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第12話:刻まれ続けるカウントダウン
「エルナ、母さんたちにそんな言い方をしたのかい? 少し感情的になりすぎじゃないかな。家族なんだから、上手くやってよ」
フィリップは、義母と義妹に向かって、外面のいい笑顔を向けた。
「母さん、怒らないでよ。エルナは少し真面目すぎるんだ。ドレス代くらい、僕が何とかするよ。商会は今、マリベルのおかげで新しい商品が大ヒットする予定なんだから、そのくらいの経費、安いものさ」
「まあ、本当!? さすが私の自慢の息子ね!」
「お兄様、素敵! じゃあ、私の宝石も買ってくださる?」
「もちろんさ! 妻に手配させておくから、好きなものを注文していいよ」
フィリップは気前よく、存在しない資金での買い物を約束してしまった。
義母と義妹は、フィリップは優しいのに、嫁はケチで冷たいという視線をエルナに浴びせ、満足げに応接間を去っていった。
彼らが去った後、エルナは口を開いた。
「……フィリップ様。商会には、あの方々のドレスや宝石を買う資金など、どこにもありません。マリベル様のシロップの製造ラインに、手持ちの資金をすべてつぎ込んだではありませんか」
エルナが冷徹な事実を突きつけると、フィリップは途端に不機嫌な顔になった。
「君はいつもそうやって、僕の顔に泥を塗る! 母さんたちの前で恥をかかせるなよ。資金なんて、君が帳簿を上手くやりくりすれば捻出できるだろう? 君の方がそういう細かい計算は得意なんだから、適任じゃないか」
彼は、不可能を強いる丸投げを悪びれもなく口にした。
「それに、僕が外で家族を大切にする良い息子でいれば、商会の評判も上がるんだ。君なら母さんのことも上手くやってくれると思っていたのに……、僕の味方は君だけだと思っていたよ」
君なら分かってくれる。
僕の味方は君だけ。
その言葉は、彼が自分はいい人のままで、嫌な役割をすべて妻に押し付けるための、最も卑劣な常套句だった。
夫が盾になるどころか、自ら見栄を張って火に油を注ぎ、その始末をすべて妻に丸投げする。
この搾取は、エルナの心を完全に殺し切るのに十分な破壊力を持っていた。
「……承知いたしました。手配は、私にお任せください」
エルナは、一切の感情を排した声で応じた。
反論する気は、もう一ミリも残っていなかった。
「そうだろう? 最初から素直に聞いてくれればいいんだ。頼んだよ、エルナ」
フィリップは満足げに頷き、自分の部屋へと戻っていった。
エルナは、彼が去った後の応接間で、一人立ち尽くしていた。
手配は任せろと言った。
しかし、商会から資金を出すとは一言も言っていない。
エルナは、懐からルグラン侯爵宛ての書簡を取り出した。
それは、ウィンズレット商会の現在の危機的な財務状況を、大口の出資者である侯爵に正確に報告するための書類だった。
「……私の限界は、もう近いですよ」
エルナは呟き、工房の地下室へと向かった。
冷たい空気の中で、整然と並ぶ特製シロップの瓶。
残りは、十一本。
「あと十一回」
エルナは、瓶の冷たさを指先に感じながら微笑んだ。
義母の浪費も、マリベルの粗悪なシロップも、フィリップの無自覚な搾取も。
すべてが破綻する日は、もうすぐそこまで来ていた。
フィリップは、義母と義妹に向かって、外面のいい笑顔を向けた。
「母さん、怒らないでよ。エルナは少し真面目すぎるんだ。ドレス代くらい、僕が何とかするよ。商会は今、マリベルのおかげで新しい商品が大ヒットする予定なんだから、そのくらいの経費、安いものさ」
「まあ、本当!? さすが私の自慢の息子ね!」
「お兄様、素敵! じゃあ、私の宝石も買ってくださる?」
「もちろんさ! 妻に手配させておくから、好きなものを注文していいよ」
フィリップは気前よく、存在しない資金での買い物を約束してしまった。
義母と義妹は、フィリップは優しいのに、嫁はケチで冷たいという視線をエルナに浴びせ、満足げに応接間を去っていった。
彼らが去った後、エルナは口を開いた。
「……フィリップ様。商会には、あの方々のドレスや宝石を買う資金など、どこにもありません。マリベル様のシロップの製造ラインに、手持ちの資金をすべてつぎ込んだではありませんか」
エルナが冷徹な事実を突きつけると、フィリップは途端に不機嫌な顔になった。
「君はいつもそうやって、僕の顔に泥を塗る! 母さんたちの前で恥をかかせるなよ。資金なんて、君が帳簿を上手くやりくりすれば捻出できるだろう? 君の方がそういう細かい計算は得意なんだから、適任じゃないか」
彼は、不可能を強いる丸投げを悪びれもなく口にした。
「それに、僕が外で家族を大切にする良い息子でいれば、商会の評判も上がるんだ。君なら母さんのことも上手くやってくれると思っていたのに……、僕の味方は君だけだと思っていたよ」
君なら分かってくれる。
僕の味方は君だけ。
その言葉は、彼が自分はいい人のままで、嫌な役割をすべて妻に押し付けるための、最も卑劣な常套句だった。
夫が盾になるどころか、自ら見栄を張って火に油を注ぎ、その始末をすべて妻に丸投げする。
この搾取は、エルナの心を完全に殺し切るのに十分な破壊力を持っていた。
「……承知いたしました。手配は、私にお任せください」
エルナは、一切の感情を排した声で応じた。
反論する気は、もう一ミリも残っていなかった。
「そうだろう? 最初から素直に聞いてくれればいいんだ。頼んだよ、エルナ」
フィリップは満足げに頷き、自分の部屋へと戻っていった。
エルナは、彼が去った後の応接間で、一人立ち尽くしていた。
手配は任せろと言った。
しかし、商会から資金を出すとは一言も言っていない。
エルナは、懐からルグラン侯爵宛ての書簡を取り出した。
それは、ウィンズレット商会の現在の危機的な財務状況を、大口の出資者である侯爵に正確に報告するための書類だった。
「……私の限界は、もう近いですよ」
エルナは呟き、工房の地下室へと向かった。
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残りは、十一本。
「あと十一回」
エルナは、瓶の冷たさを指先に感じながら微笑んだ。
義母の浪費も、マリベルの粗悪なシロップも、フィリップの無自覚な搾取も。
すべてが破綻する日は、もうすぐそこまで来ていた。
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