だから心底夏は嫌いなんだ。

秋の話

『……明日から気温がぐっと下がり、肌寒くなります。長かった夏もようやく終わりを迎えそうです。明日は上着を1枚持って出かけましょう』
お天気キャスターの声が耳に届く。

ついにきた。

ワクワクが止まらない。嗚呼、やっと夏が終わる。へばりつくような重たい空気ともおさらばだ。
またあの季節がやってくる。心做しか少しの高揚感、少し冷えた手、凛とした冷たい風、いつもより高く感じる空、枯れ落ちた葉ををふむ靴、そして音。

明日は何を着ようか、去年お気に入りだった長袖をタンスから出しておこうか。
明日は朝から外で活動しようか。何度もあすの天気と気温を調べ、まるで遠足前の子供のようにあくせく明日の準備をして、早めに床についた。


朝。目覚ましより早く目が覚める。

外はどれぐらい寒いだろう。カーテンをあけ、窓越しのいつもの景色。グッと力を込め窓を一気に開ける。ふぁっと室内に入る風、肌に触れる。あれだけ僕を火照らせた夏は跡形もなく消え去っていた。カラッとしたひえた空気が僕の世界を塗り替えていく。 

すぅっと肺いっぱいに空気を取り込む。
『最高だ。』

急いで準備を始める。昨日の子供の僕が、今日の僕のために全て綺麗に準備してくれているのだから支度は早かった。
使い古した鉛筆とまだ買ったばかりのスケッチブック、ハムとチーズのホットサンドをリュックに詰めて足早に家を出た。
空気が新鮮に感じる。
まるで重力が軽くなったかのように足取りが軽い。
バスに揺られて最寄りの海が見える公園まで出かけた。途中でコーヒーを購入。暖かいコーヒーを飲みたかったが、まだ自販機にはつめた～いしかなかった。仕方なく冷えたコーヒーを買う。ポケットに小銭をしまって足早に公園に向かう。

緑の芝生に青と白のチェックのレジャーシートを広げ腰を下ろした。
周りを見ると運動する人、犬の散歩、子連れの家族などまだ朝早いのにみんなこんなに活動していたんだ。と夏のだらけた自分を反省しつつ、コーヒーを啜った。これはいい朝の日課になるなぁと感じながら、スケッチブックと鉛筆を取り出す。景色を書くのは苦手なので思いつく限りの人物画をサラサラ書いていた。秋の寒さに晒され冷えたままのコーヒーを片手に僕は秋を堪能していた。