私立桃華学園! ~性春謳歌の公式認可《フリーパス》~

cure456

文字の大きさ
29 / 48

恐怖を刻んだ小さな蛇使い

しおりを挟む
「よう」
 目が覚めた時最初に見えたのは保健室の天井でも、シスターマリの顔でも別の女子でもない。
「気分はどうだ?」
 むさくるしいおっさんの顔――父だ。
「起きぬけにおっさんのドアップ見たらどう思う?」
「地獄だな」
 何となく、ホッとした。

 今まで数えるほどしか来院した事のない僕でも、この部屋がどれだけ特別な場所なのかは一目で分かった。
 広々とした空間、置かれた高級そうな調度品。もちろんベッドは一つ。
 そして一番最初に僕の口から出た言葉は。
「病院代大丈夫?」
 父が苦笑する程だった。

「学園負担だから気にすんな。まぁ、女子高生と乳繰り合った挙句、屋上からぶっ飛んだ馬鹿につける薬がこの病院にあるかは分からねぇぞ」
「世界中探してもないのかもね」
 痛みはさほど無く、代わりに身体の重さを感じるのは鎮痛剤の所為だろうか。
 両手両足をギブスと包帯でぐるぐる巻きにされた姿は面白くもあった。

「どれくらい寝てたのかな?」
「三日くらいだな。アバラにひびが入った位で、骨は折れてないみてぇだ。ししゃもに感謝しろよ」
 余りにも真面目に言うので、本当にししゃものおかげなのかと思ってしまう。
 ししゃもを毎日食べるだけで骨が折れないのだとしたら今頃ししゃもは絶滅している。
 たまたま運が良かっただけなんだろう。もし、あの下がアスファルトだったら――。

「怖いか?」
 心の中を見透かされたようだった。「怖くない」と意地を張る事も出来ない。
 彼女の暗い瞳を思い出すだけで、全身がこんなにも震えるのだから。
「はは……なんだこれ……止まらないよ……」
 こんな姿、例え父親にも見せたくはなかった。
 父親にだからこそ見せたくないのかもしれない。
 女子に殺されそうになって、情けなく震える姿なんて。

「いいバイブレーションだ」
 だが、そんな考えもまるでちっぽけなモノのように。
「それで女を抱いたら――いい声で鳴くんだろうな」
 いやらしい笑みを浮かべる。
「はは……いかれてるよ」
 入院が必要なのは父の方じゃないのか――そんな事を考えた時、身体の震えは治まっていた。


「ねぇ、めちゃくちゃ強い女の子に勝つにはどうしたらいいかな?」
「知らん」
 備え付けの高級そうなフルーツを頬張った父の言葉に唖然とした。
 何も考えずただ聞いたわけじゃない。恥を忍び、勇気を振り絞った上での問い。
 そんな息子の思いを、あろう事か一言で無為にしたのだ。
 しかも僕にフルーツを食わせる気配もない。

「俺より強い女はいないからな」
「いや、居るでしょ多分。ボクシングの世界チャンピオンとか――」
「益々簡単だ、蹴飛ばせばいい。ボクサーは足が使えねぇからな」
 顎が外れる程唖然とした。その言葉が冗談ではないと理解したから。
「いやいやいや、女に手を出しちゃダメでしょ?」
 足だから問題ない――何て小学生みたいな返答をされたらどうしようかと思っていたが、予想は遥か斜め上。
「ん? 何でだ?」
「えっ? そう言ってたじゃん? 昔から」
「ああ――そうだったか? いや、何となく格好いいじゃん? 正義のヒーローみたいな?」
 みたいな? って女子かよ。
 おっさんが使っていいセリフじゃないだろ。
「『女には手を出さない』言い方を変えれば『女は弱いから手を出さない』って事だ。自分より強い女は女であって女じゃない。そんな女を力ずくで女にするのが男の喜びだぜ」

 深いような深くないような。
 分かるような分からないような。
 ただ一つだけ分かった事があるとするなら、父は女でも関係なく殴る。って事だ。
 なにこれ、死にそうな目にあった挙句、僕が評価していた父の持論は何となく言ってただけって事実。良い事なんて一つもない。

「そんな事言われても……十五年それを心に誓って生きてきた僕には今更すぎるよ」
「めんどくせぇ奴だな」
 おおよそ父親らしからぬ発言を呟くと、突然手に持ったメロンを平手で叩いた。
 バチン! と鳴り響いた音の大きさとは裏腹に、メロンには傷一つ付いていない。
「まぁ。それはそれでいいのかもな。わざわざ好き好んで傷をつける必要もない」
 指を突きたて穴を開け、そこから流れ出るメロンジュースを一気に飲み干した。
 え? メロンって固形物じゃなかったっけ? 
 ってか指で穴が開くほど柔らかかったっけ? マジックなの? 
 平手打ちで内部にだけ衝撃を与えて――みたいな格闘マンガお決まりのトンデモ技を軽々とやってみせたって言うの?

