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第9話 霊園へ
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「……さて……次は回復法術に特化した回復要員……ヒーラーが欲しい所だな」
「……医者であるブラックさんだけでは難しいのですか?」
ヒーラーが欲しいと呟くブラックにロレンスはやや意外そうに尋ねる。
「医術のみでの治療だともしもの時に時間がかかるからな。医薬品なども量を切らすとまずい。医術と法術。二重の回復手段があれば盤石だろう……ヒーラーが立ち寄りそうな処は?」
「一般的にヒーラーとは教会から手ほどきを受けた僧侶であることが多い。……ロレンス、この王国に教会はあるか?」
「……うーむ……あることはありますが…………」
ラルフの問いにロレンスは何やら頭を抱えながら唸る。
「……我が国レチアの教会は他国より閉鎖的で保守的なスタンスでして……恐らく、他国から僧侶が訪ねてきても安易には立ち入れないでしょう」
「……そうか。宗教の違いで志を同じくする人々までシャットアウトする。人間の弱い所だな…………」
「……他に僧侶が立ち寄りそうな処と言えば……国の北東にある霊園ぐらいでしょうな」
「霊園。墓地か……早速行ってみよう。参拝しているヒーラーがいるかもしれない」
<<
レチア王国は小国。やはり霊園にもすぐに辿り着いた。
だが、霊園と言うにはあまりにも小さい。小さな市民公園ほどの広さもなく、建てられている墓も数えるほどしかなかった。
「随分小さな霊園だな……」
ラルフの感想に、ロレンスは一際渋い顔をする。
「……我が王国は外来者からは『観光業と財政の整った良い国』と称えられることが多いですが……実際は我が君がやるような質素倹約――いや、とにかくケチな節制の仕方でして。この地で亡くなった方はほとんど自然葬にされるので…………」
「……つまり滅多に墓をこしらえたりしない、という事か……手入れと土地の管理、更には遺体の処理まで削減した政策。徹底しているな……それで遺族は満足なのかね?」
「中には不満を抱く遺族もおられます。ですが、先ほど申し上げた宗教の違いで……自然葬による自然崇拝が浸透しているので、改善しようとする運動は今現在起きておりません。どうしても墓を建てたければ……王国に直接建造費を献上するようになっております」
「……あの王も、ある意味抜け目無いな……ん?」
ラルフがふと霊園の奥に目を向けると、参拝しているらしき人影が見えた。
「……はあ~あ……もうこの辺りの霊園にお参りするの疲れたにゃ~……くぁわい~い女の子でも侍らせたいにゃ~……」
何やらボヤいているのは、猫人《ねこひと》の亜人種の少女だった。猫人とは言うが早いか、人間の中に猫としての形質も併せ持つ種族のことだ。
「……ん? ……オオオッ! そこにゃ行くのは、麗しいおねいさんたちじゃあにゃいかあーっ!!」
ラルフたち――いや、ラルフたちに付いてくる女性たちに反応した猫人の少女は、びくんっ、と身体を跳ねた後、途端にハイテンションで話しかけてきた。
「この国では見かけないイカした美人さんにゃ~。是非是非お近付きになりたいにゃ~ん」
「……え? もしかして私とヴェラ様のことですか?」
「ザッツライッ! ……こっちの桃色の髪して青い瞳が綺麗なおねいさんは、耽美な中にもどこか危険なムードがあって麗しいにゃーん! ……こっちのギター持ってるおねいさんは並の女にはないマニッシュで型破りな雰囲気がグレエエエエトにゃっ!」
「おうっ! おめえもオレの歌を聴きたいってか?」
「ヴェ、ヴェラ殿、仮にも死者が眠る場なのでそれはご勘弁を……」
ギターを爪弾くヴェラを宥めるロレンスの横で、ブラックは不気味な笑みを浮かべる。
「ふむ……猫人の亜人種か……基本的な肉体の成分構成は人間と同じだろうが――――人間とは違う感覚器官や第六感を持つと聞く。おまけに同性愛者とは……解剖学的な興味が尽きんな…………」
「ヒッ! か、かかカイボー!? アチキは実験動物じゃあにゃいにゃ! にゃにこの人恐い! そ、そんな目で見ないでにゃーっ!! ……あと同性愛者を見世物みたいに言うにゃっ! 全世界のLGBT(性的少数者)に謝るにゃ!!」
「ブラックさん、医者として好奇心があるのは何とか解りますが、控えてください……この子恐がってるじゃあないですか……」
マッドサイエンティストさながらのギラつく眼光を発するブラックを、今度はラルフが宥める。
猫人の少女はしばしブラックに怯えていたが、ルルカを視界に入れるとすぐさま気持ちを切り換えたようだ。
「……ま、まあ、そんにゃことより……ねえねえおねいさ~ん。アチキと遊ばにゃ~い? ナイフなんか腰に提げて大道芸でもやってるのかにゃ?」
「ね、ねえ、あたしは――――」
「にゃ? ……うーん……そっちの赤髪で鎧着た厳つい感じのおねいさんは――――タイプじゃあにゃいにゃあ……」
「!! …………亜人種の女の子にまでシカトされた……」
「むん? 気にしていたのかね? 筋骨隆々とした冒険者が女として何を――――」
「だーっ! うっせえ、うっせえ!!」
「旅芸人のおねいさん~。長旅だと怪我もするにゃ――――ありゃりゃりゃりゃ、早速玉のように綺麗なおみ足に傷を見つけちゃったにゃ――――アチキが何時でも治してあげるにゃ!」
「えっ、治すって――――」
「むむむむ……そーりゃ、ヒールッ!!」
猫人の少女の掌から回復法術の癒しの光が放たれ――――ルルカの脚の古傷は忽ち塞がっていく!
