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第24話:揺れるシャンデリア
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北の大地が厳冬の備えを固め、温かな料理と信頼で満たされていた頃。
王都の王宮では、季節外れの熱気が渦巻いていた。
ただし、それは心地よい暖かさではなく、破滅的な狂騒の熱気だった。
この夜、王宮の大広間では、王太子の婚約者ミシェルの誕生日を祝う盛大な舞踏会が催されていた。
度重なる不祥事――外交問題や馬車の事故――で地に落ちた王太子の評判を回復するため、起死回生の一手として企画された、極めて豪華な宴である。
「見てくださいまし、ジュリアン様! この素晴らしい眺め! やっぱり主役は私ですわ!」
ミシェルは、淡いピンクのシルクを幾重にも重ね、レースとリボンを過剰なほどあしらった特注のドレスに身を包んでいた。
その姿はまるで、歩く砂糖菓子のようだ。
「ああ、美しいよミシェル。君こそがこの国の華だ」
ジュリアンは引きつった笑顔で答えた。
内心は穏やかではない。
このパーティーの費用は国庫を圧迫しており、財務大臣からは「これ以上の散財は……」と釘を刺されている。
だが、ここで派手に振る舞わなければ、貴族たちの嘲笑を払拭できない。
楽団がファンファーレを鳴らし、ワルツの演奏が始まった。
数百人の貴族たちが、一斉にフロアでステップを踏み始め、床が振動する。
その振動は、柱を伝い、壁を伝い、そして遥か頭上――天井へと波及していった。
大広間の天井には、王国の威信を象徴する巨大なクリスタル・シャンデリアが吊り下げられている。
直径五メートル、重量は一トンを超えるガラスと鉄の芸術品だ。
数百本の蝋燭が灯され、煌びやかな光の雨を降らせている。
だが、その根元で、小さな異変が起きていた。
吊り下げ金具の周辺から、微かな金属音が鳴っている。
音楽にかき消されて、誰も気づかない。
かつて、このシャンデリアのメンテナンスはヴィオラの日課だった。
彼女は天井裏に登り、アンカーと天井材の隙間に特殊な樹脂を注入していた。
それは粘弾性ダンパーとしての役割を果たし、ダンスによる床の振動がシャンデリアに伝わって共振するのを防いでいたのだ。
さらに、ボルトの緩みを防ぐために、嫌気性の接着剤――空気を遮断すると硬化する薬剤――をネジ山に塗布していた。
しかし、彼女が追放されて数ヶ月。
新しい整備士たちは、「なんだこのネバネバしたゴムは? 汚らしい」と、振動吸収材を剥ぎ取ってしまっていた。
ボルトも、ただ強く締めただけだ。
そこへ、数百人が一斉にステップを踏むリズムが加わる。
物理法則は残酷だ。
外部からの振動周波数と、シャンデリアの固有振動数が一致した時、振幅は無限大に増幅される。
巨大な光の塊が、大きく揺れ始めた。
王都の王宮では、季節外れの熱気が渦巻いていた。
ただし、それは心地よい暖かさではなく、破滅的な狂騒の熱気だった。
この夜、王宮の大広間では、王太子の婚約者ミシェルの誕生日を祝う盛大な舞踏会が催されていた。
度重なる不祥事――外交問題や馬車の事故――で地に落ちた王太子の評判を回復するため、起死回生の一手として企画された、極めて豪華な宴である。
「見てくださいまし、ジュリアン様! この素晴らしい眺め! やっぱり主役は私ですわ!」
ミシェルは、淡いピンクのシルクを幾重にも重ね、レースとリボンを過剰なほどあしらった特注のドレスに身を包んでいた。
その姿はまるで、歩く砂糖菓子のようだ。
「ああ、美しいよミシェル。君こそがこの国の華だ」
ジュリアンは引きつった笑顔で答えた。
内心は穏やかではない。
このパーティーの費用は国庫を圧迫しており、財務大臣からは「これ以上の散財は……」と釘を刺されている。
だが、ここで派手に振る舞わなければ、貴族たちの嘲笑を払拭できない。
楽団がファンファーレを鳴らし、ワルツの演奏が始まった。
数百人の貴族たちが、一斉にフロアでステップを踏み始め、床が振動する。
その振動は、柱を伝い、壁を伝い、そして遥か頭上――天井へと波及していった。
大広間の天井には、王国の威信を象徴する巨大なクリスタル・シャンデリアが吊り下げられている。
直径五メートル、重量は一トンを超えるガラスと鉄の芸術品だ。
数百本の蝋燭が灯され、煌びやかな光の雨を降らせている。
だが、その根元で、小さな異変が起きていた。
吊り下げ金具の周辺から、微かな金属音が鳴っている。
音楽にかき消されて、誰も気づかない。
かつて、このシャンデリアのメンテナンスはヴィオラの日課だった。
彼女は天井裏に登り、アンカーと天井材の隙間に特殊な樹脂を注入していた。
それは粘弾性ダンパーとしての役割を果たし、ダンスによる床の振動がシャンデリアに伝わって共振するのを防いでいたのだ。
さらに、ボルトの緩みを防ぐために、嫌気性の接着剤――空気を遮断すると硬化する薬剤――をネジ山に塗布していた。
しかし、彼女が追放されて数ヶ月。
新しい整備士たちは、「なんだこのネバネバしたゴムは? 汚らしい」と、振動吸収材を剥ぎ取ってしまっていた。
ボルトも、ただ強く締めただけだ。
そこへ、数百人が一斉にステップを踏むリズムが加わる。
物理法則は残酷だ。
外部からの振動周波数と、シャンデリアの固有振動数が一致した時、振幅は無限大に増幅される。
巨大な光の塊が、大きく揺れ始めた。
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