25 / 55
第25話 片腕の本分
しおりを挟む
「――――ああ、そうだ。2人共、今日の探索はもうこのくらいで充分だろ? 俺の店に寛ぎに来ねえか? コーヒーも美味えし、イタ飯……もあるんだぜ。」
――昼下がり、食堂の飯も平らげてアリノから情報も聞けたヨウヘイは、マユとアリノを自分の店へ誘ってみた。一瞬ペコのしたり顔が脳裏をよぎって顔がくしゃっと引き攣ったが、せめてものサービスと慰労だ。
「――いいのか? 俺は…………元々今日は非番だから今からでも行けるが…………何の店だ。」
アリノは少し意外そうな表情をしたが、すぐにヨウヘイの申し出に賛同した。
「――――コーヒーの美味いレトロな喫茶店でありんすが、わっちは遠慮しておきんす。今日の探索で得たデータが沢山ありんす。僅かでも情報を整理しないと…………。」
「――おい、マユ……あんたまだ仕事にこだわって…………」
「……これはわっちの使命でありんすから。わっちが中心になってやらないと、何も進まないから――――」
――組織の長、そして『悪』を討ちたいという司令官ならば確かにその責任を全うする為に働くのは当然かもしれない。だが、放っておくとまたマユは無理をしそうだ。
ヨウヘイが、受付嬢の心配する顔を思い浮かべつつも、上手く言い返せないでいると――――
「――おや。良いではありませんか、所長。たまには息抜きぐらい。コーヒーの美味しいお店? ほほう。所長も息抜きをなさろうと少しは意識してくださったのですねえ。」
「――サクライ…………。」
――突然、3人の会話の中に対悪性怪物殲滅班の班長であるサクライが声を掛けて入って来た。金縁の眼鏡の奥には微笑みを浮かべている。
「……私共、対悪性怪物殲滅班の者たちも常々心配しているのですよ。所長が働き過ぎとプレッシャーでいつか潰れてしまうのではないかと。もう少し私を……いいえ。対悪性怪物殲滅班の班員たちやその他の職員たちを信頼して欲しいものです。」
――サクライは、大仰に、わざとらしく天を仰いで嘆くように話している。どうやら、少し冗談めかしてはいるが彼もマユを心配しているようだ。
「……わっちは……対悪性怪物殲滅班の班員たちを信頼していねえなんてことは――――」
「――おや、そうですかあ? それならば存外に嬉しいです~!! ささ、今からでも休養して来てください、所長。それに、私だって班長として所長に遅れを取るほど仕事が出来ないつもりはございませんよ? 代わりにデータの処理や資料作成や今後の方針などはやっておきますから! あっ、アリノ=ママニシさんにはこのC型職員証をお渡ししておきますね! 本業をやりつつウチに出入りするには必要なので~。」
「――サクライ。ちょっと、ぬし1人で勝手にわっちの仕事の裁量を決めるなんてことは――――」
「――――それが、対悪性怪物殲滅班の班員の総意だとしても、ですか?」
「――えっ…………。」
――物腰柔らかに話を進め、マユを休ませるように取り計らうサクライ。ただ、最後に言った『総意』という台詞には真剣な眼差しが籠っていた。
――――一般職員はもちろん、マユ同様、『悪』に憎悪を抱き、1秒でも早く撃滅したいであろう対悪性怪物殲滅班の班員たち。
その彼らですら、マユのことを…………組織の長として慕っているマユ自身の幸福や安寧を気遣ってくれている。
自らの片腕、否、それ以上の働きぶりを結果として出して来たであろうサクライの諌言を受けて部下たちの想いを無下にするほど、マユも馬鹿ではなかった。
「――――はあ…………解りんした。少し早く上がるでありんす。今日のところは頼むでありんす。」
――マユの言葉に、強い目で訴えていたサクライも、ぱっと明るい笑顔を向けてくれる。
「はい、もちろんもちろん!! というか、たまには私にも班長らしい仕事をさせてくださいよ~。仕事が足りな過ぎて逆に困っていたんですよ? 裁量は分散しなきゃ。」
――ヨウヘイも少し安心して、席を立ち上がった。
「――よっしゃ!! じゃあ行こうぜ、マユ、アリノ! 車で20分程度だ!!
