創世樹

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第218話 分かたれても志は共に

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 ――――それから、ガラテア帝国は急転直下の運命を辿った。





 まず、国主たる皇帝が死に、軍を率いていたヴォルフガングも革命軍『震える星』によって打ち倒された為、帝国内の軍も民衆も騒然となった。





 ――そこに、革命軍のリーダーであるリオンハルトが声明を出し、新政権を樹立した。






 世界への侵略の歴史を改め、過去のガラテア帝国の遍歴を見直し…………やがて軍は解体され、僅かばかりに残った軍隊は専守防衛の国防程度の力まで軍縮が断行された。





 ――軍縮を断行する際には、奇妙な事も起こった。





 強大な力を持った閣僚たちは、そうそう軍権を手放すことなどしない。人間が己の欲望を満たすことに無限大の犠牲を払っても止まらぬのと同じように、軍権を手放す者はなかなかおらず、一時新政権に反旗を翻して反乱軍を組織しようとした者も少なくなかった。





 だが…………強大化した軍は、『そのままでは争いを起こすことが出来なかった』。





 戦力がある程度以上になった途端に、ある兵は闘争心が減退し、ある兵器は突然故障した。





 単なる偶然かとも当初思われたが、世界中のどの組織も『戦力を持ち過ぎると無力化』してしまうのだ。





 科学者が仮説の域を出ないまでも学会で論じた結果、『養分の男・グロウ=アナジストンの意志のみが働き、この星で強大過ぎる軍隊は組織出来ないようにしている可能性が大である』と結論付けた。





 また、新政権を樹立したリオンハルトだが、彼は新たな国主とはならなかった。





 彼が向かった先は、ある野営地…………『過去にガラテア軍に被害を受けた者たちはこの地へ集まれ』と世界に告知した。





 ――野営地のテントの一角。砂漠地帯で砂煙が噎せる空気の中、リオンハルトは大量の書類に署名した。





「――これで、よし…………。」




「――失礼……するっス…………リオンハルト准しょ……いや、リオンハルトさん。」





 ――ばつが悪そうな顔をしながら、ライネスがテントに入って来た。




「――どうしたんだ、ライネス。」





 リオンハルトは簡易的な執務机からライネスの不安げな顔を見上げた。





「――――俺……ここまで来ちまいましたけど…………ハッキリ言うす――――怖気づきました。この最後の作戦には参加したくねえです。」





「――ほう。一応理由を聞いておこうか。」




 リオンハルトは書類の束をどけて話す。





「――――あの幻霧大陸とかいう戦場で……メランが死んで……その後隊長……バルザックも希望を失って自害して、改子は最後まで戦い続けて、死んだ。みんな死んじまったんす。そんで、俺は思いました――――まだ死にたくねえっす。あいつらの分もせめて俺は、俺だけは……生きたいと思っちまうんス。」




「……ふむ。」




「――でも俺は散々人殺しを重ねて来た屑野郎っす。なら処刑されるのが筋なんだろうっすけど…………ああ、上手く言えねえ! とにかく、このままこの最後の作戦に参加しちまうのは、俺は違うと思うんす!! 自分ですっげえ烏滸がましいこと言ってんのは解ってんすけど、俺は――――」




「――そうごねると思って、手配しておいたよ――――この書類を大事に持っていけ。」




「……え?」





「反ガラテアが多く居た地域の開拓民としての移民登録のようなものだ。死にきれない、でも罰は受けたいというなら、ここで農奴として一生を捧げ給え。」




「――俺が、農奴として…………。」




「――言っておくが、果樹農園のような単なる農家とはわけが違うぞ。旧ガラテア軍の醜聞は当然その地に深く根付いている。君は現地できわめて不当な扱いや嫌がらせ、差別などを受けるだろう。だが確実に労働力として生きる意味はある…………どうだね。罪を償いたいというなら、開拓者の一員としての過酷な労働で一生を終えるのもよいのではないか?」





