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陽川花火編
第二話 変化②
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学校の前を通り過ぎる時、映画を観に行かないかと花火が誘ってくれたことを思い出す。僕が問題児でなければ、彼の誘いを受けるのだろうが、生憎僕の生活に自由は許されない。
図書館近くの歩道を歩いていた時だった。クラクションが近くで鳴って、そちらを見ると、反対車線に軽トラックが停まっていて、窓から男が顔を出している。
「おーい! 一温!」
身を乗り出して手を大きく振っている。花火だ。
ちょうど目の前の横断歩道の信号が青になっていたので、反対側に渡ると、花火が車から降りてくる。つなぎの作業着姿だ。
「どうしたの、その格好……」
「いや、朝から親父の仕事手伝ってきたとこでさ。一温が歩いてんのが見えたから」
トラックのドアには「陽川造園株式会社」と書かれている。運転席には白髪が目立つ初老の男性がいて、目が合うと手を上げて挨拶した。
「お前さんが一温か。花火が世話んなってるな」
「は? 別に世話されてねーわ」
そう言うと、窓から半身を乗り出して花火の頭を手で乱暴に撫で回して押さえつける。
「こんな馬鹿の友達ってだけで苦労するだろうが、これでも可愛い一人息子だ。仲良くしてやってくれ」
「げっ、気持ち悪いこと言うなよっ!」
顔を少し赤くして花火が手を払い除けた。ああ、これがこの年代の子と父親のやり取りなんだなと思う。僕が花火のお父さんにお辞儀すると、「いい子じゃねえか」と笑った。
「今から図書館行くんだろ?」
「そう」
「服着替えたら俺も図書館行くからさ。映画観に行こうぜ」
行きたい、と思った。けれど、僕に許されている外出は、食べ物を購入することと勉強をすることだけだ。それ以外のことにお金が使えないように、また購入したものを管理できるように、生活費は交通系ICカードのオートチャージのみになっている。
「お金が、無い……」
「そんなの親父がくれるって。な!」
花火のお父さんは苦笑しながら、「ああ」と頷く。お金の問題、だけではない。
「じゃあ後でな!」
断る理由を考えているうちに、花火が軽トラックに乗り込んでしまい、ゆっくりと発進していった。
――どうしよう。……いや、事情を話して謝るしかない。
ため息を吐いて、重い足取りで図書館に向かった。
図書館は地域住民のための小さな施設だ。それでも学習室では、受験生らしい人やレポートのためか大学生がちらほらと座っていた。
窓際の一人ずつブースに区切られている席に座る。特に気にせずに持ってきたが、今回入っていたのは志望大学の過去問集だった。時間を測って一教科分解く。花火のことが気に掛かり集中出来なかったが、四十分くらいで解き終わった。
少し伸びをして視線を上げると、きょろきょろと辺りを見回している花火を見つけ、思わず手を上げて立ち上がる。
「キリのいいとこまでいったら教えろよ」
花火は近くの椅子を僕の隣に持ってきて座った。白のパーカーに黒のスカジャン、だぼついた幅広のジーンズ。あまり身近では見慣れないファッションだ。本当は行きたいけれど、断らなければ。
「……勉強、しなきゃいけないから……やっぱり行けない」
「別に一日くらい休んでも成績落ちねえって」
「母さんが、見てるから……学校と図書館とコンビニ以外に行けないんだ」
辺りをきょろきょろする花火は首を傾げて、「誰も居ねえけど」と言う。僕はトートバッグから携帯電話を取り出した。
「GPS機能を使って、時々見られてるんだ。記録を辿られたりも、してる……」
「へえ。高校生の一人暮らしも大変だな」
そう言って、僕の携帯電話を取り上げると、何か思い付いたように立ち上がる。
図書館近くの歩道を歩いていた時だった。クラクションが近くで鳴って、そちらを見ると、反対車線に軽トラックが停まっていて、窓から男が顔を出している。
「おーい! 一温!」
身を乗り出して手を大きく振っている。花火だ。
ちょうど目の前の横断歩道の信号が青になっていたので、反対側に渡ると、花火が車から降りてくる。つなぎの作業着姿だ。
「どうしたの、その格好……」
「いや、朝から親父の仕事手伝ってきたとこでさ。一温が歩いてんのが見えたから」
トラックのドアには「陽川造園株式会社」と書かれている。運転席には白髪が目立つ初老の男性がいて、目が合うと手を上げて挨拶した。
「お前さんが一温か。花火が世話んなってるな」
「は? 別に世話されてねーわ」
そう言うと、窓から半身を乗り出して花火の頭を手で乱暴に撫で回して押さえつける。
「こんな馬鹿の友達ってだけで苦労するだろうが、これでも可愛い一人息子だ。仲良くしてやってくれ」
「げっ、気持ち悪いこと言うなよっ!」
顔を少し赤くして花火が手を払い除けた。ああ、これがこの年代の子と父親のやり取りなんだなと思う。僕が花火のお父さんにお辞儀すると、「いい子じゃねえか」と笑った。
「今から図書館行くんだろ?」
「そう」
「服着替えたら俺も図書館行くからさ。映画観に行こうぜ」
行きたい、と思った。けれど、僕に許されている外出は、食べ物を購入することと勉強をすることだけだ。それ以外のことにお金が使えないように、また購入したものを管理できるように、生活費は交通系ICカードのオートチャージのみになっている。
「お金が、無い……」
「そんなの親父がくれるって。な!」
花火のお父さんは苦笑しながら、「ああ」と頷く。お金の問題、だけではない。
「じゃあ後でな!」
断る理由を考えているうちに、花火が軽トラックに乗り込んでしまい、ゆっくりと発進していった。
――どうしよう。……いや、事情を話して謝るしかない。
ため息を吐いて、重い足取りで図書館に向かった。
図書館は地域住民のための小さな施設だ。それでも学習室では、受験生らしい人やレポートのためか大学生がちらほらと座っていた。
窓際の一人ずつブースに区切られている席に座る。特に気にせずに持ってきたが、今回入っていたのは志望大学の過去問集だった。時間を測って一教科分解く。花火のことが気に掛かり集中出来なかったが、四十分くらいで解き終わった。
少し伸びをして視線を上げると、きょろきょろと辺りを見回している花火を見つけ、思わず手を上げて立ち上がる。
「キリのいいとこまでいったら教えろよ」
花火は近くの椅子を僕の隣に持ってきて座った。白のパーカーに黒のスカジャン、だぼついた幅広のジーンズ。あまり身近では見慣れないファッションだ。本当は行きたいけれど、断らなければ。
「……勉強、しなきゃいけないから……やっぱり行けない」
「別に一日くらい休んでも成績落ちねえって」
「母さんが、見てるから……学校と図書館とコンビニ以外に行けないんだ」
辺りをきょろきょろする花火は首を傾げて、「誰も居ねえけど」と言う。僕はトートバッグから携帯電話を取り出した。
「GPS機能を使って、時々見られてるんだ。記録を辿られたりも、してる……」
「へえ。高校生の一人暮らしも大変だな」
そう言って、僕の携帯電話を取り上げると、何か思い付いたように立ち上がる。
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