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第2章 和国オウラ騒動編

15依頼完了と果たし状

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    東の森は、和国オウラを出て東の街道を歩いて1時間程の道のりだ。
    何の問題もなく、城門は抜けられた。
ユイトが何かやったのだろう。

    ロッツとロミナは従魔であるリコラに少し驚いたものの、今は仲良くやっている。移動の際は普通は馬車を借りるらしいが、リコラが嫌がらなかったので乗せることにした。

    現在は、東の森の中間辺りまで入っている。魔闘気を利用して警戒網を張っている中で、ロッツとロミナが薬草採集に勤しんでいる。
    時折、ロッツはリンを見ているが気にしない。
    採集場所を少しずつ変えながら、移動と共に生態系の調査。今のところは魔物に遭遇していない。なので警戒網を半径500㍍くらいに留めている。

「リンちゃん凄いですね……」

レイナが呟くと、リンは首を傾げる。

「何が?」

「ロッツくんをあそこまで上手く連れてくるなんて」

「別に誘導したわけじゃないよ?ああいう負けず嫌いの子は、上手く乗せれば連れてきやすいなーって感じで言ってみただけよ」
クスクス笑ってリンが答える。

「そう言えば、昨日の親衛隊だっけ?あの後からの嫌な予感がどうしても取れないのよね。ねぇ、リコラ」

「わふっ」

「あ、あれですか……。実は私もです」

    フラグになりそうで今まで会話に出さなかったが、お互いに気になっている事でもある。2人は小さく溜め息を吐いた。

    その会話している姿を見ながら、ロッツはゆっくりと立ち上がってリンに近付いてきた。

「……リン姉ちゃん。さっきはごめんなさい」

    ロッツが近くまで来ると、リンに声をかけて謝った。

「あら。どうしたの?」

「薬草採集やってる間、ずっと考えてたんだ。剣を教えてほしい。お願いします!」

    ロッツは勢い良く頭を下げた。
その姿を見て、リンは静かに微笑む。

「厳しいけど良いの?キレる様なこともやるわよ?」

「ぐっ……。冒険者やるのにも冷静さは大事なんだろ?早く強くなってロミナを守ってやりたいって……焦ってたんだ。俺はこのままじゃダメだと思うんだよ」

    ロッツの真剣な眼差し。リンは目を合わせてじっと見つめる。奥底の信念を見るように。

「────良い目だね。教えてあげるよ」

「本当か!?」

「ただし!ロミナも少し刀剣か武術を学ぶこと。私が教えるから。多少の護身術が出来れば良いくらいの腕でも構わないけど、才能があれば続けると良いよ」

    無理にとは言わないけどね、とリンは言葉を続けた。

「ありがとう!よし!残りの薬草採集頑張ってロミナにも話してくる!」

    ロッツはロミナの元へ走っていった。何やら嬉しそうに話しながら採集している姿を微笑ましげに眺めていると、警戒網に何か引っ掛かった。リンは眉をひそめる。

「リンちゃん、何か来ます」

    レイナも気付いているようで、少し警戒の色を滲ませた。複数の動きが一定の速度…赤い印は敵意剥き出しの証。リンは小さく溜め息を吐いた。

「……うん、多分さっきギルドで絡んできた男じゃないかな。それに数人増えてる感じ。まったく面倒な……。ロッツ!ロミナ!こっちにすぐ来て!」

    リンの少し大きめの声と手招きに首を傾げつつも、ロッツとロミナは走ってきた。
リンとレイナの険しい顔に、何かあったと気付く。

「このまま帰りましょ。2人とも、依頼分の薬草採集は終わってる?」

「「うん、大丈夫」」

「レイナちゃんはロミナを抱っこして。リコラ!」

「がう!」

    リンの声に、リコラのサイズが一気に変わる。3人乗せるのも容易い大きさだ。

「うわっ!リン姉ちゃんの従魔って何の種類なんだ!?」

    驚いているロッツにクスリと笑い、リンは指示を出す。

「それはまた今度。レイナちゃん、ロミナと一緒にリコラに乗って。ほら、ロッツも乗る!走るわよ!しっかり捕まってて!」

    絡まれる前に退散だ。
リコラが一気に加速する。リンはその隣で魔闘気を利用して加速魔法を自身にかける。

「リコラと並走出来るリン姉ちゃんも何者なんだよ……」

    呟くロッツを横目で見て、リンは小さく笑うと森の外を目指して更に加速した。


△▲△▲△


    森の中間地点に姿を現した男は、周囲を見渡して気配が消えたことを知った。

「チッ……一足遅かったか。アイツらと遊んでやろうと思ったのによ」

男は舌打ちの後、地面に唾を吐き捨てる。

「まあ、今回は良い護衛が付いたってことだねぇ。この国の子供たちは保護されてるから、止めといた方が良いよぉ?」

    つり目の少年が制止をかけるが、聞くような男では無いようだ。

「あの女が気に食わねぇんだよ。たいして強くもないくせに!」

    リンの強さを見極められない男の発言に、半ば呆れ顔の少年と他に2人が溜め息を吐いた。

「僕たちは関わりたくないから、アンタ一人でどうにかすれば?ここでパーティー抜けるわ。犯罪に巻き込まれるのはごめんだよ」

    ヒラヒラと手を振って少年は無言を貫く他のメンバーを連れて足早に去っていった。

「チッ……!どいつもこいつも!意気地の無い奴らめ。あんなの一人でどうとでもしてやる!」
男は和国オウラに向かって去っていった。


△▲△▲




    森を出て、全員普通に歩くことにして1時間。和国オウラの城門を抜けたリン達一行は、ギルドに依頼完了の報告をするためにギルドへ入る。それと同時に、いきなり見知らぬ男から紙を投げつけられた。

「果たし状だ!俺は貴様を倒してレイナ様を手に入れる!来なければ卑怯者だと言いふらして回ってやる!」

    そう言うと、男は走り去っていった。
卑怯者と言われても構わないのだが……受けてやるかと溜め息混じりに果たし状なる紙を開く。

《果たし状
リン・トウヤに告ぐ。明後日冒険者ギルドの闘技場にて、一騎討ちの試合を申し入れる!時間は正午!来なければ卑怯者の二つ名をくれてやる!》

    うーん、二つ名はいらない。仕方がないから受けるか。と気持ちを決める。

「ああ、嫌な予感当たっちゃったわ……。レイナちゃん、今の人知り合い?」

「いいえ。一切知りません。ギルドで依頼完了の報告をしたら、お父さんの所に行くのでリンちゃん付いてきてくださいね」

「うん」

リンとレイナは盛大に溜め息を吐いて依頼完了の報告に行くのだった────────





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