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六章 フルトの誕生祭

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「ふう、何とか抜け出すことができたね。
 大丈夫だったかい?」

「ありがとうございます。
 あの、お父様はどちらに?」

「こっちだよ」

 兄様は未だに私の手を握ったまま。
 まあ、もう突っ込む気はないけどね!

「ああ、来たか。
 大勢に囲まれていたようだが、大丈夫か?」

「すいません、旦那様。
 アーネの人気が予想以上でして……」

「ははっ、まあ気になるところなのだろうな」
 
 なんでだろう?
 そんなに興味を持たれる理由ってあったかな?

「わからないって顔しているね。
 うん、アーネはそのままでいいと思うよ」

 二コリと笑った兄様が頭をなでてくれる。
 なんだかその笑顔が怖いんだけどな。

「アーネ、そろそろ戻っていなさい。
 今日はもうつけれただろう?」

「はい、わかりました」

「じゃあね、アーネ。
 ゆっくり休んでね」

「はい!
 ……あの、本当に、お誕生日おめでとうございます兄様!」

 多分今日会えるのは、これが最後になってしまうだろうから今言ってしまわなければ!
 あれ、兄様が顔を手で覆っている?

「フルト、ここでアーネに抱き着いてはいけないよ?
 それに早く回復しなさい」

「……はい、わかっています」

 はぁと一つ息をつくと、兄様はようやく顔を上げてくださった。
 
「うん、ありがとう!
 最高の誕生日だよ」

 兄様の笑顔も見れたし、よし帰ろう。

 言われたとおりパーティー会場をあとにする尾、先ほどまでのにぎやかさが嘘のようにしんとなる。
 ここの防音って思ったよりも完璧だったのね。

「お疲れさまでした、お嬢様」

 歩いていると、どこからかベンネが現れた。
 今日はもう休んでしまいたいな。
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