傾奇者-KABUKIMONO-

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第17話 負け虫の魂

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 突然のキリ子の名を叫ぶ男の声。

 間もなく、キリ子の後ろから土煙を上げて誰かが走り寄って来る。

「……無事か、キリ子ぉ!?」

 息を弾ませ現れたのは、何やら虫を思わせる顔をした青年だった。

 ヒロシは一瞬、仮面でも被っているのか、と思ったが……どうやらバッタのような顔は元からの顔立ちのようだ。ライダー何某ではない。

「――バッターモン! 良かった、来てくれたのね!」

「怪我は無いか!? 俺がこの前の誕生日にプレゼントした鎌は!?」

 バッターモンと呼ばれた虫顔の青年はキリ子を抱き寄せ、彼女の無事を確認する。

「ありがとうバッターモン。貴方から貰ったこの鎌も新品同然よ! バッチグーッ!!」

 やや古い、しかし未だ問題は無いことをアピールする言葉を叫び、キリ子は右手で鎌を大事そうに持ち、左手で親指を立てた。

 そしてヒロシの方を向き直り、睨みつける。

「……でもねバッターモン。ヘマをしてこのオトコにやられちゃいそうなの……お願い、手を貸して?」

「おうっ! 言われるまでもねえさ! 俺の彼女に手を出す奴は、どんな野郎だろうと許さねえっ!!」

 どうやらキリ子とは恋仲らしい。バッターモンは続けて何やら特撮ヒーローのようなポージングを次々と決めつつ、口上を述べる。

「……愛する女を守る為! そして、カオスシティの平和を守る為! 邪悪な侵略者は俺が成敗する……正義のヒーロー・バッターモン……参上ッ!!」

 大見得を切る様。正しく『傾奇』。

「へっ! 他人から金品を奪おうとするコソ泥が正義のヒーローを名乗るなんざ、チャンチャラおかしいぜ!」

 そしてヒロシもまた傾奇者≒中ニ病患者なポージングを次々と決めながらこう返した。

「我こそは……伊達に酔狂にハッタリ度胸! 己の生き様見せつける為! この街、この生命いのち、世に刻む為! 『傾奇ノ祭リ』で一等賞……傾奇の王者・ジョー=ヒロシ……ぁア、推参ンンンッ!!」

「…………」
「…………」



((決まったぜ…………!))

 互いに大見得を切り合い、悦に浸るヒロシとバッターモン。

 だが、いかにも英雄のように口上を述べる二人の間には、スラム通りの荒涼な風が吹き抜け……何となく情けない空気が漂う。

「「……ごほんっ!」」

 キリ子の冷めた視線を感じたせいか、同時にヒロシとバッターモンは大袈裟に咳払いをした。

「……さあ行くぜ、キリ子よ! 一緒にカオスシティの悪を成敗だ!」

「え、ええ! 頼りにしてるわよ♡」

 虫人間のカップルはオトコは拳を握り、オンナは鎌を構えた。

 ――――ジャキンッ!! 

 それに対し、ヒロシは威圧感を込めて大袈裟に音を立てて、右手にはゲンジバンザイソードの太刀を、左手には44マグナムの銃を構えた。

「……えっ? ええ~っ……こっち素手と鎌なのに、お前そんなデカい刀と鉄砲使うの……!? ちょ、ちょちょ、待って――――」

「……あアン!?」

「ヒィイッ! こ、恐いッ!!」

 相手が動揺したのを見てヒロシは試しに凄んでみたが、予想以上にバッターモンは震え上がった。脚が笑い、カタカタと歯を鳴らし、その緑がかった顔の青みを増している。

(あっ、思った通りこいつビビりだ。なかなかのヘタレ)

