異世界娼館救世譚

九森隆弘

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姉と妹

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 堕胎手術後のアフターケアはとても重要である。教科書通り言えば、指示された薬をしっかり服薬し、異変があれば医師に相談。
 そして、罪悪感に苛まれないようにパートナーとしっかりとコミュニケーションをとる、といったところだ。
 リリーのや部屋を訪れると、よくローラが部屋にいることがある。年も近い二人だから仲も良い様子だ。
 年下のはずのローラが、まだ本調子ではないリリーの対して姉のように振る舞うのは、見ていて微笑ましい。聞くと、娼婦としてはローラの方が先輩ということだ。
 リリーの術後は良い。患部よりの出血もなく、顔色も良い。生理不順などの心配もあるが、その辺りは長い目で経過観察が必要である。
  心の傷はそんなに簡単には癒えないだろう。そして癒えてはいけない。

 夜、リアーヌとアリスが尋ねてきた。私がこの世界に来て20日が経つ。片手にはマクロからの差し入れの酒がある。年配メンバーで飲もうということらしい。
 リアーヌはもう疥癬自体の症状は収まっている。ダニや掻き壊しによる炎症も収まりつつある。
 明日から、客を取れるようになるのだと言う。・・・それを止めるようなことは出来ない。
 しかし、美人の二人に囲まれて飲んでいると、キャバクラみたいだな。リアーヌにこの世界にキャバクラはあるかと尋ねる。そのような施設はない、とのことだ。
 触れもしない女と、ただ飲んで何が楽しいの?と聞かれてしまった。
 ええ?、女性から見るとキャバクラってそう見えるんだぁ。キャバクラの良さをこの二人に伝えられるほど、キャバクラには精通してはいないが、良いビジネスチャンスになるかもしれない。
 「先生、リリーのことありがとうね。」
  「うん。」
 「それでさ、先生。お願いしたいことがあるんだけど。」
 きっと言いにくいことを言いに来たにであろう。アリスがイレーヌを制して、話し出す。
 「私達にも子供が出来たら、先生に頼んでいいかい?」
 「うん。」
 ローラが「姉」で、リリーが「妹」。
 アリスが「姉」で、イレーヌが「妹」。
 彼女達のことはまだまだ知らないのだ。
 「うん。いいよ。」 
 それは「先生」である、私の務めだ。
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