アネモネの花

藤間留彦

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陽川花火編

第一話 始まり③

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 自席に着くと、よく絡んでくる不良が近づいてくるのが分かる。

「お前なんで陽川と急に仲良くなってんの?」

 机を蹴飛ばされ、前の席の椅子に当たって大きな音がする。

「あいつもホモなんじゃん?」
「ははっ! マジかよ! キモっ!」
「つか今ヤってきたんじゃね? ザーメンくせえ!」

 特に今まで自分に向けられる暴力も暴言も、何も思うところが無かった。暴力に関しては痛みはあるものの、ゴムの膜のようなものが自分の周りに纏わり付いているような感覚で、自分に起こっていることなのかどうかさえ、鈍感になっていた。

「ホモダチできて良かったじゃん、風岡君!」

 ――だから、昨日忠告したのに。

 心底嫌になった。こうなることがわかっていたから、誰とも関わりたくなかった。
 陽川花火は、何を目的として僕に近づいてくるのか。嫌がらせをしてくるこれらの方が余程分かりやすくていい。

 残りどれくらい続くか分からない人生の道の途中に転がっている石の一つでしかないから。一年後には石があったことさえ忘れているだろう。
 でも、自分のせいで誰かに迷惑を掛けるのは嫌だった。勝手に向こうから近づいてきたとはいえ、結局一緒に行動してしまったのは事実。僕が無視して、拒絶していれば良かったのだ。そうしなかったのは、自分の責任だ。

 と、不良達が波が引くように僕の周りから離れ、自席に戻っていく。見ると教室の出入り口に陽川花火が立っていた。僕は数学の問題集を開き、視線を落とす。

「さっきは悪かったな」

 彼はそう言って僕の机の脇を通り過ぎ、僕の後ろの席に座った。
 言わなければ。「もう関わるな」と。もう、何も面倒を起こしたくはない。帰りにもしついてくることがあれば言おうと決めた。

 が、午後の授業の後、僕は進路指導担当の先生に呼び出された。
 職員室に行くと先生の机の側にパイプ椅子が置かれていた。深刻そうな顔で、僕の進路希望表を持って待っていた。

 内容は僕の成績の事だった。正しくは、「この学校のレベルではお前の希望する大学への受験対策は出来ないが大丈夫か」ということだった。この学校の多くの生徒は就職希望で、残りは専門学校か偏差値の高くない大学・短大に進学するという。

 僕は自主学習で充分賄えていることと、受験までにある残りの全国模試は個人で申し込むので学校側に対応を求めることは無い、ということを伝えた。先生は肩の荷が下りたようで、何かを紙に書いて「良かった良かった」と笑った。

 職員室を出て、まだ時間があったので図書室に向かった。その間に先生が生徒指導室ではなく職員室を選んだ理由を考える。僕と密室に入りたくなかったのだ、と思う。
 前の学校での噂は塾が同じだった生徒の口から学校中に広まっており、勿論先生達も知っている。先生達は更に母から僕の行動に注意するように伝えられているから、僕と極力接触しないように、しかし遠くから観察しているような視線を送られているのが分かった。

 ただ、学校司書の女性は特に僕に気を留めていないようで、唯一僕のことを知らない人がいる図書室は集中できる場所だった。

 というのも、そもそも図書室を利用する生徒はほとんど居らず、放課後ともなると今まで毎日のように通っているが、一人も見かけたことが無かった。
 静かで集中出来る場所なので、いつも図書室が閉館になるまで勉強してから帰る。家に帰ってからも、晩御飯と風呂以外は寝るまで勉強をしているのだけれど。
 勉強はただの暇潰しで、好きでも嫌いでもない。
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