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陽川花火編
第一話 始まり①
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僕はずっと、夢を見ない人間だった。眠りに落ちる時に、足を踏み外したような感覚になって、びくっとすることがあるくらいで、夢らしいものは何も見た記憶が無い。正確には覚えていないだけらしいけれど。
でも、あれから、時々夢を見るようになった。気付くと、あの歓楽街に立っている。僕は行かなければ、という想いのままにいつものバーに向かって歩き出す。けれど、歩いても歩いても辿り着かない。やがて、歩き疲れて膝を折ると、声が聞こえる。
――お前みてえな馬鹿見てると、虫唾が走るんだよ。
はっとして顔を上げる。そこには、誰の姿も無く、ただ目の前に踏み拉かれた煙草が白い煙を立てている。
目が覚めると、いつも身体が怠かった。悲しいとか辛いとか、そういう感情は最早よく分からない。ただ起き上がるのに少し時間が掛かる。
歯を磨き、顔を洗って、購入しておいたパンを食べ、紙パックの紅茶をコップに淹れて飲む。そして制服に着替えて、学校指定の鞄を持って家を出る。
歩いて十分も掛からない場所にある学校に向かい、教室の窓際、後ろから二番目の席に座る。
席に着く前に周辺の不良に絡まれることもあるが、そんなことは取るに足りないことだ。それが、平日の朝のルーティン――だった。
「よお、風岡」
肩を叩かれて顔を上げる。そこには、昨日「陽川花火」と名乗った男が立っていた。僕の顔を見て「ははっ、すげえ嫌そう」と尖った犬歯を覗かせて笑い、僕の後ろの席に座った。嫌そうな顔は、したつもりがないが。
午前中は授業と授業の間の休憩時間に話し掛けられることもなく、後ろの席にプリントを回す時くらいしか、陽川花火とは顔を合せなかった。
ただ、朝彼に声を掛けられたせいなのか、最後尾が彼だからなのか、今までプリントがまともに回ってきたことは無かったが、今日は滞りなく僕のところに回ってきた。そして、周辺の不良に何か絡まれるようなことも無かった。
そして昼休みになり、図書室に向かおうと席を立った時だった。
「お前買い弁?」
後ろから聞こえてきた声に、特に返さず問題集を手に教室を出る。
「なあ、飯食わねぇの?」
俺の横について顔を覗き込んでくる。が、目を合わせないようにして早足で渡り廊下を進み、図書室のある棟に向かった。階段を駆け上がるが、それでも振り切れない。もうここまで来たら図書室に逃げ込むしかない。
と、思った瞬間、腕を掴まれて図書室のある階を通り越して更に上に続く階段を上がり始めた。
「ちょっと、何」
「この上、屋上の鍵壊れててさ。誰も来ねえから、よくここで飯食ってんだよ」
陽川花火の力は強く、強引に僕を引っ張って階段を上った。というか、自分の意思を強く持っていない僕は、拒絶する気も無いというか、ただ流されるままに従う形になってしまった。
でも、あれから、時々夢を見るようになった。気付くと、あの歓楽街に立っている。僕は行かなければ、という想いのままにいつものバーに向かって歩き出す。けれど、歩いても歩いても辿り着かない。やがて、歩き疲れて膝を折ると、声が聞こえる。
――お前みてえな馬鹿見てると、虫唾が走るんだよ。
はっとして顔を上げる。そこには、誰の姿も無く、ただ目の前に踏み拉かれた煙草が白い煙を立てている。
目が覚めると、いつも身体が怠かった。悲しいとか辛いとか、そういう感情は最早よく分からない。ただ起き上がるのに少し時間が掛かる。
歯を磨き、顔を洗って、購入しておいたパンを食べ、紙パックの紅茶をコップに淹れて飲む。そして制服に着替えて、学校指定の鞄を持って家を出る。
歩いて十分も掛からない場所にある学校に向かい、教室の窓際、後ろから二番目の席に座る。
席に着く前に周辺の不良に絡まれることもあるが、そんなことは取るに足りないことだ。それが、平日の朝のルーティン――だった。
「よお、風岡」
肩を叩かれて顔を上げる。そこには、昨日「陽川花火」と名乗った男が立っていた。僕の顔を見て「ははっ、すげえ嫌そう」と尖った犬歯を覗かせて笑い、僕の後ろの席に座った。嫌そうな顔は、したつもりがないが。
午前中は授業と授業の間の休憩時間に話し掛けられることもなく、後ろの席にプリントを回す時くらいしか、陽川花火とは顔を合せなかった。
ただ、朝彼に声を掛けられたせいなのか、最後尾が彼だからなのか、今までプリントがまともに回ってきたことは無かったが、今日は滞りなく僕のところに回ってきた。そして、周辺の不良に何か絡まれるようなことも無かった。
そして昼休みになり、図書室に向かおうと席を立った時だった。
「お前買い弁?」
後ろから聞こえてきた声に、特に返さず問題集を手に教室を出る。
「なあ、飯食わねぇの?」
俺の横について顔を覗き込んでくる。が、目を合わせないようにして早足で渡り廊下を進み、図書室のある棟に向かった。階段を駆け上がるが、それでも振り切れない。もうここまで来たら図書室に逃げ込むしかない。
と、思った瞬間、腕を掴まれて図書室のある階を通り越して更に上に続く階段を上がり始めた。
「ちょっと、何」
「この上、屋上の鍵壊れててさ。誰も来ねえから、よくここで飯食ってんだよ」
陽川花火の力は強く、強引に僕を引っ張って階段を上った。というか、自分の意思を強く持っていない僕は、拒絶する気も無いというか、ただ流されるままに従う形になってしまった。
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