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物語
12話 「身辺整理」 ★贅沢な貴方に必要なハッピーセット!!★
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名もなきボロ小屋。
ダッシュの隠れ家。遺体を埋め終わってから戻った6畳1間ほどのここは、老婆が居なくなると少し広く思えた。壁に飾られたよくわからない絵、並べられたボロボロの本。なんの代わり映えもないここへ戻ってくると、今日一日が夢のようだったとダッシュは思う。
「ばあちゃんのこと悪く言うつもりはないけどさ……。この家、スラムの中でも結構ひどいぜ?」
少し色褪せて見える瓶詰めの遺灰を見ながら語りかけ、痛む体を無理やり起こした。眠りにつくには今日の出来事が強烈過ぎたため、今だ興奮冷めやらぬ脳が彼を寝かせなかった。
「そういえば……」
埃をかぶった落とし戸が小屋にはある。生前の老婆だけが出入りしていたここは今は開かずの間となっている。
「危ないから入るなって散々言いつけられたなぁ。鍵なんかねぇくせにさ」
彼女が亡くなったときに物を片付けたが、それでもここだけは開けなかった。
「好きにさせてもらうよ、ばあちゃん」
ボロボロの木の扉を開けた。ギギギっとなる音が、入るなと言わんばかりだった。
「お邪魔しまぁす……」
今にも抜けそうな小さな階段をランタンを片手にゆっくりと降りる。
(もう俺の家なのに、なんだか悪いことをしている気分だな……)
「埃にカビ……それに土臭い」
汚い小部屋の中に机が一つあり、大量の書類の束の他に目立つものがいくつかあった。
『★贅沢な貴方に必要なハッピーセット!!★ ※徳用品』
『 ~今ならなんと改版前のマニュアル付き!~ 』
胡散臭い広告の張り紙がチープな文字で書かれ、雑にまとめられた武器がいくつか並べられている。
「工房は武器をパックにして売ってんのかよ……」
(剣・メイス・ナイフ・伸縮する槍・ジャラジャラするやつ・これは…縄?)
数こそはあれど、派手なのは広告だけで武器自体は対した代物ではなかった。工房の製品にも当然等級が割り当てられる。こういった物はおおよそ8~10等級の量産品で、これも在庫処分の一環だろう。おまけに雑だ。
生き抜く術を教えられた時、こういうのもよく使ったな。
確かに、ばあちゃんは「次からは実戦だよ」なんて言ってたな。結局行くことはなかったが。
「……?」
先ほどまでの安っぽい品々とは別に、丁寧に包装された小包があった。
もちろん、変な広告もついてない。
「こんなところにあるなんて場違いだな」
ガシャガシャと音をたてて包装を破り捨てた。
「……手袋だ」
そこに、一枚の紙が挟まっていた。
――――――――――――――――
『ご要望の品をお届けしました』
――――――――――――――――
『―商品詳細―』
本商品は、手袋の内側から貴方の所有物を収納及び取り出すことができます。
※注意事項:不安定のため、過度に大きい物、また生き物の収納及び取り出しは行わないでください。
素材元の異形:三枚の蛇の葉
素材元の等級:2等級
加工後の形状:黒革手袋
抽出元の遺物:梟雄の隠し部屋
説明: 倉庫型の遺物。6区火災事件の後、火災現場から無傷の木造倉庫を発見。
調査・確保には『ノイタ事務所』及び『ルニール姉妹事務所』が担当。
87名の犠牲により、これを確保。未だ冒険者が倉庫の中に数人取り残されているとの証言あり。
ギルドによる調査の結果、遺物と断定。7名の犠牲により力の抽出と他の物体への付与に成功。競売の結果、デルマ工房(RЯ)の所有する遺物に認定されています。
抽出結果:良好
付与後の状態:一部安定
動作不良:無し
製品品質:1等級
保証期間:無し
販売者:デルマ工房(RЯ)
料金支払:未 (済)
――――――――――――――――
※遺物の力を使用する際の注意事項は、遺物保護法(都例781条)及び遺物取扱法(都例839条)及び...............................................................をご参照ください。
――――――――――――――――
「1等級!?料金支払い済みの消印だ。なんで……」
実際に手に取ってみたが、本当に異形の革で出来ているのだろう。
1~2等級の高い品にはよくあることだ。奴らは人間のための素材となる。
異形を実際に見たことはない。
前は魔物と呼ばれていたみたいだが、常軌を逸した見た目のものが増えたこと。そして奴らは生き物ではないという説が流行し、生き物を想起させる呼び方は不適切だという批判を受けて以来、異形と呼ばれている。
なぜそんな説が流行ったのかは知らない。脳や心臓がないのか、はたまた息をしていないのか……。
でもそれは間違っていないと思う。
だってこの手袋はまるで……、まるで生きているように温かく、そして少し蠢いていた。もし元が生物であれば、こうはならないだろう。
異形とはそういう者たちだ。
「遺物……人間と同様に力を持つ物体、その力を抽出、付与できるのか……知らなかった」
(ずっと金がなかったのはこれのためだったのか?思いがけないプレゼントだな……)
「俺にもっと言うべきことがあったじゃんか」
以前の物は先の戦闘により破損がひどく、もう使えなかった。彼女はそれを見越していたように感じた。
ダッシュは躊躇なく手袋を身に着けた。
「ははっ、ボロ着の奴がこんなもん身に着けたら目立つだろうが……」
「……ありがとう」
今日は収穫だらけだった。能力の使い方を知れた上、それを使って2つも新しく得られた。いや、分からない。もし奪った能力が上書き式なら最初のはもう使えない。そうでないなら……
「どちらにせよ、能力だけにかまけるなってことだろ。ばあちゃん」
ダッシュは暗い部屋を後にし、眠りについた。
――――――――――――――――
11/16 4.5話 一部ロミと遺物について文章を追加
