5 / 9
5
しおりを挟む「そうそう正解。
そんな感じで解くと、こっちもいけるよ」
「ぁ、はいっ」
部活動の声が聞こえる、誰もいない夏休みの教室。
机を前後でくっつけて、あの日から勉強会が始まっていた。
「うん、できたじゃんさっちゃん。その調子」
「じゃあ次はこっちね」と誘導されるがまま、僕はスルスルと問題を解いてしまってる。
先輩教えるの上手すぎ。僕勉強苦手なのになぁ。
つい数日前に宿題を終わらせた先輩を、こうして教育係として使ってしまっている。
これぞ先輩の無駄使い。バチが当たりそうほんとに。
あーぁーこんなことなら計画立ててやっとけばよかった。そしたらもっといろんな場所にいけてたのに。
申し訳ないのと、ありがたいのと。
ってか、こんな僕のこと見たら絶対あいつら驚くだろうな。
ふはは、それ見るのも楽しそうだなぁ。
「うん。今日はこのへんにする? もう夕方だ」
「わ、ほんとうだ」
いつも暗くなる前に切り上げて、教材を片付ける。
「今日もありがとうございました!
先輩のお陰でなんとか終わりそう!!」
「よかった。なんか俺たちの夏休みの方向性ズレちゃったけど、まぁいいことだね」
「あ、そうだった……」
「え、嘘でしょ忘れてたの?
夏休みもう後ちょっとで終わるよ?」
「あはは~」
そうだった、先輩のこと笑わせなきゃいけないんだった。
一緒に過ごすのが楽しすぎて次はどこ行こうとかそればっかりで、すっかり忘れてしまっていた。
「天然って極めたらここまでくるものなの?」
「ん?」
「んーんなんでも。まぁさっちゃんがいいならいいけど」
「んーそうですね……なんか先輩と過ごすのが楽しすぎちゃって、どうでもよくなってました」
「わぁお、さっちゃん素直。そんなんでいいの? もっとこわーい罰ゲームが待ってるんでしょ?」
「あははっ、まぁどうにかなりますって!」
「──葵」
「っ!」
校門から出た瞬間、突然かけられた声にビクリと先輩の体が震えた。
「クスッ、お友だちと過ごしてたの? 随分楽しそうじゃない」
「なんで……ここ、に」
びっくりするくらい綺麗な女の人。心なしか先輩と少し似ているような気が……
僕の顔を覗き込むように見られて、先輩にバッと背中へ隠される。
「こいつは関係ないだろ」
「あら、友達思いなのね葵。夏休み久しぶりに帰ってきた私よりそっちのほうが大事なの?
──死神のクセに」
「っ、」
(しに…がみ……?)
チラリと背中から女性を見ると、嫌に歪んだ顔をして笑っていた。
「ほんと、いい加減私たちの前から消えてくれないかしら。同じ家にいるだけで腹がたつわ」
「っ!? ちょっとそんな言い方──むぐっ!」
反論しようとした口を、先輩の手で塞がれる。
「いいから、もうどっか行って。
その話は俺が学校卒業したら嫌というほどあんたじゃなく叔父さんから聞くから」
「っ、あんたは、いつもそうやって澄まし顔で終わらそうとして……!」
「そういうのも全部。俺が一人のときに言ってくれない?
ちょっと我慢するくらいもできないの?」
「──っ!」
ギリッ!と先輩を睨みつけたまま、女の人は苛ついたように靴を鳴らしながら去っていった。
10
あなたにおすすめの小説
二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)
MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。
かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。
44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。
小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。
一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。
ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
嫌われたと思って離れたのに
ラム猫
恋愛
私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。
距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。
妻が通う邸の中に
月山 歩
恋愛
最近妻の様子がおかしい。昼間一人で出掛けているようだ。二人に子供はできなかったけれども、妻と愛し合っていると思っている。僕は妻を誰にも奪われたくない。だから僕は、妻の向かう先を調べることににした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる