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しおりを挟むそのあとは何事もなく王城へと向かうことができた。屋敷でまた王城へ上がるのだから! と気合を入れた格好をさせられたことはつらかったけれど、容赦はしてくれませんでした。
数年ぶりの王城。それだけでひどく緊張する。王族が出入りする用の門から入っていくと、庭を抜けた先にユースルイベ殿下が立っていた。後ろに人を従えている姿は見慣れず、別人のように感じてしまう。馬車が止まり、フェルベルトのエスコートを受けて馬車から降りる。
すぐ近くに止まった馬車からはマリアンナ殿下が下りてきた。マリアンナ殿下にとっては家のはずなのに、その表情は硬い。
「やあ、よく来たね。
無事についたようでよかったよ」
私とマリアンナ殿下にユースルイベ殿下が話かけてくる。その声音は今までのルイさんとはどこか違う、よそ行きのものだった。
「わざわざ出迎えていただき、ありがとうございます、お兄様。
久しぶりの旅でしたが、とても快適でしたわ」
「それならよかった。
フリージア嬢は体調を崩したようだけれど、もう大丈夫なのかな?」
「お気遣いいただきありがとうございます。
ゆっくりと休ませていただけましたので、もうすっかり」
私の返答に、ユースルイベ殿下が笑顔を深める。あ、これも違う……。
「疲れているところ申し訳ないのだけれど、謁見の間に陛下がお待ちだ。
このまま向かってもいいかな?」
「もちろんです」
そんなの聞いていない。でも、さすがに今それをいうわけにはいかないから、笑顔でうなずいておく。マリアンナ殿下も少し遅れたけれど、はい、とうなずいていた。
謁見のままでの道で、人々に見られているのを感じる。この人たちがどこまで知っているのかはわからないけれど、興味の的にはなるだろう。なにせ王太子を先頭にこの国唯一の王女と私がいるのだから。
居心地の悪い道を抜けて、重厚な扉の前で一度止まる。この扉の先に、今の国王陛下がいる。どきどきと心拍数が上がっていくのがわかる。もし、この先にいる人があの人の面影を残していたら。でも王家はすでにあの人の血脈を組んでいない。なら、大丈夫かしら。
そんな私の葛藤が伝わることもなく、無情にも扉は開けられていく。光に満ちたその部屋には考えていたよりも少数の人が待っていた。
「お待たせいたしました、陛下」
「ああ、気にするな。
顔を上げてくれ、ここはそんなに硬い場ではないからな。
よく戻ったな、マリアンナ。
そして、よく来てくれた、フリージア嬢。
そなたを歓迎しよう」
昔の記憶を引き出して陛下への礼をとると、すぐに声がかかる。顔を上げると、そこにはユースルイベ殿下の面影を感じさせる男性が座っていた。少しだけほっとする。あの人とはあまり似ていない。当たり前と言えば当たり前だけれど。
「長らく王城を開けてしまい、申し訳ございませんでした。
お変わりないようで安心したしました、陛下」
「ああ、大きくなったな。
長旅だったろうに、顔色もよさそうで安心したよ」
「そうですね、ここを離れた時よりも丈夫になれたように感じます。
あの地ではよき出会いにも恵まれ、かけがえのない時間を過ごすことができました」
「それは何よりだ」
マリアンナ殿下が私の方を見る。きっと次は私が話すように、ということなのだろう。
「王城へお招きいただき、ありがとうございます。
こうしてお目にかかれて光栄でございます。
フリージア・シュベルティーと申します」
「ああ、話は聞いているよ。
……後程、ゆっくりと話すことができると嬉しい。
改めて歓迎しよう、『神の目』の少女よ」
「はい、お話できると嬉しいです」
「そなたはユースルイベの婚約者となった。
私にとっては娘も同様だ。
そのように接することができれば嬉しいと思う」
「もったいないお言葉です」
そういって一礼する。これで終わりだろう。ただ、顔を上げて陛下の顔を見ると、思っていたものと違って、なにかを話したいような顔をしていた。結局陛下は何かを言うこともなく、この場にいるほかの人たちの自己紹介へと移っていった。
こうして無事に謁見を終えて、謁見の間を出る。そのまま今後私が使うことになる部屋に案内してもらうことになった。前世ぶりに入る、王族のプライベートエリア。また前回と同じ部屋に案内されるのかな。あの部屋はベッドからでも庭がよく見える。せめてもの慰めに、と用意された部屋で、今までもよくあの部屋で過ごしていた。
「……あれ?」
こっちの道は、違う。あの部屋に行く道じゃない。
「君の部屋は、僕の隣に用意したんだ。
何かあったらすぐに呼んでくれて構わないから」
「ユースルイベ殿下の、隣、ですか?」
え、私まだただの婚約者だよね……? 婚約者の時点で王城に住むこと自体おかしなことだけれど、実家との関係があれなので、まあいいとする。でも、ユースルイベ殿下の隣?
「うん。
大丈夫だとは思うけれど、厄介な人もいるからね」
厄介な人……? と少し首をかしげると、すぐに答えが返ってきた。王妃、と小さな声でユースルイベ殿下が言う。ああ、その人のことを忘れていた。あまり詳しくは知らないけれど、ひとまず、ユースルイベ殿下が立太子したことが不服であろうことは知っている。なるほど。
「いろいろと落ち着いたら、パルシルクにも会ってもらいたいな。
君のおかげで助かった命だから」
「それは大げさすぎます。
私の言葉がなくても、優秀な騎士たちが殿下をお守りしたはずですから」
「そうだね。
でも、君の言葉によって害される可能性が大きく下がったのは確かだから。
改めて、ありがとう」
「……いいえ」
ここで、ルイさんみたいにほほ笑むのはずるい。あなたはユースルイベ殿下であって、ルイさんではない。そう納得したかった。ルイさんはこの人の中の一部分ではあるけれど、もう表に出ることはないって。
もやもやとした気持ちを抱えながら歩いていると、いつの間にか部屋に着いたようだった。
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