あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活

エピローグ

260

「おーい、杏奈！
　学校、遅刻するぞ！」
　
　玄関の方から怜斗の声が聞こえてくる。ああ、もうでないと本当に遅刻しちゃう。慌ててランドセルを持つと玄関まで走る。

「お母さん、行ってきます！」

「はい、行ってらっしゃい。
　車には気を付けるのよ」

「うん」

　いつもの道を怜斗と走る。ああ、寝坊するなんてついていない。

　必死に走ってようやく学校へ着く。何とか遅刻はせずに済んだようだ。

「セーフ！　
　ったく、なんで今日はあんなに遅かったんだ？」

「いや、ちょっと夢を見ていまして……」

「夢？」

「そう！　
　異世界の夢でね、魔法使ったり、破壊神？倒したりしたの！」

「は……？」

　見ていた夢を語っていると、怜斗が固まる。確かにあり得ない話だが、夢なのだから何でもありじゃないか。

「おれも、その夢見たことがある……。
　夢の中でおれはカルベアって呼ばれていたんだ。
　一緒にいたのは、たしか」

「ルディア」

「そう！
　ってなんで知っているんだ？」

「夢の中で私はそう呼ばれていたの！
　カルベアって名前も知ってる。
　あと、私は愛音ともアーネミリアとも呼ばれていたの」

「え……？
　いやいや、さすがにないだろ」

「う、うん、ないよね？」

　もしかして本当にあったことかも？
　ついそんなことを考えてしまうが、この世界に魔法なんて存在しない。だからどう考えてもあり得ないことなのだ。
　
「はい、席ついて！
　チャイムなるわよ～」

　その時、先生が教室へと入ってきたため、その話は終わってしまった。
　きっとただの夢。そうは思っても、本当に自分の前世なら面白いのに、ついそんなことを考えてしまっていた。

　だって、夢の中のその少女はとても可愛く、勇敢なのだ。
　人のためになることをまっすぐと考えている姿がとてもうらやましい。私も、そんな風になれるかな？　
　
　こっそり、夢の中のその少女のことを目標にして、苦手なことでも頑張ろうと決心したことはまだ怜斗すらも気づていなかった。