50 / 55
第50話 お会計
しおりを挟む
――――緑色を基調としたデザインのセーターに缶バッジを取り付け、茶色のカーゴパンツに眼鏡という出で立ちの店員の青年は、しばらくは呆然と3人を眺めていた。
滅多に自分のこの小さな店には来ない海外からの客。しかも美人が2人も。
――そう思っていたが、一番第一印象で好感を抱いたペコは、男性だと知らされた。
彼の一瞬前に芽生えたばかりの恋心は、短いそのまた一瞬でかき消えてしまったのだろうか……。
そんな彼のショックなど夢にも思わないヨウヘイ、ペコ、そして『職員へのボーナスを兼ねて』とマユが店内の商品を物色していった。
「――へえ~。覆面ライダーゾルゲってこんなにゲーム化されてたのかあ。まだ俺ん家に辛うじてTVがあった頃に本放送見たっきりだなあ…………。」
「ア!! 知ってるデース!! 海外のチーターが意図的にバグらせる機器使って動画にしてマーシタ。敵の破壊光線を股間に受けた時のモーションがHENTAI的過ぎて腹が捩れマシーター!! まあ、ゲームバグらせるのは限りなくグレーゾーンってかほぼブラックな行為デスケドネー。どうせその人も正規のルートで手に入れたソフトじゃあなくてネットで違法アップロードされてたのをパソコンに取り込んで弄ってると思いマスシ。」
「マジかよ。ネタ動画作るのに危ねえ橋渡ってんなー……興味はあるが気が引けるぜ。」
「――世界的に一番のシェア数を誇ってるのはこのハード……でありんすが、最近日本円も円安が進んだからか異常に高いでありんす…………そういえば公式が2度目の値上げを断行したとかアナウンスしていた…………だとするとやはり国内で一番のシェア数で幅広い年齢層に親しまれているこっちのハードが安心か……価格も安いし。そういえば後継機が出るのでありんしたか。」
ヨウヘイとペコが些か会話にするのも危ういゲーム動画の話題で盛り上がり、マユは自身はゲームをしないが、企業の社長としてある程度市場はチェックしているらしく、企業公式からの情報やプレゼントをあげたい部下たちの顔を思い浮かべつつ選別していく。
――小一時間ほどそうしていただろうか。やがて買う商品を決め、レジで待つ青年のもとへ持って行った。
「――? 店員さん、お会計だぜ。」
「――へっ? ……ああ、これは失礼いたしました! えーと……こちら…………合わせて7点ですね……。」
――先程の勘違いからのショックが尾を引いているのか、青年は少しばかり心ここにあらずといった風情でぼんやりしてしまっていた。慌てて会計をする。
ヨウヘイとペコはそれぞれの好みのソフトを6点。ハードを先ほど店員の青年に薦められたものを1点買うことにした。
「――ハードが1点で、24800円。ソフトが6点で15600円……合計で41400円になりますー。」
「OK。じゃあ――」
ヨウヘイが万札を5枚出そうとしたが――――
「ウン モメント ペルファヴォーレ!(ちょっと待って!) これはヨウヘイセンパイだけでなくボクの買い物でもアリマース! 折半して、半額ダシマースヨ!!」
「え。いいのか、ペコ?」
――意外なことに、ペコはヨウヘイの奢りにはせず、代金を折半すると申し出た。
「――ボクだって店で働いてお給料貰ってマース!! 自分の欲しい物くらいなるべくなら自分で買いマース! 一緒にいるのがスィニョリーナ(お嬢さん)ならむしろ全額出すクライデース!! このゲームも、多分センパイと半々で遊ぶハズデース。だから半額で丁度いいデースヨ!!」
「おめえ……」
――初対面の時のヨウヘイに対して敵愾心剥き出しのペコから考えられない申し出だ。
彼は両親に溺愛されて育ってきた。自分が望むものどころか、別に望んでないものまで何でも彼に買い与えたことだろう。
そして、それを有難いとは思いつつも、自分にとって良いこととは思っていない。
――日ノ本で、少しでも自立を。それがペコなりの願いなのだろう。
「――わかったよ。あんがとな。じゃあ……半分ずつ、20700円ずつな。持ってるよな?」
「勿論デース! 四捨五入する必要もアリマセーンヨ!!」
そうしてペコは律儀に小銭まで揃えてレジ皿に置いたので、ヨウヘイもそれに合わせて残りの半額を置いた。
「――確かに受け取りました。では…………よっと。またお越しくださーい。」
店員の青年は丁寧にハードとソフトを分けて袋で梱包して詰め、手提げ袋にしてヨウヘイに差し出した。
