「君が一人で勝手に苦労を背負い込んでいるだけだろう? 僕はそんなこと、頼んでいない」~健気に献身する私に、無神経で残酷な言葉を放つ夫の末路~

水上

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第15話:地獄絵図

 王都の中心部、最も格式高いホテルの一室。

 マダム・ジョセフィーヌ主催のお茶会は、王族関係者や保守派の大貴族の夫人たちが集う、社交界の頂点とも言える場だった。

 会場の空気は、最高級の紅茶の香りと、穏やかな談笑のさざめきに包まれている。

 しかし、その華やかな空間の片隅で、カミラはひどく居心地の悪さを感じていた。

 彼女の派手な縦巻きロールと、むせ返るような人工香料の匂いは、上品な貴婦人たちの間では明らかに浮いていたのだ。

(な、なんで誰も私に話しかけてくれないのよぉ……!)

 カミラは内心で舌打ちをしながら、無理に愛想笑いを浮かべた。

 数日前、エリオットと共にここで大々的に魔法のオイルの特別版を配った時は、即効性のあるツヤと珍しい香りに夫人たちも興味を示してくれた。

 今日はその使用感を聞き、さらに大口の注文を取るためのブランドの顔としての重要な初仕事のはずだった。

 しかし、夫人たちの様子がおかしい。
 誰もが帽子やヴェールで深く頭を覆い、何かに怯えるようにひそひそと囁き合っている。

「あれは、オーランド商会の新しい顔の……」

「ええ、あの忌まわしいオイルを配った女よ」

「信じられない。あんなものを塗るなんて……」

 カミラは耳を疑った。

 忌まわしい? 
 どういうことだろう。

「あ、あのぉ! 皆様、先日の魔法のオイル、いかがでしたかぁ?」

 カミラは空気を読まず、一番近くにいた公爵夫人に甲高い声で話しかけた。
 その瞬間、公爵夫人はひっ、と短い悲鳴を上げ、カミラから後ずさった。

「来ないでちょうだい! あなたのような詐欺師、顔も見たくないわ!」

「さ、詐欺師ぃ!?」

 公爵夫人は震える手で、自身の帽子を乱暴に脱ぎ捨てた。
 その下から現れたのは、無惨にも赤く腫れ上がった頭皮と、パサパサに乾燥して根本からちぎれかけた髪だった。

「私の……、私の自慢の髪を、どうしてくれるのよ!」

 公爵夫人の絶叫を皮切りに、会場のあちこちから悲鳴と怒号が上がり始めた。

 他の夫人たちも次々と帽子やヴェールを取り去る。
 ある者は髪がごっそりと抜け落ち、ある者は頭皮からただれたような浸出液を滲ませて泣き崩れていた。

 カミラの顔から、一気に血の気が引いた。

「な、なんで……? だって、あんなにツヤツヤになったのにぃ……!」

「ツヤツヤだったのは最初の数日だけよ! その後、急に頭皮が痒くなって、髪がギシギシに軋み始めたの!」

「洗い流そうとしても、あのベタベタした油が全然落ちないのよ! 毛穴が塞がって、髪が息をしていないみたいだったわ!」

 阿鼻叫喚の地獄絵図と化した会場に、遅れて到着したエリオットが足を踏み入れた。

 彼は異様な光景に目を丸くし、自身の抜け毛を隠すために深く被っていた帽子を押さえた。

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