 ――一瞬、ライネスの顔に戸惑いがあったが――――すぐにリオンハルトからの厚遇を受け入れ、喜びを浮かべた。




「――わかりました!! 俺……償い切れるとは思えねえっスけど、死ぬまで働いて役に立って来るっす!!」




「よろしい。ではさっさとこの野営地から去り給え。気が変わらぬうちにな。」




 そうしてライネスは書類を大事に抱えて、テントを去っていった――――ライネス=ドラグノンの新たな人生が始まった。





「――失礼致します、リオンハルト准将閣下!」





 ――次にテントに入って来たのは、リオンハルトの腹心にして、想いを分かち合う恋人――――ライザ=トラスティだ。





「――ライザか…………私はもう、ガラテア軍准将ではないよ。君自身も階級はほぼ取り上げたはずだ…………何の用だ?」





 ――ライザは憤懣を露わにして、苛立ちを込めた速足でリオンハルトに詰め寄る。





「――――何の用も何もある!? こんなことを今更しようだなんて…………ただの自己満足じゃあないの!?」





「……自己満足ではない。元ガラテア軍兵士たちの罪状を洗った結果だ。有志達も多くが同意している――――ライザ。君以外はな。」





 ――ライザは両の掌でリオンハルトの執務机を叩いた。





「――――そうでしょうね! 私は、何処かの誰かさんにデスベルハイムの……ガラテア首都跡地の新政権の国主に祭り上げられてしまったんですもの!! もう簡単に戦地に赴くことも出来ないわ…………私はリオンハルト、貴方と共に在ると決めたのに!!」





「……解っているのなら、すぐにデスベルハイムへ戻ってくれ。私は最後の務めがある。なに、常に傍にいて行動を共にすることだけが全てではないさ。離れた地で志を同じくすれば充分だよ――――」





 ――途端に、リオンハルトの頬に稲妻が走った。言わずもがな、激昂したライザの平手打ちである。





 ライザは堪らず、涙が溢れて来る。





「――――どうして…………っ!! どうして、貴方は最後まで独りで背負おうとするの!? 傍で想っている人は私だけじゃあない。同じ志を持っている人も沢山いるのに、こんなの――――こんなの、貴方のお父様と変わらないじゃあない!!」




「――そうだ。私にはガラテア軍人としての罪業を伴う血が色濃く流れている。そんな悪しき存在は、この星から永遠に取り除かねばならない。そして…………そのように確かな理知と、優しさを持つライザ。君のような人が新時代を導くべきなのだ…………私たちは、魂まで分かたれてしまうわけではない。これもまた『共に在る』ことだ。」





「……なんて、なんて頑固なの。私は――――貴方と共に死ぬ覚悟は、とうの昔に出来ているのに。この……頑固者…………!!」





「……罵るがいい。こうでもせん限り…………我らが祖国は前には進めん。それに、愛する者と共に死する覚悟より、分かたれても生き続けて大義を為すことの方がよほど強き志のはずだ。だから――――」





 ――リオンハルトは立ち上がり、ライザと抱擁した。




 口付けを交わして、幾ばくかの沈黙があったのち、小さく優しい声で、彼は彼女に呟いた。





「――――すまない。今まで本当にありがとう。愛している。ライザ――――。」





 ――そう告げて、彼は足早にテントの外へ出て行った。ライザは落涙し、震えながら、彼を見送った。





 <<





 ――その直後。彼は処刑された。





 野営地の近くに、ガラテア軍に被害を受け、怨恨を持つ者たちを大量に集め、罪を働いた元ガラテア軍人はもちろん、有志達と共に首を差し出したのだ。




 初めは戸惑っていた被害者たちだったが、武器を全て渡して「好きなだけ殺せ」とだけ言うリオンハルトたちを見て、彼らは彼らで自らの怨恨と訣別すべく、処刑の刃を振り下ろしていった――――
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