「ありがとーっす。こんな近くにあるとは知らんかったわ……きっとまた来るわ。えーっと……オオヅメ、さん?」
「――えっ。はい……僕の名前ですよね。そうですけど……。」
ヨウヘイはシャツに取り付けられた名札を見て、店員の名を呼んだ。
「――あんた、見た感じ俺と歳あんま変わんねえよな? 俺はヨウヘイ。金代用幣《カネシロヨウヘイ》ってんだ。この近くの喫茶店……『RICH&POOR』ってトコで店員やってんだよ。これでもコーヒーやイタリアンで美味いって評判なんだぜ。良かったら寛ぎに来てくれよ。ペコも働いてっし、このパツキン白衣の姉さんもよく来るんだぜ。」
――何となく親近感を覚えたヨウヘイは、目の前のオオズメという青年に、カジタやペコと3人でほぼ手作りで拵えて近所のコンビニのコピー機で刷った名刺を渡した。
「あっ、それなら、こちらも…………僕はオオズメ。太詰杉《オオズメスギ》って言います。こちらこそ、時間が出来たら立ち寄ってみますね。」
オオズメと言う名の青年からも名刺を返された。赤、青、黄、緑のレトロゲーム機を象徴するカラフルなデザインがされたものだった。
「――結構。じゃあ、次はわっちでありんすね。よいしょっと…………この、5点で。」
続けて、マユが適当に見繕ったハードを5点、重そうにレジに置いた。
「――あっ! し、失礼します! えーっと、えーっとお…………。」
――ハード5点購入はかなりの上得意様である。会計を済ませるだけでなく、マユにも名刺やらチラシやらを慌てて用意し、緊張している。
やはりこの青年、オオズメ=スギは女性に免疫がないようである。
「――重そうだなー。俺らが持つよ。そのゲーム機5つ。」
「……そうでありんすねえ。じゃあ、近うに車停めてあるから、そこまでお願いしんす。」
「――ラジャーデス! マユサン!! えへへ~。」
――こうして、偶然見付けたレトロゲームショップでのやり取りは終わり、皆満足した様子で店を後にした――――
滅多に自分のこの小さな店には来ない海外からの客。しかも美人が2人も。
――そう思っていたが、一番第一印象で好感を抱いたペコは、男性だと知らされた。
彼の一瞬前に芽生えたばかりの恋心は、短いそのまた一瞬でかき消えてしまったのだろうか……。
そんな彼のショックなど夢にも思わないヨウヘイ、ペコ、そして『職員へのボーナスを兼ねて』とマユが店内の商品を物色していった。
「――へえ~。覆面ライダーゾルゲってこんなにゲーム化されてたのかあ。まだ俺ん家に辛うじてTVがあった頃に本放送見たっきりだなあ…………。」
「ア!! 知ってるデース!! 海外のチーターが意図的にバグらせる機器使って動画にしてマーシタ。敵の破壊光線を股間に受けた時のモーションがHENTAI的過ぎて腹が捩れマシーター!! まあ、ゲームバグらせるのは限りなくグレーゾーンってかほぼブラックな行為デスケドネー。どうせその人も正規のルートで手に入れたソフトじゃあなくてネットで違法アップロードされてたのをパソコンに取り込んで弄ってると思いマスシ。」
「マジかよ。ネタ動画作るのに危ねえ橋渡ってんなー……興味はあるが気が引けるぜ。」
「――世界的に一番のシェア数を誇ってるのはこのハード……でありんすが、最近日本円も円安が進んだからか異常に高いでありんす…………そういえば公式が2度目の値上げを断行したとかアナウンスしていた…………だとするとやはり国内で一番のシェア数で幅広い年齢層に親しまれているこっちのハードが安心か……価格も安いし。そういえば後継機が出るのでありんしたか。」
ヨウヘイとペコが些か会話にするのも危ういゲーム動画の話題で盛り上がり、マユは自身はゲームをしないが、企業の社長としてある程度市場はチェックしているらしく、企業公式からの情報やプレゼントをあげたい部下たちの顔を思い浮かべつつ選別していく。
――小一時間ほどそうしていただろうか。やがて買う商品を決め、レジで待つ青年のもとへ持って行った。
「――? 店員さん、お会計だぜ。」
「――へっ? ……ああ、これは失礼いたしました! えーと……こちら…………合わせて7点ですね……。」
――先程の勘違いからのショックが尾を引いているのか、青年は少しばかり心ここにあらずといった風情でぼんやりしてしまっていた。慌てて会計をする。
ヨウヘイとペコはそれぞれの好みのソフトを6点。ハードを先ほど店員の青年に薦められたものを1点買うことにした。
