世界融合したけどどうでもいい

日陰者

文字の大きさ
1 / 11

犯罪者呼ばわりの悪魔

しおりを挟む
 ここには二つの世界がある。みんなが憧れるモンスターと戦う魔世界と、現実世界の二つ。誰もがこの二つの世界を自由に行き来できる。

 ただ、魔世界には誰も行こうとしない。死が当たり前の世界だからだ。現実世界にいれば、死にそうになることなど滅多にない。安全が保証されている(自殺は別である)。そんな世界にいたら、いつ死ぬか分からない。行きたがる人は少ないだろう。

 よほどの死の恐怖が薄い人や、現実世界が嫌で嫌でたまらないという人じゃなければ。

 そんな現実世界が嫌で嫌でたまらない私は、魔世界によくいるのだが、今死にかけている。

 前方には超大型モンスター、後方には傷を負った仲間と壁。逃げようにも逃げられない。

 最初に、二つの世界を自由に行き来できると言っていたではないか。現実世界に逃げればいいじゃないか。と思うだろう。だが、どこでも自由に行き来できる訳では無い。世界を移動するためのゲートに行く必要がある。つまり、その場所にいない今は不可能という事だ。

 無抵抗のまま死ぬか、足掻いて死ぬか。1人でいたら私は迷わず無抵抗を選ぶ。めんどくさい事はしたくないし、無様に足掻いて死にたくないのだ。死ぬなら潔く。しかし今は1人ではない。怪我をした仲間がいる。出来損ないの私についてきてくれた、大切な仲間が。ここで無抵抗を選んだら、呆れられて捨てられてしまう。そんなの絶対に嫌だ。

「来いよ。最後まで無様に足掻いてやろうじゃねぇか!!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 今日も目が覚めてしまった。カーテンの隙間から陽の光が差し込んできている。外はどんよりとした私の気持ちを嘲笑うかのような、憎たらしい晴天らしい。

 身体中が痛みを感じ悲鳴をあげるが、無視をして起き上がる。とりあえず、喉が乾いたから水でも飲もうと立ち上がりキッチンに向かう。

「んだよ、もう起きてきたのか。」

 最悪だ。1番会いたくない人間に、朝一で会ってしまった。

 この男は、私の父親だ。日々パチンコと女遊びで私の魔世界で稼いできた金を散財し、私と目が合うと暴力を振るってくる。不幸中の幸いか、私を金を持ってくる道具としてしか見ていなかったからか、そういった事はされていない。
 母もいたのだが、女遊びを辞めない父に呆れ幼い私を残して出ていった。母は人並みに優しかったのをなんとなくだが覚えている。
 父は無言で私に近づき、私の腹を殴る。痛みで顔が少し歪んでしまう。顔をあげようと思い前を向いた瞬間腹にもう1発、顔に1発。私は衝撃に耐えきれず、壁に体をうちつけそのまま倒れた。

「今日の分はこんだけか。チッ、すくねぇな。そうだ、今日から新しい子が来るんだよ。あの子には俺には子供が居ないと言ってある。纏める荷物なんてねぇだろ?さっさと出ていけ。」

 父は昨日私が魔世界で必死になって稼いできた金を拾い上げ、私の頭を踏みつけながら言った。

 て言うか、え?私まだ17歳なのに、もうホームレスなの?
 言われたことを受け入れられずに、呆然としていると部屋の扉が勝手に開いた。

「テルくーん♡驚かせたくて来ちゃった♡」
「アリサ!来るのは午後からじゃなかったのか?驚いたぞ!」
「てか、この女誰ー?まさかテルくん浮気?アリサ悲しぃー!」

 キモイ女が入ってきた。話から察するに、こいつが父の次の女なんだろう。
 早く家から出なければ、このキモイ女に何をされるか分かったもんじゃない。体を必死に動かそうとするがさっき腹に貰った2発目が結構重かったらしい。思うように動けない。

「浮気なんかするもんか!俺はアリサ一筋だよ!この女空き巣らしいんだ。俺が家に帰ってきた時キッチンを荒らしていやがった!」
「えー!じゃあ、犯罪者じゃん!テルくんがやっつけたの?すごーい♡てか、このゴミまじきもいんですけどー!」

