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「ララーナ・エレクシア! 貴様との婚約は破棄だ! さらに、エレクシア家の者は全員、島流しの刑だ!」

「そんな……」

 王宮に呼び出された私、ララーナ・エレクシアは、婚約者であり、この国の第一王子でもあるサイモン・デイヴィスの言葉に驚いていた。
 突然告げられた婚約破棄と国外追放の島流しの刑という言葉は、私を絶望させるには充分だった。

 婚約破棄というだけなら、まだいい。
 もともと政略結婚なのだから、彼との別れは惜しくもない。
 しかし、島流しの刑というのは、納得できなかった。

 それは、余程の罪を犯さない限り、執行されることのない刑である。
 そして、私は何も罪など犯してはいない。
 
「王子、納得できません! どうして私たち家族が全員、島流しにされなければならないのですか!?」

 島流しの刑は事実上の死刑宣告である。
 私は当然、王子に反論した。
 すると彼からは、驚くべき答えが返ってきた。

「とぼけても無駄だ! もう、調べはついているんだ。お前たちは、敵国に我が国の重大な情報を流していた。そんな奴らを島流しの刑にするのは、当然のことだろう?」

 王子は、不敵な笑みを浮かべながらそう言った。
 私たち家族が、敵国に情報を流していた?
 いったい、何のこと?

 私は、両親の顔を見た。
 二人とも首を横に振り、何のことかわからないという表情をしていた。

「王子、私たちは、そんなことしていません。何かの間違いです!」

 これは明らかに、冤罪である。
 しかし、王子は次々と、用意していた資料を私たちに見せた。

「調べはついてあると言っただろう。これが、その証拠だ。言い逃れはできないぞ。ララーナ、お前たちの追放は決定したんだ!」

「そんな……」

 王子が提出した資料は、決定的なものだった。
 しかし、どれも見に覚えがなかった。
 王子が権力とお金を使って偽造したのは明らかだ。
 婚約者として側にいた私は、王子がそういうことを平気でするとわかっていた。

 しかし、今更どうしようもなかった。
 私と両親は刑の執行が決まり、拘束された。

「こんなの、あんまりです! どうか、考え直してください!」

 私は必死に叫んだ。
 
「黙れ! 国を裏切った大罪人め!」

 王子の拳が、私の顔に直撃した。
 熱を帯びた痛みが、じわじわと広がってきた。
 こんなの、絶対に間違っている。
 
 私は絶望しながら、もし神様がいるのなら、王子に復讐する機会を与えてほしいと思った……。

     *

 (※王子視点)

 ララーナを追放した翌日、おれは清々しい気持ちで目を覚ました。

 ララーナの絶望したあの表情は、最高だったな……。

 いつもの偉そうな態度は、見る影もなかった。
 先日の国の方針を決める会議の時もそうだった。
 参謀の推薦で呼ばれた彼女は、臆することなく意見を述べた。
 そして、彼女の意見は採用するに値すると、その場にいる皆が判断した。

 このおれ以外は……。

 彼女の意見が優れているなんて、認めたくなかった。
 婚約者の分際で、このおれより目立つなんて、あってはならないことだ。
 そんな風なことが何度か続き、おれは彼女のことを、邪魔に思うようになった。

 邪魔物は排除するに限る。
 だからおれは、ありもしない罪をララーナに着せて、国外追放にしたのだ。
 すべて、計画通りにことは進んだ。
 多少強引なところもあったが、うまくいってよかった。
 
 ララーナはおれのことを憎んでいるだろう。
 しかし、彼女にはもうどうしようもない。
 万に一つも可能性はないと思うが、もし彼女がおれに復讐してきたとしても、大丈夫。

 なぜなら、おれはタイムリープの魔法が使えるから、その時はやり直せばいいだけだ。

 ああ、生意気な邪魔物を排除できて、いい気分だな。
 これからは、あいつの偉そうにしている姿を見なくて済む。
 そう思っていたが、それはまちがいだった。

 まさか、これからあんな、を知らされることになるなんて、この時のおれはまだ知らなかったのである……。
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