!」





 ガラテア軍の将官が吠える。その命令を待たぬほどの勢いで、ガラテア軍はエリーに攻撃を定めた。




 ――その戦慄は、満場一致の『この化け物は危険過ぎる』という本能からなる感覚だった――――
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