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第1章 旅立ちと怒涛の出会いは濃い始まり?編

23.暫しの別れと討伐報酬

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訓練と言う名の討伐をした初日の晩。

孵化したナイトメア・ホークの姿を見た2人は、固まった。
しかも、どちらも2人と従魔契約した事になっており、名前は2人で決めるはめになった。

「私達の名前を使って、女の子が『リディル』。男の子が『ルアン』で良い?」

「おう。俺は名前を決めるの苦手なんだよ。良かったなー、お前達」

『『うん。有り難う!!』』

─────これには参った。卵から孵化したこの2羽は、最初からリンとアルディーを《親》として見ているのだ。
所謂、刷り込み。
更にリンの鑑定で、この2羽はナイトメア・ホークではなく、その上位種である『バトラー・ホーク』であることが判明している。

「これからこの子達のレベル上げと連携とかをちょっとやらないと、ここから移動出来そうに無いわね……」
「…………そうだな」

    結局、この後丸1日の時間を費やす事になるのだった。




─────そして、女神の森の奥で過ごした2日目。レグリアに着いてからの時間で言うと3日目の早朝だ。

    リンとアルディーは色んな事が起こりすぎた森の中を出て、現在は森の入り口から離れて街道に立っている。
リコラとルチアはリンの側に寄り添う。

向かい合った2人の肩には、森に入る前には居なかった鳥が留まる。

「気を付けてね。ここでの事は……」

「大丈夫だ。信用出来る奴じゃねえと喋らねえよ。俺も女神の森の使者になったからな。約束だ」
アルディーの言葉に、リンが小さく吹き出した。

「…………って言うか、あれじゃ強制よねー。ふふっ。また会える?」
「ふっ。そうだな……。アレは無いな、とは思ったが、リンとのことを認めてもらったと思えば良いもんだぞ。───それに、仕事を辞める良い切っ掛けだ(もう、オヤジにこき使われるのはゴメンだからな)。王国に戻ったら、今の仕事を辞めて俺も和国オウラに行くよ。リディルも会いたくなるだろうし」

「分かったわ。ある程度住み慣れるまでは和国オウラで待ってる。我慢出来なくて、リコラとルチア、ルアンを連れてアルクリア王国の方に行くかも」

森の中の訓練を終えた2人は、顔を見合せ暫く笑い合った。

「しっかし、濃い生活が続いたよなー」
「そうね。まさか、『バトラー・ホーク』っていう上位種が産まれるなんて思わなかったわ」
「だなー。リディルが『ブラック』、ルアンが『ホワイト』だったか」
アルディーが肩に留まっているリディルは、頭は濃紺でそこから徐々に尾羽に向かうにつれて白いグラデーションの体。
リンの肩には、ルアン。その逆のグラデーションの体だ。頭は白で徐々に尾羽に向かうにつれて濃紺になっている。

    このバトラー・ホークへの孵化の条件はこの通りだ。

1:卵が対であると判明している。
       (同色、グラデーション、同じ位置に
      あるから確実に対とは限らない)
2:マナの濃い地域で、信頼し合ってい 
        る男女互いの魔力を同時に送る事。
3:1日安全な場所に保管出来ること。
4:孵化が近い時間は片時も離れないこ 
       と。

「この条件を満たさなければ、産まれないんだよな」

「うん、そう。それに、この姿はパッと見はナイトメア・ホークに見えないこともないけどこんなグラデーション自体は今までに発見されていない……となると、色々トラブル起きそうよね」
ふう、とリンが溜め息を吐いた。
今はリディルとルアンのレベルが微妙に足りない為、擬態が出来ないのがちょっと厄介だ。流石に、1日でレベルを30にするのは無理がある。
良いことと言えば、ルディがルチアの言葉も分かるようになった事。
『アルディー頑張ってなの!』
パタパタとアルディーの側に飛び、顔を叩くルチアに、苦笑する。
「そうだな」
『ルチア姉様。はしたないです』
『はしたなくなんかないの!スキンシップなの!リディルは何でそうなの!?』
『だって、姉ちゃん《クイン種》じゃん。リディルは姉ちゃんの将来が心配なんだよ?同じメスだし』
『ぷぅー!なの!ルアンもうるさいの!』
プイッとそっぽを向いたルチアは、アルディーの左肩からリコラの背中に飛んで降りた。

