課金ヒーロー! リッチマン!!

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第50話 お会計

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 ――――緑色を基調としたデザインのセーターに缶バッジを取り付け、茶色のカーゴパンツに眼鏡という出で立ちの店員の青年は、しばらくは呆然と3人を眺めていた。




 滅多に自分のこの小さな店には来ない海外からの客。しかも美人が2人も。




 ――そう思っていたが、一番第一印象で好感を抱いたペコは、男性だと知らされた。





 彼の一瞬前に芽生えたばかりの恋心は、短いそのまた一瞬でかき消えてしまったのだろうか……。




 そんな彼のショックなど夢にも思わないヨウヘイ、ペコ、そして『職員へのボーナスを兼ねて』とマユが店内の商品を物色していった。




「――へえ~。覆面ライダーゾルゲってこんなにゲーム化されてたのかあ。まだ俺ん家に辛うじてTVがあった頃に本放送見たっきりだなあ…………。」




「ア!! 知ってるデース!! 海外のチーターが意図的にバグらせる機器使って動画にしてマーシタ。敵の破壊光線を股間に受けた時のモーションがHENTAI的過ぎて腹が捩れマシーター!! まあ、ゲームバグらせるのは限りなくグレーゾーンってかほぼブラックな行為デスケドネー。どうせその人も正規のルートで手に入れたソフトじゃあなくてネットで違法アップロードされてたのをパソコンに取り込んで弄ってると思いマスシ。」





「マジかよ。ネタ動画作るのに危ねえ橋渡ってんなー……興味はあるが気が引けるぜ。」




「――世界的に一番のシェア数を誇ってるのはこのハード……でありんすが、最近日本円も円安が進んだからか異常に高いでありんす…………そういえば公式が2度目の値上げを断行したとかアナウンスしていた…………だとするとやはり国内で一番のシェア数で幅広い年齢層に親しまれているこっちのハードが安心か……価格も安いし。そういえば後継機が出るのでありんしたか。」




 ヨウヘイとペコが些か会話にするのも危ういゲーム動画の話題で盛り上がり、マユは自身はゲームをしないが、企業の社長としてある程度市場はチェックしているらしく、企業公式からの情報やプレゼントをあげたい部下たちの顔を思い浮かべつつ選別していく。





 ――小一時間ほどそうしていただろうか。やがて買う商品を決め、レジで待つ青年のもとへ持って行った。





「――? 店員さん、お会計だぜ。」




「――へっ? ……ああ、これは失礼いたしました! えーと……こちら…………合わせて7点ですね……。」





 ――先程の勘違いからのショックが尾を引いているのか、青年は少しばかり心ここにあらずといった風情でぼんやりしてしまっていた。慌てて会計をする。





 ヨウヘイとペコはそれぞれの好みのソフトを6点。ハードを先ほど店員の青年に薦められたものを1点買うことにした。





「――ハードが1点で、24800円。ソフトが6点で15600円……合計で41400円になりますー。」





「OK。じゃあ――」





 ヨウヘイが万札を5枚出そうとしたが――――





「ウン モメント ペルファヴォーレ!(ちょっと待って!) これはヨウヘイセンパイだけでなくボクの買い物でもアリマース! 折半して、半額ダシマースヨ!!」




「え。いいのか、ペコ?」




 ――意外なことに、ペコはヨウヘイの奢りにはせず、代金を折半すると申し出た。




「――ボクだって店で働いてお給料貰ってマース!! 自分の欲しい物くらいなるべくなら自分で買いマース! 一緒にいるのがスィニョリーナ(お嬢さん)ならむしろ全額出すクライデース!! このゲームも、多分センパイと半々で遊ぶハズデース。だから半額で丁度いいデースヨ!!」





「おめえ……」





 ――初対面の時のヨウヘイに対して敵愾心剥き出しのペコから考えられない申し出だ。





 彼は両親に溺愛されて育ってきた。自分が望むものどころか、別に望んでないものまで何でも彼に買い与えたことだろう。





 そして、それを有難いとは思いつつも、自分にとって良いこととは思っていない。





 ――日ノ本で、少しでも自立を。それがペコなりの願いなのだろう。





「――わかったよ。あんがとな。じゃあ……半分ずつ、20700円ずつな。持ってるよな?」





「勿論デース! 四捨五入する必要もアリマセーンヨ!!」





 そうしてペコは律儀に小銭まで揃えてレジ皿に置いたので、ヨウヘイもそれに合わせて残りの半額を置いた。





「――確かに受け取りました。では…………よっと。またお越しくださーい。」





 店員の青年は丁寧にハードとソフトを分けて袋で梱包して詰め、手提げ袋にしてヨウヘイに差し出した。





「ありがとーっす。こんな近くにあるとは知らんかったわ……きっとまた来るわ。えーっと……オオヅメ、さん?」





「――えっ。はい……僕の名前ですよね。そうですけど……。」





 ヨウヘイはシャツに取り付けられた名札を見て、店員の名を呼んだ。




「――あんた、見た感じ俺と歳あんま変わんねえよな? 俺はヨウヘイ。金代用幣《カネシロヨウヘイ》ってんだ。この近くの喫茶店……『RICH&POOR』ってトコで店員やってんだよ。これでもコーヒーやイタリアンで美味いって評判なんだぜ。良かったら寛ぎに来てくれよ。ペコも働いてっし、このパツキン白衣の姉さんもよく来るんだぜ。」





 ――何となく親近感を覚えたヨウヘイは、目の前のオオズメという青年に、カジタやペコと3人でほぼ手作りで拵えて近所のコンビニのコピー機で刷った名刺を渡した。




「あっ、それなら、こちらも…………僕はオオズメ。太詰杉《オオズメスギ》って言います。こちらこそ、時間が出来たら立ち寄ってみますね。」




 オオズメと言う名の青年からも名刺を返された。赤、青、黄、緑のレトロゲーム機を象徴するカラフルなデザインがされたものだった。





「――結構。じゃあ、次はわっちでありんすね。よいしょっと…………この、5点で。」





 続けて、マユが適当に見繕ったハードを5点、重そうにレジに置いた。




「――あっ! し、失礼します! えーっと、えーっとお…………。」





 ――ハード5点購入はかなりの上得意様である。会計を済ませるだけでなく、マユにも名刺やらチラシやらを慌てて用意し、緊張している。





 やはりこの青年、オオズメ=スギは女性に免疫がないようである。





「――重そうだなー。俺らが持つよ。そのゲーム機5つ。」





「……そうでありんすねえ。じゃあ、近うに車停めてあるから、そこまでお願いしんす。」





「――ラジャーデス! マユサン!! えへへ~。」





 ――こうして、偶然見付けたレトロゲームショップでのやり取りは終わり、皆満足した様子で店を後にした――――
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