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修行
しおりを挟む中立都市オルド。
ありとあらゆる種族の純血と混血が住まう他種族混合国家。
そんな十人十色な国家の中でも一際、多くの種族が住宅を構えているため混沌と化した東部区域。
東部区域の住宅地に佇むのは、少し古めかしい出立ちの道場。
四季の激しいオルドに訪れた冬の寒波から耐えたことによって流れ込んだ春の温もりと未だ涼しげな風。
それら立春の証を迎え入れようと、開け放たれた障子の関門を越えた先に設けられた本格的な鍛錬場。
半分を木目の床に、もう半分を畳として建てられた年季入りの道場の畳───茶道にて使われる茶器一式と『敗北を知る者に栄えあり』と書かれた掛け軸の前で、正座込みの礼をする二人の子供。
年は初等部に入って二年も経ってないのではと、外見だけならばそのように勘違いして見てしまう。
しかし二人の子供が発する魔力波は、並大抵の努力が報われて出せる領域ではなかった。
───片や、家を守るための強さを。
───片や、生き長らえさせる為の強さを。
互いが胸に抱く念願は違う。
しかし二人は互いが互いを利用し合う作戦と一時の気の迷いによって隣にいる。
───裏切ることもなければ、罠にかけられることもない。
完全なる安息の地としての確証を基に支え合う。誰にも引き裂かれない縁の鎖。
歪にして完全なる関係性を保つ二人が流れる動作で木目の床の上に向かい合う形で立ち止まる。
───姿勢を正して一礼。
そして二人のうちの片割れである少女の手には鞭が握られている。そして蛇も驚愕の蛇行っぷりにもう片方の少年は苦虫を噛むように食いしばる。
ギチギチ、ゴリっ
少年の右腕を覆うように絡み捉えた鞭を持つ手は勝利を確信した。
しかし少年は絡まれた次の瞬間には、絡まれた右腕の関節を全て外した。当然、骨を外した代償によって生じる鈍痛が頭をズキズキと刺しにかかるが知らぬ存ぜぬ。
カウンターだと、言わんばかりの怪力で、鞭を未だ握りしめている少女の身体ごとを引っ張る。
突然の反撃で呆気にとられている少女は空中で逆立ち状態へと強制されてしまう。 鞭を引っ張られた瞬間に手を離さなかった、少女の心の甘さが引き起こした一つの行動が勝敗を分けた。
時は経つこと数年後。
場所は同じく、道場の稽古場として扱われている木目の床の上で息を荒くしている二人の少年少女。
「きょ、今日こそは勝つ……!」
「無理だよ無理。 お前の鞭が俺を捕らえても、その先の行動は俺が止めるからなッ!!!」
かれこれ数十分は全力で技をお披露目し合っていたのだ。
少女は鞭の進む先を気にしながら頭の中で鞭捌きに神経を費やしている。
一方で少年は、少女の手から繰り出される鞭の変則不定形な軌道から襲いくる鞭を前にして警戒心が抜けなくなる。
つまりは双方ともにガチで戦っているのだ。
流石に少女が使用している鞭は軽量プラスチックに伸縮性抜群の樹脂ゴムを多く含んでいるから怪我は少ない。しかし当たれば痛いと感じるのは当然。ゴムといってもハードタイプだ。
「うらぁ!!」
「───時速倍等」
実物の蛇よりも、機敏で滑らかな弧を描いて襲い掛かる鞭先が少年の肩を触れるよりも前に、少年は《空間魔術》による間接的な身体強化で鞭を体スレスレに避ける。
「あっぶね……」
数年前よりもずっと速くて鋭い。少女の鞭捌きに確かな成長が感じられる動きではあったが、少年はそれよりも多くの経験値を持っている。 よって、最適解と感じた魔術行使を行動に移しただけ。多少の経験値の差を踏破するのが天才と呼ばれる人種であると、少年は認識している。
「そっちがそうなら───」
───風千花。
突如として少年の周囲を包囲する形で生み出された特異気流。少女が得意とする《風魔法》のレパートリーの一つである【風千花】の気流は総数が十数個と、魔法や魔術界では基礎元素として知られている《風魔法》の中でも初級───最弱の威力と範囲を持つ魔法式の現象が少女の保有する年では分不相応な魔力量に操る技術、圧倒的な才能だからこそ成せる技。
下手に動けば気流の群勢に触れてしまい、風圧で行動が鈍る。動かずとも相手に次の一手を導く手助けをすることになる。気流の群に臆することなく立ち向かうのは言わば、全方位に満遍なく敷かれた地雷原でブレイクダンスをしろと言っているようなものだが、進まずに後悔しないよりかは自責の念が薄まる。
「───瞬間時飛」
「そうくるよ、ねっ!!」
「こっちのセリフだ」
同じく《空間魔術》の一つである【瞬間時飛】で、本来は自分が気流群に突っ込むことで生じるタイムロスをゼロに───自分が進むはずの時を飛ばす───した少年は、呆気に取られた少女の手首を掴む。しかし判断力を取り戻した少女が《風魔法》で少年を吹き飛ばすために掴まれていない方の手をかざす。
だがそれも失敗に終わった。
「一本背負いッ!!!」
「プギャっ!!??」
掴んだ手首を両手で再度握り直してから身体を半回転。腰を上げて手首を掴まれた少女の身体を浮かせてから地面に叩きつける。
「そして……俺の勝ちだ」
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