「これから、私のルアンもだけど、リディルの事を色々聞かれると思うわ。それに奪いに来る輩もいると思うの。だから、気を付けてね」
「ああ。道中はリディルのレベル上げやって、擬態スキル使えるようにするさ。強さも申し分無いしな。良いパートナーが出来たよ。────ああそうだ」

アルディーは小さな箱を取り出した。
「これ、野営村の露店で買ったものなんだが……」
アルディーはリンの左手を持ち上げると、薬指に小さな赤い石が付いたシルバーのリングを嵌めた。
ほんの少し、アルディーの魔力の流れを感じる。
「何で?」
こてん、とリンが首を傾げる。
「パーティー予約。もう1つ入ってるんだ。リン、嵌めてくれ。約束を反故にしたくない。必ずパーティー組んでのんびり旅しよう」
アルディーが柔らかく微笑む。

うむ。イケメンスマイル強烈です。

「─────これで良い?」
リンはちょっと躊躇ったが、リンも同じように魔力を少し流して同じデザインの指輪をアルディーの左手薬指に嵌めた。
何で右手じゃないの?と突っ込みたいが、薮蛇な気がするのでやめておく。
後で指輪を鑑定してみよう。
「有り難う。じゃあ、また」

「うん、またね」

リンに背を向け、アルディーは歩いていく。見えなくなるまで、リンはアルディーの背中を見送った。

『ちょっと寂しいの……』
しょぼんとするルチアの体をルアンが片翼でちょんちょん突く。
『姉ちゃんはさみしがり屋だからなー』
『うるさいの!ルアン、お仕置きなの!』
『ウゲッ!』
バサバサ、パタパタとリンの周囲を飛んで回る。
『待てなのー!』
『やーだねっ!』
その動きを見て、クスクスとリンが笑う。
「そろそろ行くよー。リコラ、お願い」
「ぐるぅ」


大きくなったリコラの背に乗って、リンは一度アルディーの去った方向へと振り返る。少し眺め、再び前を向いてレグリアの方向へと飛び立ったのだった。

ルアンが思わず頬にすり寄るくらい寂しい顔をしたリンを乗せて───





△▲△▲△




─────辺境都市レグリア冒険者ギルド。




    昼食後、リリアナとレイナは共にギルドに来ていた。
周囲を気にしつつ、リリアナとレイナは依頼ボードを見つめる。午後はやはり人が少ない。

「リリアナさん。この依頼が良さそうです」
レイナが見付けた依頼をリリアナが見る。

    和国オウラまでの魔物討伐依頼だ。
出現する魔物のランクはDランク~Bランク。個人はBランク以上、パーティーはCランク以上が推奨されている。報酬は討伐した魔物のランクによって変わる。レベルアップに丁度良い。
「あ~。これ、結構いい稼ぎになるのよねぇ。これにしましょ」
依頼票を剥がすと、リリアナ達は受付カウンターへと近付いた。
「こんにちは、アナ。久しぶりねぇ?」

「わぁ!お久し振りです、リリアナさん。今日はどんな依頼を受けるんですか?」
リリアナに笑顔を向けて、首を傾げる。
「依頼の前に、ここにアルが宿泊していたと思うのだけれど……。どこに行ったか知っている?」
リリアナはカウンターへと近付くと、最初に聞いたのはアルディーの行方だった。

「アルディーさんですか?えーっと……私じゃちょっと分かりません。食堂のマスターに聞いたら分かるかも知れないです。他にご用件は?」
「じゃぁ、私とレイナの依頼受付お願い」

リリアナが依頼票をカウンターに乗せた。

「はい。和国オウラまでのレッドウルフとブラックボア討伐依頼ですね。リリアナさんとレイナさんのカードをお願いします」
アナに言われてカードを渡し、依頼の受付をしてもらう。
「終わりました。Cランク以上の依頼ですので問題ありません。和国オウラに到着後、魔物の討伐部位を和国オウラのギルドに提出したら依頼達成となります。失敗しても違反になることはありませんが、道中の状況は報告して下さいね」
リリアナとレイナはカードを受け取りながらアナの説明を聞き、腰のポーチにカードをしまう。