「おう。」
「……運転はわっちでありんすのね。まあ、外出する時はいつもそうでありんすが……。」
マユとアリノも席を立って、食堂から去ろうとする。
「――――ヨウヘイさん。」
「……えっ?」
「――――所長を……ヒビキ=マユを、頼みましたよ――――。」
「――へっ? お、おう……。」
サクライは、信頼とも脅迫とも似付かない、強い気持ちを込めた表情でヨウヘイに声を掛け、恭しく頭を下げた――――
――昼下がり、食堂の飯も平らげてアリノから情報も聞けたヨウヘイは、マユとアリノを自分の店へ誘ってみた。一瞬ペコのしたり顔が脳裏をよぎって顔がくしゃっと引き攣ったが、せめてものサービスと慰労だ。
「――いいのか? 俺は…………元々今日は非番だから今からでも行けるが…………何の店だ。」
アリノは少し意外そうな表情をしたが、すぐにヨウヘイの申し出に賛同した。
「――――コーヒーの美味いレトロな喫茶店でありんすが、わっちは遠慮しておきんす。今日の探索で得たデータが沢山ありんす。僅かでも情報を整理しないと…………。」
「――おい、マユ……あんたまだ仕事にこだわって…………」
「……これはわっちの使命でありんすから。わっちが中心になってやらないと、何も進まないから――――」
――組織の長、そして『悪』を討ちたいという司令官ならば確かにその責任を全うする為に働くのは当然かもしれない。だが、放っておくとまたマユは無理をしそうだ。
ヨウヘイが、受付嬢の心配する顔を思い浮かべつつも、上手く言い返せないでいると――――
「――おや。良いではありませんか、所長。たまには息抜きぐらい。コーヒーの美味しいお店? ほほう。所長も息抜きをなさろうと少しは意識してくださったのですねえ。」
「――サクライ…………。」
――突然、3人の会話の中に対悪性怪物殲滅班の班長であるサクライが声を掛けて入って来た。金縁の眼鏡の奥には微笑みを浮かべている。
「……私共、対悪性怪物殲滅班の者たちも常々心配しているのですよ。所長が働き過ぎとプレッシャーでいつか潰れてしまうのではないかと。もう少し私を……いいえ。対悪性怪物殲滅班の班員たちやその他の職員たちを信頼して欲しいものです。」
――サクライは、大仰に、わざとらしく天を仰いで嘆くように話している。どうやら、少し冗談めかしてはいるが彼もマユを心配しているようだ。
「……わっちは……対悪性怪物殲滅班の班員たちを信頼していねえなんてことは――――」
「――おや、そうですかあ? それならば存外に嬉しいです~!! ささ、今からでも休養して来てください、所長。それに、私だって班長として所長に遅れを取るほど仕事が出来ないつもりはございませんよ? 代わりにデータの処理や資料作成や今後の方針などはやっておきますから! あっ、アリノ=ママニシさんにはこのC型職員証をお渡ししておきますね! 本業をやりつつウチに出入りするには必要なので~。」
「――サクライ。ちょっと、ぬし1人で勝手にわっちの仕事の裁量を決めるなんてことは――――」
「――――それが、対悪性怪物殲滅班の班員の総意だとしても、ですか?」
「――えっ…………。」
――物腰柔らかに話を進め、マユを休ませるように取り計らうサクライ。ただ、最後に言った『総意』という台詞には真剣な眼差しが籠っていた。
――――一般職員はもちろん、マユ同様、『悪』に憎悪を抱き、1秒でも早く撃滅したいであろう対悪性怪物殲滅班の班員たち。
その彼らですら、マユのことを…………組織の長として慕っているマユ自身の幸福や安寧を気遣ってくれている。
自らの片腕、否、それ以上の働きぶりを結果として出して来たであろうサクライの諌言を受けて部下たちの想いを無下にするほど、マユも馬鹿ではなかった。
「――――はあ…………解りんした。少し早く上がるでありんす。今日のところは頼むでありんす。」
――マユの言葉に、強い目で訴えていたサクライも、ぱっと明るい笑顔を向けてくれる。
「はい、もちろんもちろん!! というか、たまには私にも班長らしい仕事をさせてくださいよ~。仕事が足りな過ぎて逆に困っていたんですよ? 裁量は分散しなきゃ。」
――ヨウヘイも少し安心して、席を立ち上がった。
「――よっしゃ!! じゃあ行こうぜ、マユ、アリノ! 車で20分程度だ!!
「おう。」
「……運転はわっちでありんすのね。まあ、外出する時はいつもそうでありんすが……。」
マユとアリノも席を立って、食堂から去ろうとする。
「――――ヨウヘイさん。」
「……えっ?」
「――――所長を……ヒビキ=マユを、頼みましたよ――――。」
「――へっ? お、おう……。」
サクライは、信頼とも脅迫とも似付かない、強い気持ちを込めた表情でヨウヘイに声を掛け、恭しく頭を下げた――――
0
あなたにおすすめの小説
ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜
遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった!
木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。
「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」
そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺が宝くじで10億円当選してから、幼馴染の様子がおかしい
沢尻夏芽
恋愛
自他共に認める陰キャ・真城健康(まき・けんこう)は、高校入学前に宝くじで10億円を当てた。
それを知る、陽キャ幼馴染の白駒綾菜(しらこま・あやな)はどうも最近……。
『様子がおかしい』
※誤字脱字、設定上のミス等があれば、ぜひ教えてください。
現時点で1話に繋がる話は全て書き切っています。
他サイトでも掲載中。
少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。
昼寝部
キャラ文芸
俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。
その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。
とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。
まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。
これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる