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第7話 楽師とダンサー(問題児)
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「ねえ。仲間を集めるんなら、酒場にも行ってみようよ。人集まるし、意外な戦力いたりするわよ?」
「そうだな。よし。酒場に行きますか」
「酒場ならこの王国で一番の……というか、この小さな王国に一軒ぐらいしかないのですが……評判の良い酒場があります。ええと、どっちだったかな……私はあまりお酒は好かないタチでして……」
ウルリカの提案でラルフ一行は酒場に立ち寄ることに決めた。ロレンスが地図と土地勘を頼りに案内した。
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「ここですね……何やら歌声が聴こえますな……いつにも増して盛り上がっているのやも。まだ日は高いはずですが……」
盛り場は性に合わないというロレンスは、眉根を顰めて酒場の扉の裏から聴こえてくる喧騒にたじろぐ。
「いいじゃん、入ろ! あたしの顔見知りもいたりして!」
ウルリカは意気揚々と扉を開けて、大股で店内に歩を進める。
――酒場はなかなかのスペースがあった。
寒い時期への対策にあちこちに暖炉やストーブが設置され、客席には様々な酒は勿論、瑞々しい果物や定食料理など、大衆酒場としてなかなかの要領を得ている様子だ。
「……歌声の主は、あの娘か?」
ブラックが指を指すとその方向には、赤い絨毯の上に……エレキギターを奏でる若い女性と、軽快なステップと共にナイフを縦横無尽に踊らせながら華麗なダンスを披露している同じく若い女性がいる。
「……旅芸人かな?」
「むう……この国ではあまり見かけぬ出で立ちですな。そう考えるのが妥当かと――――」
「おっ? いいねいいね! 音楽にダンスって! あたしもまーざろーうっと!!」
すると突然ウルリカは、ギター奏者の女性とダンサーの女性の間に割って入り、自らも歌と踊りを披露した。
「♪この世の~果てでも果てで~も~あたっしは~すすーみつづ~ける~♪」
「……下手だな。音痴だ。耳鼻咽喉科の治療を試みたくなる」
「まあ、本人が楽しければ」
「ううう。私はやはりこういう騒がしい場所は苦手です~……」
男性陣が遠巻きに見つめていると、さっきまで軽快にステップを踏んでいた女性が立ち止まってしまった。
「……わっ! ととと……」
「♪おお~、飛び入り参加かあ~そ~いつはだ~いか~んげ~~~い♪」
奏者の女性がそう即興で歌い(綺麗なビブラートで)、突然何やら曲調を変えた。
――エレキギターは荒々しく嘶き、奏者の女性はとてつもない声量でパワーボイスを披露する。
一際激しい曲調に沸き立つ聴衆もいれば、あまりのボリュームに顔を顰めて耳を塞ぐ客もいる。ロレンスはもちろん後者だ。
「……お? おお? おおおお?」
だが、奏者の女性のアグレッシブな歌声を聴いていると、ウルリカは高揚感と共に身体の内側から漲る力に嬌声を上げた。
「……あ、あの~……」
「……ラルフ! こいつの歌声すっごい! なんか力湧いてくるんだけど! すっごー!!」
ダンサーの女性が何やら言いたそうだが、ウルリカの耳に入っていない。
「ウルリカさん。なんかこっちの娘、困ってますよ。一旦退いてあげれば――――」
「待て」
ラルフの制止を、ブラックが遮った。
「……この歌声。ただ音楽を聴いて精神的にハイになっているだけではないようだ。娘の歌声に……何か特殊な波長が生じて、聴く者の神経伝達や筋繊維の働きを活発にさせるようだな――――興味深い」
「え……そんなことが有り得るんですか?」
「うう……文献で読んだことがあります。特殊な音波が、聴く生物の身体能力を助長することもあるようです……一部の動物や魔物に備わっている能力ですが、人間にも本当に存在したとは……」
「やはりか。ならば、彼女たちにも仲間になってもらうよう声をかけてみてもよいかもな」
「やっぱ、そうよねー! ……ねえちょっと! 一旦歌うのを――――」
「♪歌は~せかいーを~救うぜ~救っちゃうんだ~ぜ~♪」
奏者は聞く耳を持たず、ただひたすら歌い続けている……。
「……急に入ってこられると、踊るのに必要なテンポが乱れます……」
「あら? あんたは違うの? 自分で強くなれる歌とか歌えないの、はは!」
「……むう……」
突然ウルリカに介入されたダンサーの娘は不機嫌そうに膨れている。
「……ちょっと。あんたは歌うのを――――」
「♪だから~歌聴けよ~聴けってんだ~よ~……♪」
「…………」
「…………」
「…………」
三人の女性の間に、ただ奏者の歌声とギターの嘶きだけが数秒間、経った瞬間――――
「「聴けぇーーーっ!!」」
とうとう痺れを切らしたウルリカと奏者の娘は殴り合いの喧嘩を始めた! 片や鉄拳。片やギター! 押し売りの感情がもたらす闘争ッ!!
「なっ……ラルフ殿、喧嘩になりましたよ!」
「早く止めないとこんな人集りで事を起こすと――――」
――――シャキイイイィィィンンン…………
ラルフが止めようと駆け寄った瞬間、凄まじい風圧が生じた。ラルフが起こしたのではない。
突風を伴う身のこなしを見せたのは――――ダンサーの娘だった。剣舞の為に振るっていた両手のナイフを、そのまま奏者の娘とウルリカの喉元寸前に突き立てて止まっていた。
「……うふふふふ。聞こえないのかしら。話し合いをするには、まずは動きを止めるべきですわ――――死にたくなければ、ね」
ダンサーの目が妖しく光る。先程までは綺麗なライトブルーの瞳だったのが、突如、スズメバチなどを思わせる警戒色の黄色の光を放っている…………!
ウルリカと奏者が完全に動きを止めたのを見て、ダンサーはゆっくりとその瞳をライトブルーに戻し、にっこりと微笑んだ。
「…………ね?」
「お、おう……」
「わ、わかったわよ。わかったから、これ、どけて……こ、恐~っ…………」
「…………」
「…………」
ラルフとロレンスも呆気に取られる。騒ぎを一瞬にして止めるほどの鋭い殺気と、その身のこなしにだ。
「……ふーっ……騒ぎが収まったところで、落ち着いて話をしようじゃあないか。――マスター。コーヒーを六つ頼む」
「そうだな。よし。酒場に行きますか」
「酒場ならこの王国で一番の……というか、この小さな王国に一軒ぐらいしかないのですが……評判の良い酒場があります。ええと、どっちだったかな……私はあまりお酒は好かないタチでして……」
ウルリカの提案でラルフ一行は酒場に立ち寄ることに決めた。ロレンスが地図と土地勘を頼りに案内した。
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「ここですね……何やら歌声が聴こえますな……いつにも増して盛り上がっているのやも。まだ日は高いはずですが……」
盛り場は性に合わないというロレンスは、眉根を顰めて酒場の扉の裏から聴こえてくる喧騒にたじろぐ。
「いいじゃん、入ろ! あたしの顔見知りもいたりして!」
ウルリカは意気揚々と扉を開けて、大股で店内に歩を進める。
――酒場はなかなかのスペースがあった。
寒い時期への対策にあちこちに暖炉やストーブが設置され、客席には様々な酒は勿論、瑞々しい果物や定食料理など、大衆酒場としてなかなかの要領を得ている様子だ。
「……歌声の主は、あの娘か?」
ブラックが指を指すとその方向には、赤い絨毯の上に……エレキギターを奏でる若い女性と、軽快なステップと共にナイフを縦横無尽に踊らせながら華麗なダンスを披露している同じく若い女性がいる。
「……旅芸人かな?」
「むう……この国ではあまり見かけぬ出で立ちですな。そう考えるのが妥当かと――――」
「おっ? いいねいいね! 音楽にダンスって! あたしもまーざろーうっと!!」
すると突然ウルリカは、ギター奏者の女性とダンサーの女性の間に割って入り、自らも歌と踊りを披露した。
「♪この世の~果てでも果てで~も~あたっしは~すすーみつづ~ける~♪」
「……下手だな。音痴だ。耳鼻咽喉科の治療を試みたくなる」
「まあ、本人が楽しければ」
「ううう。私はやはりこういう騒がしい場所は苦手です~……」
男性陣が遠巻きに見つめていると、さっきまで軽快にステップを踏んでいた女性が立ち止まってしまった。
「……わっ! ととと……」
「♪おお~、飛び入り参加かあ~そ~いつはだ~いか~んげ~~~い♪」
奏者の女性がそう即興で歌い(綺麗なビブラートで)、突然何やら曲調を変えた。
――エレキギターは荒々しく嘶き、奏者の女性はとてつもない声量でパワーボイスを披露する。