「それじゃあ、食堂の方で聞いてみるわねぇ」
「はい。すみません、お役に立てなくて」
アナが小さく頭を下げると、リリアナはニコリと笑った。
「良いのよ。ある程度分かれば良いだけだから」
ヒラヒラと手を振り、リリアナはレイナを連れて食堂の方へ向かった。



「ロスさん、お早うございます」
「ああ、お早うございます。久し振りですね、レイナにリリアナ」
にこやかに答えた食堂のマスター───ロスだ。
「ロスさん、お早うございます。ちょっと聞きたいことがあって来たのだけれど……」
「どうぞ、座って下さい。お茶入れますから」

ロスの言葉にリリアナとレイナはカウンターの席に促されるままに座る。
それを確認すると、お茶を入れながら静かに話し始めた。

「先程の会話が聞こえましたよ。アルの事ですよね。3日ほど前に、リンさんと言う可愛らしいお嬢さんとここで何やら話した後、出ていかれましたよ」
「リンもいたのね。……リンは何か言っていたかしら?」
コトリとお茶を前に置かれたリリアナは、カップを口へと運ぶ。

「それなんですが……最初の軽い会話のあと、込み入った話を始めましたから、私は席を外したんですよね。その後、紅茶の代金を受け取ったらそのままアルと一緒に出て行きました。
アル1人、1時間くらいで戻ってきたかと思ったら、宿泊管理の受付で急に女神の森の方へ行くことになったと。そのままアルクリア王国の方に向かうと急いでいたのを見ましたね。リンさんの姿は見ませんでしたが、おそらくアルと一緒にいるのではないかと…………」
あくまで推測ですけれどね、とロスが続けた。

「そう……。明日には和国オウラの方へ向かう予定なのだけれど、それまでに戻ってくるかしら…………」
困り顔をしたリリアナが、溜め息とともに呟く。
「リンちゃん何も言わないままですから……。ちょっと心配です」
レイナも少し沈んだ顔をする。
「向かう時期が分かっているなら、戻ってくると思いますよ?戻れそうに無いのならば、アルかリンさんのどちらかが行く前に伝言を何処かに残して行くんじゃないですかねえ」
ロスが柔らかく微笑みながら、リリアナとレイナに言うのだった。

その後は他愛もない話を3人で続けた。
「───ええ。アルは確実にリンさんに好意を寄せていますね」
「成る程ねぇ。その時のリンの様子は?」
「リンさん本人は、まだハッキリとした感じではないようですが、憎からず思っていると感じました」
ロスとリリアナの話を横で聞いていたレイナが、大きく溜め息を吐いた。
「リンちゃんが帰ってきたら、その話禁止ですよ!リリアナさんって恋の話になると、しつこく食い下がるんですから!」
「えぇ~。良いじゃない」
ちょっとむくれた顔をするリリアナに、レイナがジトッと睨み返す。
「その話をしたら、ユイト様に言い付けます」
レイナの言葉に、リリアナの笑顔が引きつった。
「分かったわよぉ……」

そんなやり取りをしているときに、ガチャン、と冒険者ギルドの扉が開いた。
入ってきたのは────リン。

「リンちゃん!」
その姿を見付けたレイナが席を立ってリンへと駆け寄ると抱きついた。
「あっ!レイナちゃん、ただいま!」
レイナを受け止めて、リンは明るい挨拶をする。
「3日前の朝に出掛けたまま戻って来ないから心配したんですよ!?」
「うん、ゴメンね。ルディを途中まで送ってきたの」
抱きついたレイナの頭を撫でながら説明すると、レイナが離れた。

「アルディーさんを?」
「うん。リコラの背中に乗せて」
「あっ……成る程ですね。走ればそれなりに早く行けますから」
レイナの納得顔を見たリンは、ホッとする。走ったと考えたようだ。
────まさか飛んだとは思い付かないだろう。


「あっ……そうだ」
リンは何かを思い出したようで、ポツリと呟いた。
「どうしたんですか?」
「あのね……ルディとレイナちゃん達と出会う前にね、盗賊と遭遇したの。討伐したんだけど、ギルドに報告するの忘れてたなって思って」
「それなら、受付に行きましょう。リリアナさん、もう一度受付カウンターに行ってきます!」
レイナが食堂の方へ向かって声を掛けると、リリアナが頷いていた。
「行きましょう!」
レイナはリンの手を引き、受付カウンターに連れていった。