 女に踏みつけられる。何度も、勢いよく踏みつけられる。
 実の娘を犯罪者呼ばわりとは。人をゴミ扱いとは。なんて奴らだ。

「とっとと失せろ!」

 首を捕まれ近くにあった窓から、投げ捨てられた。こいつマジでか。
 頭を守るように腕でガードした瞬間、地面に叩きつけられた。右腕が酷く痛む。見た感じ曲がってはいないから骨にヒビでも入ったんだろう。
 未だに朝からの怒涛の出来事に理解が追いつかず、倒れたまま頭の中で整理する。
 朝起きて水を飲みにキッチンに向かったら父がいて、殴られて女が来て踏みつけられて、犯罪者呼ばわりされて、窓から捨てられた。ダメだ。理解はできたが心が追いつかない。

 しかし、ここでボケっと倒れていても現実は変わらない。いつものように世界を移動するために扉ゲートに向かおうと立ち上がった。

 扉ゲートに向かう途中、公園で獣人の子が人間虐められているのを見かけた。放っておくのもなんだと思い、いじめの現場へと足を向けた。

 現実世界にも獣人や人魚、鬼等数多くの亜人がいる。
 魔物に身内が殺されトラウマを植え付けられた者や、戦いが苦手という者、様々な理由でこちらの世界で暮らしている。
 亜人が現実世界でも暮らすようになって何百年と経ったが、未だに差別が横行している。
 虐めている彼らも、亜人を差別しているのだろう。

 現実世界の方では、魔世界よりも科学の方が発達している。魔世界でも大きな建物はあるが、現実世界ほどでは無い。高層ビルやマンション、ショッピングモール、デパート等は現実世界にしかない。
 現実世界の方でも魔法は使えるが、魔法を苦手とする人がこちらに住んでいるため、魔法を使おうとする人は少ない。魔世界の方では逆に、魔法やスキル等を扱うのが得意とする人が住んでいるため、現実世界よりも大変賑やかだ。

「うわ、悪魔だ!」
「やべぇ、食い殺される!」
「逃げろ!石にされるぞ!」

 私のことに気づいた子供達が、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
 悪魔。昔からそう呼ばれていたせいで、もうその言葉に抵抗は感じていなかったが、やはり顔を青くして全力で逃げられる少しと傷つく。つか、石になんか出来ないし。

 私の髪と目は、魔世界人だった祖母譲りで、髪は水色がかった白髪、目は真っ赤だった。他の人とは違う異質な姿だからか、悪魔呼ばわりされていた。
 祖母の種族は今は途絶えたらしいが、結構名高い種族だったらしい。小さい頃母から何度も聞かされたが、種族名は教えて貰えなかった。

 私は、未だに蹲って震えている獣人の子の隣にしゃがんだ。
 顔を上げてすぐ私の姿が見えるよりは、マシだろう。

「辛かったね。あの子達はもう行っちゃったから、君も家に帰りな。」

 獣人の子を怖がらせないよう、なるべく優しい声を出して言った。

「うん、ありが」
「メディ、大丈夫!?」

 獣人の子の親だろうか。走って駆け寄ってきた。少しまずい位置にこられてしまった。親の角度からだと私の顔が直で見える位置になってしまった。

 急いで顔を隠そうとフードを深く被ろうとした。

「あ、悪魔!!」

 悲鳴に近い声が住宅街に響いた。終わった。

「悪魔だと!?おい、子供は無事か?早く連れて逃げろ!」
「違うよ!おじちゃん、お姉さんは僕を助けてくれたんだよ!!」
「もう洗脳されてしまったのか!おい!早く連れて逃げろ!」

 言いたい放題だ。いじめられていた獣人の子、メディくんは、誤解だと弁解してくれようとしていたが、大人共は聞く耳をもっていない。それどころか、各々武器を持ってきていた。(現実世界の方は魔物は出ないから、殺傷能力が高いものはあまりない。)

 このままだと助けた子にトラウマを植え付けてしまうかもしれない。早く逃げよう。

 私はフードを深く被り直し、全力で地面を蹴った。

「早くこの街から出ていけ、この悪魔!」
「お前がいると子供達が安心して遊べないだろうが!」
「さっさと消えちまえ!!」

 子供をいじめから守ったら、この言われようだ。悲しくて、悔しくて、面白くて、笑いが込み上げてくる。声を上げて笑いそうになるのを抑えながら、私は魔世界に向かうためゲートトに向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...