ダッシュの隠れ家。遺体を埋め終わってから戻った6畳1間ほどのここは、老婆が居なくなると少し広く思えた。壁に飾られたよくわからない絵、並べられたボロボロの本。なんの代わり映えもないここへ戻ってくると、今日一日が夢のようだったとダッシュは思う。
「ばあちゃんのこと悪く言うつもりはないけどさ……。この家、スラムの中でも結構ひどいぜ?」
少し色褪せて見える瓶詰めの遺灰を見ながら語りかけ、痛む体を無理やり起こした。眠りにつくには今日の出来事が強烈過ぎたため、今だ興奮冷めやらぬ脳が彼を寝かせなかった。
「そういえば……」
埃をかぶった落とし戸が小屋にはある。生前の老婆だけが出入りしていたここは今は開かずの間となっている。
「危ないから入るなって散々言いつけられたなぁ。鍵なんかねぇくせにさ」
彼女が亡くなったときに物を片付けたが、それでもここだけは開けなかった。
「好きにさせてもらうよ、ばあちゃん」
ボロボロの木の扉を開けた。ギギギっとなる音が、入るなと言わんばかりだった。
「お邪魔しまぁす……」
今にも抜けそうな小さな階段をランタンを片手にゆっくりと降りる。
(もう俺の家なのに、なんだか悪いことをしている気分だな……)
「埃にカビ……それに土臭い」
汚い小部屋の中に机が一つあり、大量の書類の束の他に目立つものがいくつかあった。
『★贅沢な貴方に必要なハッピーセット!!★ ※徳用品』
『 ~今ならなんと改版前のマニュアル付き!~ 』
胡散臭い広告の張り紙がチープな文字で書かれ、雑にまとめられた武器がいくつか並べられている。
「工房は武器をパックにして売ってんのかよ……」
(剣・メイス・ナイフ・伸縮する槍・ジャラジャラするやつ・これは…縄?)
数こそはあれど、派手なのは広告だけで武器自体は対した代物ではなかった。工房の製品にも当然等級が割り当てられる。こういった物はおおよそ8~10等級の量産品で、これも在庫処分の一環だろう。おまけに雑だ。
生き抜く術を教えられた時、こういうのもよく使ったな。
確かに、ばあちゃんは「次からは実戦だよ」なんて言ってたな。結局行くことはなかったが。
「……?」
先ほどまでの安っぽい品々とは別に、丁寧に包装された小包があった。
もちろん、変な広告もついてない。
「こんなところにあるなんて場違いだな」
ガシャガシャと音をたてて包装を破り捨てた。
「……手袋だ」
そこに、一枚の紙が挟まっていた。
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『ご要望の品をお届けしました』
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『―商品詳細―』
本商品は、手袋の内側から貴方の所有物を収納及び取り出すことができます。
※注意事項:不安定のため、過度に大きい物、また生き物の収納及び取り出しは行わないでください。
素材元の異形:三枚の蛇の葉
素材元の等級:2等級
加工後の形状:黒革手袋
抽出元の遺物:梟雄の隠し部屋
説明: 倉庫型の遺物。6区火災事件の後、火災現場から無傷の木造倉庫を発見。
調査・確保には『ノイタ事務所』及び『ルニール姉妹事務所』が担当。
87名の犠牲により、これを確保。未だ冒険者が倉庫の中に数人取り残されているとの証言あり。
ギルドによる調査の結果、遺物と断定。7名の犠牲により力の抽出と他の物体への付与に成功。競売の結果、デルマ工房(RЯ)の所有する遺物に認定されています。
抽出結果:良好
付与後の状態:一部安定
動作不良:無し
製品品質:1等級
保証期間:無し
販売者:デルマ工房(RЯ)
料金支払:未 (済)
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※遺物の力を使用する際の注意事項は、遺物保護法(都例781条)及び遺物取扱法(都例839条)及び...............................................................をご参照ください。
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「1等級!?料金支払い済みの消印だ。なんで……」
実際に手に取ってみたが、本当に異形の革で出来ているのだろう。
1~2等級の高い品にはよくあることだ。奴らは人間のための素材となる。
異形を実際に見たことはない。
前は魔物と呼ばれていたみたいだが、常軌を逸した見た目のものが増えたこと。そして奴らは生き物ではないという説が流行し、生き物を想起させる呼び方は不適切だという批判を受けて以来、異形と呼ばれている。
なぜそんな説が流行ったのかは知らない。脳や心臓がないのか、はたまた息をしていないのか……。
でもそれは間違っていないと思う。
だってこの手袋はまるで……、まるで生きているように温かく、そして少し蠢いていた。もし元が生物であれば、こうはならないだろう。
異形とはそういう者たちだ。
「遺物……人間と同様に力を持つ物体、その力を抽出、付与できるのか……知らなかった」
(ずっと金がなかったのはこれのためだったのか?思いがけないプレゼントだな……)
「俺にもっと言うべきことがあったじゃんか」
以前の物は先の戦闘により破損がひどく、もう使えなかった。彼女はそれを見越していたように感じた。
ダッシュは躊躇なく手袋を身に着けた。
「ははっ、ボロ着の奴がこんなもん身に着けたら目立つだろうが……」
「……ありがとう」
今日は収穫だらけだった。能力の使い方を知れた上、それを使って2つも新しく得られた。いや、分からない。もし奪った能力が上書き式なら最初のはもう使えない。そうでないなら……
「どちらにせよ、能力だけにかまけるなってことだろ。ばあちゃん」
ダッシュは暗い部屋を後にし、眠りについた。
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