「辺境都市レグリアの冒険者ギルドへようこそ。私は、受付担当のアナと申します。今日はどういったご用件でしょうか?」
営業スマイルのアナが、挨拶。リンはアナの方へ向き直った。
「はじめまして。リン・トウヤと言います。えっとですね、このレグリアに来る途中で(初めて)盗賊に遭遇したんで討伐したんです。身元証明持ってたんで必要かなって。確認出来ますか?」
リンがポーチの中からカードと腕輪を取り出した。
「成る程。そうですね、身元を証明出来るような物ならば助かります。無い場合は討伐報酬のみとなります。知っているとは思いますが、報酬受け取りの際は装備品等分かるような物と現れた場所を教えて下さい。あ、偽装はすぐ分かります。それでは確認します」
アナがカードを1つ1つカウンター内の水晶に翳していく。最後の腕輪で動きが止まった。
「アナ?どうかしたのですか?」
レイナが心配そうに覗き込む。
「い、いえ。何でもありません。確認出来ましたので、報酬をギルドカードへとお支払い致します。ギルドカードはお持ちですか?」
リンへとアナが問いかける。
「はい。有ります」
リンが返事を返してギルドカードを取り出した。
「お預かりします。───Cランクのリン・トウヤさんですね。入金の手続きをしますので、少々お待ち下さい」
アナがリンのギルドカードを持ってカウンター奥へと姿を消した。
「リンってCランクだけど、それ以上に強いんじゃないかしら?」
リリアナがカウンターへと近付いてきて、好戦的な眼をしてリンを見る。
「うーん、どうなのかなぁ?強さの基準が分からないんですよね。森で暮らしてたし。依頼も和国オウラに着くまでは受ける気無いので」
リリアナさん達が依頼を受けているならお手伝いで戦闘には加わりますけど、と言いながら申し訳なさそうに頭を下げた。

「あら残念ねぇ。……そう決めてるなら仕方ないわね」
リリアナの好戦的な視線をスルーしたのは気にしていないようで、溜め息混じりに残念そうにリリアナが答えた。



──────リン達がそんな話をしている頃、ギルドのカウンター奥でいつの間にか来ていたルカフが、リンのカードを確認していた。
「普通のギルドカードですよ?偽造はすぐに分かりますし」
アナが言うが、ルカフにはカードの模様が見えていた。緑の蔦の縁取りに、四隅には小さな赤い花。
流石にステータスの詳細は見えないが、この模様に見覚えがあった。
(やはり、そうでしたか……。これは和国オウラへ真っ直ぐ向かいますね。Cランク……成る程。ふふふ……)
ルカフは表情を変えずに1人納得すると、アナにカードを渡した。
「そうですね。正規のカードです。しかし、あの盗賊はCランク1人で倒せる訳無いんですが……。リンさんには何も言わなくて良いですから、後の手続きお願いします」
「分かりました」
ルカフはアナの返事を聞きながら、執務室へ戻っていった。



リンのカードを持って戻ってきたアナが、カードを手渡す。
「お待たせしました。盗賊のリーダーは賞金首ですので、討伐報酬の金額に上乗せがありました。それを含め、カードへと全て入金しました」
カードを手渡されたリンは金額を見て声を上げそうになった。
(トータル150万ガルドって‼ナニコレ怖いんですけど⁉リーダーっておいくらですか⁉───って聞けない……)

聞けばトラブルの元だと分かるからだ。ギルドの関係はネアから何も聞かされてない。和国オウラに着くまでは、依頼を含めて余計なことをしない方がいい、とリンは考えている。
冷や汗を流しながらカードをこっそりペンダントに戻す。
「有り難うございます」
リンはお礼を言って後ろに下がった。
これで、少しの間はお金に困らない。


「ありがと。それじゃ、アナまたね。リン、レイナ、もうすぐ夕方だから宿に戻って夕飯にしましょ」

「「はーい」」

リリアナはリンとレイナを連れて、アナに手を振るとギルドを後にした。




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