「じゃ。そろそろ帰るわ。彼女によろしくな」
 フルーツを両手に抱え、満足した様子で颯爽と部屋を出て行く。
 バスケットの中には、申し訳程度に一個だけ林檎が残っていた。
「せめて手の届くところに置いて行ってくれよ……」
 空腹感が、愚痴をこぼさせた。


 あの子、本当に僕を殺そうとした。
 躊躇いの色などなく、負の感情で濁った真っ暗な瞳。
――一年D組、山棟蛇纏やまかがしまとい 
 その日の昼休み、彼女は突然僕の前に現われ、手袋を投げた。
「ついてきて」

 パサついた、決して綺麗とは言えない黒髪に覆われた顔。
 薄っすらと見えるのは口元だけ。
 異形とも言えるその姿は不気味で、話しかけるのも許されない雰囲気を漂わせていた。
 彼女に導かれた先は、少し肌寒い春風吹き荒ぶ屋上。
 そして、見覚えのある一人の女性が立っていた。

「お会いするのは二度目でしょうか」
 そう微笑んだのは、僕がひそかに唯一神と称える女神。
 桃華学園三年、姫ノ宮百合その人だった。
「はっ、はじじまますて! あっ、愛でん武です!」
 自分でもビックリするほどの動揺ぶり。
 ああ、人は神を目にした時こんな態度をとるんだろうか。と一人納得する。

「ふふっ。よろしくお願いしますね」
 例えようのない極上の笑顔を浮べて、女神が手を差し出す。
 摩擦で火がつくんじゃないかと思う程、ズボンにこすり付けた手を伸ばしたその時だった。
「痛っ!?」
 手の甲に激痛が走ったのは、何かが僕の手を払ったから。
 その正体は、黒髪の少女の手に握られた鞭。
 髪で覆われた彼女の顔が憎悪で歪んでいる気がした。

「あらあら。ごめんなさいね愛染さん。どうもやんちゃが過ぎるみたいで」
「いっ、いえ……。大丈夫です……」
 すっかりとミミズ腫れになった手をさすり、女神の手に触れられなかった事を少し悔やんだ。
「生徒会長として、私《わたくし》が立会人を務めさせていただきます」
 その言葉に、僅かな緊張が走った。

 いつも立会人は教員の役目。
 わざわざ生徒会長と名乗ったのは、その権限を有している事を伺わせる。
 だが、彼女はゾディアックのTOP。
 そして、間違いなく黒髪の少女もゾディアックだ。
 心まで蕩けてしまいそうな微笑が今は怖い。
 敵地に一人迷い込んでしまったかのような恐怖心が湧き上がる。

「彼女が申し込んだのは『密闘』です。密闘とは、秘密裏に行われる決闘の事。残るのは決闘をしたと言う事実のみ。誰が闘ったか、その約定が何だったのか、全てはこの場だけの秘密。知らずに来たのだと思いますが、もちろん断っても構いません」

――どうする。
 この決闘のシステム。
 申し込んだ方は条件をつけられるが、受けた方はそうではない。
『じゃあこっちが勝てば』などと言う話にはならず、勝っても何を得るわけでもないのだ。
 山棟蛇をゾディアックから抜けされるには、最悪もう一度僕から決闘を申し込む羽目になる。
 不戦勝となれば幸いだが、山棟蛇の態度を見る限り、姫ノ宮さんに対する忠誠は強い。
 どっちにしろ、戦いは避けられないはずだ。

「……受けます」
「わかりました。ではこれより桃華学園規則に則り決闘を開始します。銃火器以外、全ての武器の使用を認め、戦意喪失、もしくは戦闘不能によって締めくくるモノとする――」
 考えてもしょうがない。立ち止まってる暇なんかない。
 僕の覚悟は、多少の逆境に負けるほど軽くない。
「闘いの炎を燃やせ」

 どれくらい闘っただろうか。
 屋上の淵で、自分より一回り小さい少女に首を絞められていた。
 僕を軽々と持ち上げた少女の両手はとても小さく、風に吹かれた黒髪の奥、その瞳には一筋の光も無い。
「蘭。楽にして上げなさい」
 最後に聞こえたその声は、とても透き通って。
 首をきつく締め付けてた両手が、フッと離れた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

くすのき君は妖怪が見えるけどそれはともかく趣味の人である。

くずもち
キャラ文芸
楠 太平は模型作りが趣味の高校生である。 彼には昔から妖怪という普通の人間には見えない存在が見えているのだが、それはそれとして楽しく暮らしていた。 そんな太平の通う学校に、神木杏樹という転校生がやって来る。 彼女にも実は妖怪が見えているらしいのだが、どうやら彼女は妖怪が見えることを持て余しているらしい。 そんな神木さんに見えることが速攻でバレた楠 太平はマイペースにやっていくつもりが、彼女のペースに呑まれてゆく。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

N -Revolution

フロイライン
ライト文芸
プロレスラーを目指す桐生珀は、何度も入門試験をクリアできず、ひょんな事からニューハーフプロレスの団体への参加を持ちかけられるが…

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

処理中です...