壮大な未来を語っていたのに、私の夢のための資金を、初恋相手のサロンへの投資で溶かすクズでしたか。~最低夫を待ち受ける地獄のように残酷な現実~

水上

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第25話:虚飾の綻び

「どうしてこんなことに……。フィオナがいれば、こんな資金繰りくらい、上手く誤魔化してくれたはずなのに……」

 ルーファスの口から出たのは、自らが「視野の狭い女」と見下した元妻への、身勝手極まりない依存の言葉だった。

 屋敷に逃げ帰ったルーファスは、暗く冷え切った自室で、何とか金になりそうなものを探し回った。

 フィオナが屋敷の維持費を稼いでくれていた頃は気にも留めなかったが、いざ自分で金策に走ろうとすると、売れそうな美術品はすでに彼自身がサロンの遊興費のために売り払ってしまっていたことに気づく。

「……そうだ。工房だ」

 ルーファスは血走った目で立ち上がった。

「あの埃っぽい工房に、作りかけの銀器や、手つかずの銀鉱石が残っていたはずだ。あれを売れば、当座のしのぎにはなる!」

 翌朝。
 ルーファスは自ら馬車を駆り、王都の片隅にある工房月長石へと乗り込んだ。

 そして、作業台の上に放置されていた銀の塊をかき集め、王都で最も大きな質屋へと持ち込んだ。

「これを買い取ってくれ! ウェントワース伯爵家の名に懸けて、最高級の銀だ!」

 ルーファスが質屋のカウンターに銀器を置くと、老練な鑑定士が眼鏡を目に当てて、それらをじっくりと観察し始めた。

 鑑定士の顔が、次第に険しくなっていく。

「……伯爵様。大変申し上げにくいのですが」

「なんだ? さっさと金貨を積め。僕の時間は有限なんだ」

 ルーファスが傲慢に腕を組むと、鑑定士は冷ややかな声で告げた。

「このティーポット。持ち手と本体の接合部の計算が全くされておらず、未完成のまま放置された不良品です。さらに、この銀の塊ですが……、精錬が中途半端で不純物が多く、銀としての価値は市価の三分の一にも満たない粗悪品ですな」

「な……、んだと!?」

 ルーファスはカウンターに身を乗り出した。

「馬鹿な! うちの職人どもは、王都一の腕利きだぞ! そんな粗悪品を作るはずがない!」

「ええ、かつての月長石の品であれば、私も金貨の袋を積んで買い取らせていただきましたよ。ですが、フィオナ夫人とベルナール殿が去られてから、あの工房はもぬけの殻だというのは、王都の商人なら誰でも知っております」

 鑑定士は、哀れむような目でルーファスを見つめた。

「伯爵様。あなたはご存知なかったのですか? フィオナ夫人が、どれほど綿密に銀の相場を読み、質の悪い鉱石を職人たちの技術でカバーし、最高級の品に昇華させていたかを。実務を行う者がいなくなった工房の備品など、ただの金属のゴミ同然です。……これらすべて合わせても、銀貨十枚にもなりませんな」

 銀貨十枚。
 金貨五百枚の借金に対して、あまりにも絶望的な数字。

「ふざけるな……! 僕が、僕の圧倒的なビジョンが、こんな金属のゴミに負けるというのか……!」

 ルーファスは、質屋のカウンターに崩れ落ち、頭を抱えた。

 彼の虚飾が、フィオナたちが積み上げてきた実務という強固な現実の前に、音を立てて崩れ去った瞬間だった。

 実態のない言葉で自分を飾り立ててきた男が、いざ現実の数字と品質を突きつけられた時、彼にはそれに抗うすべが何一つ残されていなかった。

 一方その頃。
 王都の一等地に新しくオープンした銀百合商会の店舗前には、貴族の馬車が長蛇の列を作っていた。

 最高品質の銀細工と、顧客のニーズを完璧に計算し尽くした美しいデザイン。
 
 それは瞬く間に社交界で話題となり、フィオナの店は初日から大盛況を迎えていたのである。

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