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人形屋敷の夢
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赤い西日の差す和室の入り口に友と二人で立っていた。和室は八畳程であろうか。真っ白な布団が隙間なく敷き詰められおり、その向こうに縁側が見える。友と顔を見合わせ、一つ頷いた。私達は分かっていた。ここを出るまでは声を立ててはならないのだ。二人同時に和室に踏み込むと、布団の冷たさが足を伝い、肝まで冷やした。一つ、また一つと足を進めた。そして、縁側に、出た。
途端、私達は同じ和室の入り口に立っていた。どういうことだ。夕日がこの上なく不気味に思われた。敷き詰められた布団に目をやって、驚いた。すべての布団の上にこけしが一つずつ置かれていた。友の顔にははっきりと恐怖が浮かび上がり、私の心には鉛の氷がぶら下がった。しかし、私達は分かっていた。進まなければならないのだ。もはや足に布団の感覚を感じる余裕は無かった。再び、私たちは縁側に、達した!
やはり。また入り口だ。たった今踏んだはずの縁側が彼方に見えた。友の脚が震えているのが分かった。そしてそれが何の為なのかも分かっていた。今、布団の上にこけしは無かった。代わりにあったのはマネキンであった。布団の中にあるそれは人間のようにも思われたが、天井に向けて大きく見開かれた眼は決して動くことは無かった。一歩踏み出そうとして、危うく転びかけた。私の脚もわなわなと震えていたのだ。友と共有する「声を立ててはいけない」という掟が無ければ、私はとうに叫んでいた。それでも私たちはマネキンの間を縫って歩いた。足元を見ながら歩いたため、赤い光を受けたマネキンの顔をいくらか見た。どれも全く同じ女の顔であった。部屋の縁まで来た。友と顔を見合わせ、目を閉じて縁側を踏んだ。
目の前が赤く照らされていないことを一心に祈り、ゆっくりと目を開けた。嗚呼、しかし本当は分かっていたのだ。果たして眼前には西日の和室。友が後ずさりながら私にしがみついた。今度布団の中にあったのは、いや、それは布団の中に居たのだ。先程のマネキンと同じ顔をした女達が。目こそ閉じていたものの、その同じ顔の女達は生きていた! その証拠に彼女らの布団が寝息に合わせて僅かに上下しているのが分かった。私達の本能は二分されていた。前に進もうという正しくも愚かな本能と、永遠にこの場に留まろうという誤りつつも賢明な本能にだ。ふと、愚かな本能が私に気づかせてくれた。この部屋で終わりだ。理由は分からないものの、確信できた。行こう。私は決めた。友の肩に手を置いた。彼の目も彼が私と同じ決断に至ったことを示していた。私達は同時に深く息を吸い、同時に深く吐いた。そして同時に大きく、一歩を踏み込んだ! 刹那。
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
女達の目が一斉に見開かれ、笑いながら私達の方へ這い寄って来たのだ! 私も友も一時に掟をかなぐり捨てた!
「あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
私達は互いを押しのけ縁側に走った! もう少し! あと少し! 最後の、一歩! 私は友を力いっぱい押しのけると、その反動で縁側に出た。後ろで叫び声が聞こえた。
ここで目が覚めた。友の顔は思い出せない。
途端、私達は同じ和室の入り口に立っていた。どういうことだ。夕日がこの上なく不気味に思われた。敷き詰められた布団に目をやって、驚いた。すべての布団の上にこけしが一つずつ置かれていた。友の顔にははっきりと恐怖が浮かび上がり、私の心には鉛の氷がぶら下がった。しかし、私達は分かっていた。進まなければならないのだ。もはや足に布団の感覚を感じる余裕は無かった。再び、私たちは縁側に、達した!
やはり。また入り口だ。たった今踏んだはずの縁側が彼方に見えた。友の脚が震えているのが分かった。そしてそれが何の為なのかも分かっていた。今、布団の上にこけしは無かった。代わりにあったのはマネキンであった。布団の中にあるそれは人間のようにも思われたが、天井に向けて大きく見開かれた眼は決して動くことは無かった。一歩踏み出そうとして、危うく転びかけた。私の脚もわなわなと震えていたのだ。友と共有する「声を立ててはいけない」という掟が無ければ、私はとうに叫んでいた。それでも私たちはマネキンの間を縫って歩いた。足元を見ながら歩いたため、赤い光を受けたマネキンの顔をいくらか見た。どれも全く同じ女の顔であった。部屋の縁まで来た。友と顔を見合わせ、目を閉じて縁側を踏んだ。
目の前が赤く照らされていないことを一心に祈り、ゆっくりと目を開けた。嗚呼、しかし本当は分かっていたのだ。果たして眼前には西日の和室。友が後ずさりながら私にしがみついた。今度布団の中にあったのは、いや、それは布団の中に居たのだ。先程のマネキンと同じ顔をした女達が。目こそ閉じていたものの、その同じ顔の女達は生きていた! その証拠に彼女らの布団が寝息に合わせて僅かに上下しているのが分かった。私達の本能は二分されていた。前に進もうという正しくも愚かな本能と、永遠にこの場に留まろうという誤りつつも賢明な本能にだ。ふと、愚かな本能が私に気づかせてくれた。この部屋で終わりだ。理由は分からないものの、確信できた。行こう。私は決めた。友の肩に手を置いた。彼の目も彼が私と同じ決断に至ったことを示していた。私達は同時に深く息を吸い、同時に深く吐いた。そして同時に大きく、一歩を踏み込んだ! 刹那。
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
女達の目が一斉に見開かれ、笑いながら私達の方へ這い寄って来たのだ! 私も友も一時に掟をかなぐり捨てた!
「あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
私達は互いを押しのけ縁側に走った! もう少し! あと少し! 最後の、一歩! 私は友を力いっぱい押しのけると、その反動で縁側に出た。後ろで叫び声が聞こえた。
ここで目が覚めた。友の顔は思い出せない。
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