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馬と人参と少女
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「外出許可証はありますか?」
堅く閉められた正門脇にある、守衛所の女性が露骨に不機嫌そうな顔で言った。
食料を買いに行こうとしたら、止められたのだ。
「えっ? いや、持ってません。ちょっとお昼ご飯を買いに行こうと……」
「外出許可証がないと外には出られませんよ。手帳に書いてあるはずですが」
そうだったのか……。
流し読みしたからあんまりちゃんと読んでなかったんだよな。
「そうですか。じゃあ許可証をもらってから来ます」
「ちなみに、急を要する理由が無ければ外出許可は下りないと思って下さい。買い物などもってのほかです。後、無断外出した生徒はその時点で退学ですので、二度と戻る気がなければどうぞご自由に」
踵を返した僕の背中に、問答を繰り返すのも嫌だとばかりに簡潔かつ淡々と話す女性の言葉。
一万円という添え木で補強した、僕の心がぽっきりと折れた。
「一体どうしろってんだよ……」
厩舎に戻り頭を抱える。逃げないと決めたものの、このままじゃ餓死だ。
購買所も寮の中。お金はあっても買うことすら出来ない。
心労のせいか空腹感がハンパない。
「黒影ぇ――って、お前も食事中かよ……」
馬により所を求めたものの、そ知らぬ顔で人参と林檎が入ったバケツに顔を突っ込んでいる。
馬ですら昼飯食うのに……。
「なぁ。一個でいいからわけてくれない? マジお願い!」
ダメで元々。
両手を合わせお願いすると「ったく、しょーがねーな」みたいな雰囲気で、バケツから顔を上げ、器用に鼻先でソレを僕の方にずらす。
僕の気持ちを汲み取るような態度に驚きを覚えるより先に、感動した。
「おお! くれるのか黒影!? ありがとう! やっぱり持つべきものは友だな!」
神の恵み。いや、馬の恵みか。
バケツの中を覗き込むと、人参が一つだけ、ポツンと残されていた。
……本当は林檎が良かったな。という思いは胸にしまいこみ、近くの水道でそれを洗い、齧る。
糖度が高く、エグみの少ない、美味しい人参だった。
「うん。中々いい人参だ。お前毎日こんな良い物食べてるのか。羨まし――」
その時、厩舎のドアが開く音が聞こえた。
視線の先には驚いた顔をする一人の女子。気持ちは分からなくもない。
見知らぬ男が馬を撫でながら、人参を丸かじりしているのだ。
僕が見た限り染髪や化粧に寛容な校風らしいが、まだあどけなさの残る目の前の少女からは、言っちゃ悪いが地味な印象を受けた。
「ぬっ、盗んだわけじゃない……よ……?」
そして、僕の口から出たのは何故かそんな言葉だった。
「……はぃ……」
そう呟くと、両手で胸を隠すような仕草をしながら、夜道で暴漢に出会ったかのような警戒の視線を外すまいとしながらも、時折チラチラと視線を移す。その先には机。
上に置かれているのは見知らぬスマートフォンだ。
忘れ物? 推測するに、黒影に餌を上げに来たのは多分彼女なのだろう。
そしてソレを取りに来た。
ただそれだけの状況なのに、この緊張感は何だ?
『一瞬でも気を抜いたらヤられる!』
そんな雰囲気を全身からかもしだす少女に当てられたのか、何故か僕の身体にも力が入る。
さながら一触即発である。
たかだか忘れ物を取りに来た者と、ただそれを見守る者なのに。
そんな重苦しい空気を切り裂いたのは、場に似つかわしくない、ほんわかとした着信音。
思わずポケットからスマホを取り出すが、味気ない僕の着信音とは違う。
それが彼女のモノだと気づいた時、その姿は既になく。
開け放たれたドアだけが、寂しそうに揺れていたのだった。
堅く閉められた正門脇にある、守衛所の女性が露骨に不機嫌そうな顔で言った。
食料を買いに行こうとしたら、止められたのだ。
「えっ? いや、持ってません。ちょっとお昼ご飯を買いに行こうと……」
「外出許可証がないと外には出られませんよ。手帳に書いてあるはずですが」
そうだったのか……。
流し読みしたからあんまりちゃんと読んでなかったんだよな。
「そうですか。じゃあ許可証をもらってから来ます」
「ちなみに、急を要する理由が無ければ外出許可は下りないと思って下さい。買い物などもってのほかです。後、無断外出した生徒はその時点で退学ですので、二度と戻る気がなければどうぞご自由に」
踵を返した僕の背中に、問答を繰り返すのも嫌だとばかりに簡潔かつ淡々と話す女性の言葉。
一万円という添え木で補強した、僕の心がぽっきりと折れた。
「一体どうしろってんだよ……」
厩舎に戻り頭を抱える。逃げないと決めたものの、このままじゃ餓死だ。
購買所も寮の中。お金はあっても買うことすら出来ない。
心労のせいか空腹感がハンパない。
「黒影ぇ――って、お前も食事中かよ……」
馬により所を求めたものの、そ知らぬ顔で人参と林檎が入ったバケツに顔を突っ込んでいる。
馬ですら昼飯食うのに……。
「なぁ。一個でいいからわけてくれない? マジお願い!」
ダメで元々。
両手を合わせお願いすると「ったく、しょーがねーな」みたいな雰囲気で、バケツから顔を上げ、器用に鼻先でソレを僕の方にずらす。
僕の気持ちを汲み取るような態度に驚きを覚えるより先に、感動した。
「おお! くれるのか黒影!? ありがとう! やっぱり持つべきものは友だな!」
神の恵み。いや、馬の恵みか。
バケツの中を覗き込むと、人参が一つだけ、ポツンと残されていた。
……本当は林檎が良かったな。という思いは胸にしまいこみ、近くの水道でそれを洗い、齧る。
糖度が高く、エグみの少ない、美味しい人参だった。
「うん。中々いい人参だ。お前毎日こんな良い物食べてるのか。羨まし――」
その時、厩舎のドアが開く音が聞こえた。
視線の先には驚いた顔をする一人の女子。気持ちは分からなくもない。
見知らぬ男が馬を撫でながら、人参を丸かじりしているのだ。
僕が見た限り染髪や化粧に寛容な校風らしいが、まだあどけなさの残る目の前の少女からは、言っちゃ悪いが地味な印象を受けた。
「ぬっ、盗んだわけじゃない……よ……?」
そして、僕の口から出たのは何故かそんな言葉だった。
「……はぃ……」
そう呟くと、両手で胸を隠すような仕草をしながら、夜道で暴漢に出会ったかのような警戒の視線を外すまいとしながらも、時折チラチラと視線を移す。その先には机。
上に置かれているのは見知らぬスマートフォンだ。
忘れ物? 推測するに、黒影に餌を上げに来たのは多分彼女なのだろう。
そしてソレを取りに来た。
ただそれだけの状況なのに、この緊張感は何だ?
『一瞬でも気を抜いたらヤられる!』
そんな雰囲気を全身からかもしだす少女に当てられたのか、何故か僕の身体にも力が入る。
さながら一触即発である。
たかだか忘れ物を取りに来た者と、ただそれを見守る者なのに。
そんな重苦しい空気を切り裂いたのは、場に似つかわしくない、ほんわかとした着信音。
思わずポケットからスマホを取り出すが、味気ない僕の着信音とは違う。
それが彼女のモノだと気づいた時、その姿は既になく。
開け放たれたドアだけが、寂しそうに揺れていたのだった。
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