「――ハードが1点で、24800円。ソフトが6点で15600円……合計で41400円になりますー。」
「OK。じゃあ――」
ヨウヘイが万札を5枚出そうとしたが――――
「ウン モメント ペルファヴォーレ!(ちょっと待って!) これはヨウヘイセンパイだけでなくボクの買い物でもアリマース! 折半して、半額ダシマースヨ!!」
「え。いいのか、ペコ?」
――意外なことに、ペコはヨウヘイの奢りにはせず、代金を折半すると申し出た。
「――ボクだって店で働いてお給料貰ってマース!! 自分の欲しい物くらいなるべくなら自分で買いマース! 一緒にいるのがスィニョリーナ(お嬢さん)ならむしろ全額出すクライデース!! このゲームも、多分センパイと半々で遊ぶハズデース。だから半額で丁度いいデースヨ!!」
「おめえ……」
――初対面の時のヨウヘイに対して敵愾心剥き出しのペコから考えられない申し出だ。
彼は両親に溺愛されて育ってきた。自分が望むものどころか、別に望んでないものまで何でも彼に買い与えたことだろう。
そして、それを有難いとは思いつつも、自分にとって良いこととは思っていない。
――日ノ本で、少しでも自立を。それがペコなりの願いなのだろう。
「――わかったよ。あんがとな。じゃあ……半分ずつ、20700円ずつな。持ってるよな?」
「勿論デース! 四捨五入する必要もアリマセーンヨ!!」
そうしてペコは律儀に小銭まで揃えてレジ皿に置いたので、ヨウヘイもそれに合わせて残りの半額を置いた。
「――確かに受け取りました。では…………よっと。またお越しくださーい。」
店員の青年は丁寧にハードとソフトを分けて袋で梱包して詰め、手提げ袋にしてヨウヘイに差し出した。
「ありがとーっす。こんな近くにあるとは知らんかったわ……きっとまた来るわ。えーっと……オオヅメ、さん?」
「――えっ。はい……僕の名前ですよね。そうですけど……。」
ヨウヘイはシャツに取り付けられた名札を見て、店員の名を呼んだ。
「――あんた、見た感じ俺と歳あんま変わんねえよな? 俺はヨウヘイ。金代用幣《カネシロヨウヘイ》ってんだ。この近くの喫茶店……『RICH&POOR』ってトコで店員やってんだよ。これでもコーヒーやイタリアンで美味いって評判なんだぜ。良かったら寛ぎに来てくれよ。ペコも働いてっし、このパツキン白衣の姉さんもよく来るんだぜ。」
――何となく親近感を覚えたヨウヘイは、目の前のオオズメという青年に、カジタやペコと3人でほぼ手作りで拵えて近所のコンビニのコピー機で刷った名刺を渡した。
「あっ、それなら、こちらも…………僕はオオズメ。太詰杉《オオズメスギ》って言います。こちらこそ、時間が出来たら立ち寄ってみますね。」
オオズメと言う名の青年からも名刺を返された。赤、青、黄、緑のレトロゲーム機を象徴するカラフルなデザインがされたものだった。
「――結構。じゃあ、次はわっちでありんすね。よいしょっと…………この、5点で。」
続けて、マユが適当に見繕ったハードを5点、重そうにレジに置いた。
「――あっ! し、失礼します! えーっと、えーっとお…………。」
――ハード5点購入はかなりの上得意様である。会計を済ませるだけでなく、マユにも名刺やらチラシやらを慌てて用意し、緊張している。
やはりこの青年、オオズメ=スギは女性に免疫がないようである。
「――重そうだなー。俺らが持つよ。そのゲーム機5つ。」
「……そうでありんすねえ。じゃあ、近うに車停めてあるから、そこまでお願いしんす。」
「――ラジャーデス! マユサン!! えへへ~。」
――こうして、偶然見付けたレトロゲームショップでのやり取りは終わり、皆満足した様子で店を後にした――――
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
短い怖い話 (怖い話、ホラー、短編集)
本野汐梨 Honno Siori
ホラー
あなたの身近にも訪れるかもしれない恐怖を集めました。
全て一話完結ですのでどこから読んでもらっても構いません。
短くて詳しい概要がよくわからないと思われるかもしれません。しかし、その分、なぜ本文の様な恐怖の事象が起こったのか、あなた自身で考えてみてください。
たくさんの短いお話の中から、是非お気に入りの恐怖を見つけてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる