アンラベルオペレーション

ruth

文字の大きさ
6 / 16

chapter.6

しおりを挟む
「そう言えばニシキが帰ってきてないね」
「結構経ってるけどあいつ何してるんだろう……。まさか、誰かに殺されたんじゃないだろうな」
「もう、すぐそういうこと言う」

 浮かんだ悪い想像をそのまま口にしてみるカタルであったが、すぐに怒ったような口調で返すアルコに、慌ててごめん、と一言謝った。ニシキというのは、この場にいない仲間の一人だ。

 ヨウとアルコがここを出発するのとほとんど同時刻、彼は別方角への探索に出かけたのだが、まだ戻ってきてはいなかった。常に曇り空で、昼も夜も存在しない薄暗いボックスヤードでは、時間経過の感覚が鈍くなるが、もう半日程は戻ってきていないことになる。
 シアタールームのスクリーンに映し出されたマップによって、中央区域の場所は明らかとなり、目的地は具体的に定まった。同時に、ニシキが向かった方角は中央区域とは反対側であり、禁止区域と分類されるエリアが存在していると分かった。禁止区域へ進入した場合、何が起こるのかは不明だが、しばらくは仲間の無事を願いながら帰りを待つことにした。

 カタルは左手首に着けていたネイビーのデジタル時計を見やった。時刻を確認しながら表面の小さなひびを親指で撫でるその仕草を見て、ヨウは訊ねる。

「今って何時なんだ?」
「もう少しで4時になるところ。昼の4時……だよな。今が何月何日なのかも分かんねえけどさ」

 うんざりと溜息交じりに答えてくれるカタルに頷きながらも、ヨウの興味は彼の手元にあった。シンプルな文字盤に、マットな質感のネイビーの腕時計。覗き込むようにしてじっとその腕時計を見詰めていると、訝しんだカタルが、ヨウの目の前で軽く手を振って見せた。

「なんだよ?」
「お前いいもの持ってるな、どこで拾ったんだ?」
「拾ってねえよ!お前とホッケースティックと一緒にするな。これは俺の大事なもんなの」

 カタルは絶対に譲らないと言わんばかりに、ヨウの視線から左手首を庇うように遠ざけて言った。


 その時だった。
 底冷えするような敵意と共に、何かがくる、とヨウは感じ取った。

「!?」

 直後、体の軸に響くような凄まじい衝撃音と共に、建物全体を震わせる揺れが、ロビーにいる三人を襲った。

「うおっ!」
「な、なに!?」

 そこかしこに降り積もっていた埃が舞うと共に、天井からぱらぱらとコンクリートの欠片が降ってくる。「SCREEN2」のシアタールームでひとり何かを調べていたジンリンが、急ぎ足でロビーへと出てくる。

「敵襲か」
「分からない。でも多分そうだ」

 ヨウが答えるや否や、二度目の轟音。今度は立っているのが困難な程の、更に強烈な揺れだ。それに伴い大きな破片や、天井を構成する鉄材までもが派手な音を立てて落下してきた。

「きゃあ!」

 反射的に頭を両腕で庇いながら悲鳴を上げてうずくまるアルコのもとへ、ジンリンが素早く駆け寄り、その身体を支える。カタルの視線が脱出までの経路を確認するように入口へと向けられた。

「外へ出よう!このままじゃ全員下敷きだ!」

 お世辞にも頑丈とは言えない廃墟だ。このまま衝撃を食らい続ければ、いつ倒壊してもおかしくないだろう。ヨウが声を張り上げ全員に呼びかけると、降ってくる破片を払い除けながらカタルが応答する。

「ああ!ジンリン、アルコは大丈夫だよな!?」
「問題ない、先に行け」

 カタルが障害物を避けながら先行し、その後にジンリンと彼女に支えられたアルコが並んで続き、最後にヨウが外へと出る。全員が外へと避難すれば、追い打ちのように三度目の衝撃が建物全体を震わせ、老朽化した映画館を更に激しく崩していった。

「出てきたなァ」

 歪んだ喜びの滲むしわがれた声が、近くで這うように響いた。立て続けの襲撃の直後だ。反応が遅れる。
 しかし、ヨウには視えていた。火の塊を手にした老人が、たった今自分達が通ってきた入り口付近で、今か今かと襲撃のチャンスを窺っていたその姿。

「伏せろ!!」

 建物が崩壊していく音に紛れてしまわないようにと、腹の底から声を張り上げ叫んだ。
 ヨウの叫び声を合図に、灰色の地面に飛び込むようにして、全員が体を地に張り付けると、老人の手から放たれた火球が、回避したにも関わらず肌や毛先を焼く近さで通り過ぎていく。

「当たらなんだか。まあいい……」

 ヨウには視えていた。これで終わりではない。すぐに二発目、三発目が放たれる筈だ。
地に伏せた体勢を皆が立て直すより先に、皺だらけの顔に嫌味な笑みを乗せた老人は、枯れ木のような手のひらを差し出し天にかざす。そこに現れた小さな火種が、ほんの数秒のうちに火の勢いを増しながら、幼児の頭程の大きさまで育っていき、禍々しく膨れ上がっていく。

 ヨウはいち早く立ち上がり老人へと向き直ったが、腰のベルトに適当に差していたホッケースティックでは、打ち返すことすらできずに焼き尽くされるだけだろう。ならば、直接あの手を止める他方法はない。
 
 再び相手がその手に携えた火球を放とうと振りかぶる動作に合わせて、地面をぐっと踏み込むが、駆け出すには至らなかった。

「……ヨウ!あたしに任せて!」

 視界を遮ったのは、彼女の炎のように赤い髪。対峙していた禍々しく焼き尽くす火とは異なる、明るく澄んだ熱の色だ。仲間全員背に庇うようにして広げられた両腕は、ルビーのような赤の鱗で隙間なく埋め尽くされていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

二度目の勇者は救わない

銀猫
ファンタジー
 異世界に呼び出された勇者星谷瞬は死闘の果てに世界を救い、召喚した王国に裏切られ殺された。  しかし、殺されたはずの殺されたはずの星谷瞬は、何故か元の世界の自室で目が覚める。  それから一年。人を信じられなくなり、クラスから浮いていた瞬はクラスメイトごと異世界に飛ばされる。飛ばされた先は、かつて瞬が救った200年後の世界だった。  復讐相手もいない世界で思わぬ二度目を得た瞬は、この世界で何を見て何を成すのか?  昔なろうで投稿していたものになります。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...