一際激しい曲調に沸き立つ聴衆もいれば、あまりのボリュームに顔を顰めて耳を塞ぐ客もいる。ロレンスはもちろん後者だ。
「……お? おお? おおおお?」
だが、奏者の女性のアグレッシブな歌声を聴いていると、ウルリカは高揚感と共に身体の内側から漲る力に嬌声を上げた。
「……あ、あの~……」
「……ラルフ! こいつの歌声すっごい! なんか力湧いてくるんだけど! すっごー!!」
ダンサーの女性が何やら言いたそうだが、ウルリカの耳に入っていない。
「ウルリカさん。なんかこっちの娘、困ってますよ。一旦退いてあげれば――――」
「待て」
ラルフの制止を、ブラックが遮った。
「……この歌声。ただ音楽を聴いて精神的にハイになっているだけではないようだ。娘の歌声に……何か特殊な波長が生じて、聴く者の神経伝達や筋繊維の働きを活発にさせるようだな――――興味深い」
「え……そんなことが有り得るんですか?」
「うう……文献で読んだことがあります。特殊な音波が、聴く生物の身体能力を助長することもあるようです……一部の動物や魔物に備わっている能力ですが、人間にも本当に存在したとは……」
「やはりか。ならば、彼女たちにも仲間になってもらうよう声をかけてみてもよいかもな」
「やっぱ、そうよねー! ……ねえちょっと! 一旦歌うのを――――」
「♪歌は~せかいーを~救うぜ~救っちゃうんだ~ぜ~♪」
奏者は聞く耳を持たず、ただひたすら歌い続けている……。
「……急に入ってこられると、踊るのに必要なテンポが乱れます……」
「あら? あんたは違うの? 自分で強くなれる歌とか歌えないの、はは!」
「……むう……」
突然ウルリカに介入されたダンサーの娘は不機嫌そうに膨れている。
「……ちょっと。あんたは歌うのを――――」
「♪だから~歌聴けよ~聴けってんだ~よ~……♪」
「…………」
「…………」
「…………」
三人の女性の間に、ただ奏者の歌声とギターの嘶きだけが数秒間、経った瞬間――――
「「聴けぇーーーっ!!」」
とうとう痺れを切らしたウルリカと奏者の娘は殴り合いの喧嘩を始めた! 片や鉄拳。片やギター! 押し売りの感情がもたらす闘争ッ!!
「なっ……ラルフ殿、喧嘩になりましたよ!」
「早く止めないとこんな人集りで事を起こすと――――」
――――シャキイイイィィィンンン…………
ラルフが止めようと駆け寄った瞬間、凄まじい風圧が生じた。ラルフが起こしたのではない。
突風を伴う身のこなしを見せたのは――――ダンサーの娘だった。剣舞の為に振るっていた両手のナイフを、そのまま奏者の娘とウルリカの喉元寸前に突き立てて止まっていた。
「……うふふふふ。聞こえないのかしら。話し合いをするには、まずは動きを止めるべきですわ――――死にたくなければ、ね」
ダンサーの目が妖しく光る。先程までは綺麗なライトブルーの瞳だったのが、突如、スズメバチなどを思わせる警戒色の黄色の光を放っている…………!
ウルリカと奏者が完全に動きを止めたのを見て、ダンサーはゆっくりとその瞳をライトブルーに戻し、にっこりと微笑んだ。
「…………ね?」
「お、おう……」
「わ、わかったわよ。わかったから、これ、どけて……こ、恐~っ…………」
「…………」
「…………」
ラルフとロレンスも呆気に取られる。騒ぎを一瞬にして止めるほどの鋭い殺気と、その身のこなしにだ。
「……ふーっ……騒ぎが収まったところで、落ち着いて話をしようじゃあないか。――マスター。コーヒーを六つ頼む」
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