「ま、まさか――――」
ヒーラー、発見――――
「……医者であるブラックさんだけでは難しいのですか?」
ヒーラーが欲しいと呟くブラックにロレンスはやや意外そうに尋ねる。
「医術のみでの治療だともしもの時に時間がかかるからな。医薬品なども量を切らすとまずい。医術と法術。二重の回復手段があれば盤石だろう……ヒーラーが立ち寄りそうな処は?」
「一般的にヒーラーとは教会から手ほどきを受けた僧侶であることが多い。……ロレンス、この王国に教会はあるか?」
「……うーむ……あることはありますが…………」
ラルフの問いにロレンスは何やら頭を抱えながら唸る。
「……我が国レチアの教会は他国より閉鎖的で保守的なスタンスでして……恐らく、他国から僧侶が訪ねてきても安易には立ち入れないでしょう」
「……そうか。宗教の違いで志を同じくする人々までシャットアウトする。人間の弱い所だな…………」
「……他に僧侶が立ち寄りそうな処と言えば……国の北東にある霊園ぐらいでしょうな」
「霊園。墓地か……早速行ってみよう。参拝しているヒーラーがいるかもしれない」
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レチア王国は小国。やはり霊園にもすぐに辿り着いた。
だが、霊園と言うにはあまりにも小さい。小さな市民公園ほどの広さもなく、建てられている墓も数えるほどしかなかった。
「随分小さな霊園だな……」
ラルフの感想に、ロレンスは一際渋い顔をする。
「……我が王国は外来者からは『観光業と財政の整った良い国』と称えられることが多いですが……実際は我が君がやるような質素倹約――いや、とにかくケチな節制の仕方でして。この地で亡くなった方はほとんど自然葬にされるので…………」
「……つまり滅多に墓をこしらえたりしない、という事か……手入れと土地の管理、更には遺体の処理まで削減した政策。徹底しているな……それで遺族は満足なのかね?」
「中には不満を抱く遺族もおられます。ですが、先ほど申し上げた宗教の違いで……自然葬による自然崇拝が浸透しているので、改善しようとする運動は今現在起きておりません。どうしても墓を建てたければ……王国に直接建造費を献上するようになっております」
「……あの王も、ある意味抜け目無いな……ん?」
ラルフがふと霊園の奥に目を向けると、参拝しているらしき人影が見えた。
「……はあ~あ……もうこの辺りの霊園にお参りするの疲れたにゃ~……くぁわい~い女の子でも侍らせたいにゃ~……」
何やらボヤいているのは、猫人《ねこひと》の亜人種の少女だった。猫人とは言うが早いか、人間の中に猫としての形質も併せ持つ種族のことだ。
「……ん? ……オオオッ! そこにゃ行くのは、麗しいおねいさんたちじゃあにゃいかあーっ!!」
ラルフたち――いや、ラルフたちに付いてくる女性たちに反応した猫人の少女は、びくんっ、と身体を跳ねた後、途端にハイテンションで話しかけてきた。
「この国では見かけないイカした美人さんにゃ~。是非是非お近付きになりたいにゃ~ん」
「……え? もしかして私とヴェラ様のことですか?」
「ザッツライッ! ……こっちの桃色の髪して青い瞳が綺麗なおねいさんは、耽美な中にもどこか危険なムードがあって麗しいにゃーん! ……こっちのギター持ってるおねいさんは並の女にはないマニッシュで型破りな雰囲気がグレエエエエトにゃっ!」
「おうっ! おめえもオレの歌を聴きたいってか?」
「ヴェ、ヴェラ殿、仮にも死者が眠る場なのでそれはご勘弁を……」
ギターを爪弾くヴェラを宥めるロレンスの横で、ブラックは不気味な笑みを浮かべる。
「ふむ……猫人の亜人種か……基本的な肉体の成分構成は人間と同じだろうが――――人間とは違う感覚器官や第六感を持つと聞く。おまけに同性愛者とは……解剖学的な興味が尽きんな…………」
「ヒッ! か、かかカイボー!? アチキは実験動物じゃあにゃいにゃ! にゃにこの人恐い! そ、そんな目で見ないでにゃーっ!! ……あと同性愛者を見世物みたいに言うにゃっ! 全世界のLGBT(性的少数者)に謝るにゃ!!」
「ブラックさん、医者として好奇心があるのは何とか解りますが、控えてください……この子恐がってるじゃあないですか……」
マッドサイエンティストさながらのギラつく眼光を発するブラックを、今度はラルフが宥める。
猫人の少女はしばしブラックに怯えていたが、ルルカを視界に入れるとすぐさま気持ちを切り換えたようだ。
「……ま、まあ、そんにゃことより……ねえねえおねいさ~ん。アチキと遊ばにゃ~い? ナイフなんか腰に提げて大道芸でもやってるのかにゃ?」
「ね、ねえ、あたしは――――」
「にゃ? ……うーん……そっちの赤髪で鎧着た厳つい感じのおねいさんは――――タイプじゃあにゃいにゃあ……」
「!! …………亜人種の女の子にまでシカトされた……」
「むん? 気にしていたのかね? 筋骨隆々とした冒険者が女として何を――――」
「だーっ! うっせえ、うっせえ!!」
「旅芸人のおねいさん~。長旅だと怪我もするにゃ――――ありゃりゃりゃりゃ、早速玉のように綺麗なおみ足に傷を見つけちゃったにゃ――――アチキが何時でも治してあげるにゃ!」
「えっ、治すって――――」
「むむむむ……そーりゃ、ヒールッ!!」
猫人の少女の掌から回復法術の癒しの光が放たれ――――ルルカの脚の古傷は忽ち塞がっていく!
「ま、まさか――――」
ヒーラー、発見――――
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