「あ? コラ! ん? コラ!!」

「ふえええええ…………」

 やたら放つ「コラ」の意味をヒロシはもはや理解していなかったが、凄む度にバッターモンは小動物のように跳ねて縮み上がった。

「……ちょっと……助けに来たんならせめて私の後ろに隠れず戦ってよ……」

「……はっ! そ、そうだった! こうしちゃいられねえ!」

 キリ子の後ろに隠れていたバッターモンは我に返り、覚悟を決めて前に数歩進み出た。

「……い、いいかコンチクショウ! どんな卑怯な手を使おうがな! 惚れた女を捨てて、に、逃げるわけねえだろ! ……そうだ。俺こそがヒーロー!!」

「ほーう……」

 ヒロシはこの青年がただのヘタレならば威圧して戦意を奪えるかとも思ったが、愛する女性がいればすぐに戦意を取り戻すと気付いた。

(なかなか真っ直ぐな奴じゃあねえか。こういう戦いは……悪くはねえな)

 内心バッターモンの純朴さへの敬意を持ちながらも、ヒロシは構え、駆け出した! 

「行くぜ! でやあッ!」

「く、くく喰らえ! サンドストォォーームッ!!」

「うおっ!?」

 突進したヒロシにバッターモンの迎撃。強そうな名前とは裏腹に、それは砂を巻き上げての目眩しだった。

「ゲホッ、ゲホッ、ペッ……こんにゃろ、卑怯なのはどっち――――」

 そう言い切る前に、後ろに回り込んだキリ子が斬りかかって来た! 

「うぅっ!」

「……ちっ! なかなかの用意周到さ!」

 鎌による斬撃は、ヒロシが着込んだ防護ジャケットによって防がれた。

 だが、キリ子も戦い慣れしているようだ。頑強なジャケットに大きく傷を付け、防護材の繊維がスラム通りの宙に舞う! 

「やべっ、ちっ!」

 ヒロシは慌てて飛び退き、二人と距離を取った。すぐに目元の砂を拭う。

「危ねぇ危ねぇ……おっ!?」

 目を開けたヒロシの足元には、うずくまるバッターモンの姿があった。

 両膝を付き、両掌も地につけ、そして額を地につける。そう。これは――――

「……これは……俺は知ってるぜ。事案を見逃して貰ったり、相手に全面的に降参の意を示す、『日ノ本人のデフォルト処世術』……」

「そオーォォだよっ! 土下座だよ!! 頼むっ! 殺るなら俺だけを殺れ! だからキリ子だけは……キリ子だけはーっ!!」

「おめえ……」

 見れば、キリ子も鎌を落としている。そのプライドを捨てて彼女を助けようとする姿に情を――――

「……惑わされると思ったか! それを言うなら、背中に隠した『もう一本』も捨てて言えってんだ!」

「バレた!!」
「こなくそォォーゥッ!!」

 バッターモンは騙し討ちが悟られた瞬間にブレイクダンスを思わせる手足捌きで足払いを繰り出した! 

 ヒロシも素早くジャンプで躱し、次に背中から抜き放ったキリ子の斬撃を刀で受ける。

 受け止めている間に、左手の銃を撃つ! 

「くっ……!」

 キリ子は刀身をずらして辛うじて銃弾を弾き、距離を置く。すかさず落とした片方の鎌を回収した。

「こぉんにゃろ――――うげぇっ!!」

 激昂したバッターモンだが、ヒロシは慌てずに銃底でこめかみを一撃。運良く昏倒させた。

「バッターモンッ!」

「動くな。彼氏にこれ以上傷を付けられたくなきゃな」

 ヒロシは素早く太刀をバッターモンの頸部にあてがう。

「選びな。無茶を続けて彼氏を痛めつけられるか、降参してもう俺には関わらないか」

「……くっ!」

「頼むぜ、退いてくれ。俺は無駄な血は流したくねえ……さあ、その武器をこっちに渡しな」

「……」

「それとも、彼氏を置いて逃げるか?」

 と、その刹那――――ヒロシは足を圧迫された! 

「なっ!?」

「うう……それも……いいかもな……キリ子が元気に……やってくれりゃあ……ここで俺一人殺られても……本望、だぜ」

「バッターモン!!」

「いくぜ、キリ子! 現時点で俺たちが出来る最強の必殺技をなっ!!」

「……わかったわ!」

「おおおおおおおーーーッッッ!!」

 ヘタレ男の、渾身の雄叫び。

 その雄叫びと共に――――バッターモンはまばゆい閃光と爆煙を放った!! 
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