アネモネの花

藤間留彦

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陽川花火編

第三話 再会②

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「いやいや、不倫は不味い――」
「離婚したんです」

 想いも寄らない言葉だった。用意していた台詞も何もかも吹き飛んで、頭が真っ白になる。

「今月ようやく彼女から離婚届が届いて、本日帰国して役所に届け出をしました」

 自ら墓穴を掘ってしまった。拒絶するための壁が、こうも易々と飛び越えられてしまうとは思っていなかった。

「……ああ、そういうこと」

 しかし状況を把握してくると、先生が突然俺を訪ねてきた理由が理解できて、一瞬でも思い違いをしそうになったことを馬鹿らしく思う。

「独り寝の寂しさを紛らわしにあの店にきたってことですか。昔の相手が居たからちょうどいいやって? 俺も随分軽く見られてたんですね。まあその通りですけど」

 俺は先生の手を掴んですぐ側にあったホテルに引っ張っていく。抵抗しないところを見ると、俺の予想が合っているかどうか分からないが、俺と身体の関係を持つことは望んでいたのだろう。

「代金は、どこで?」

 タッチパネルで部屋を選んでいる横で、入り口に誰も居ない無人のホテルに驚いている様子だった。そういえば、この人とはラブホテルに来たことはないんだったか。

「部屋で払うんですよ。鍵は開いていて、部屋に入ったらロックされます。機械に金を投入しないと出られない仕組みです」
「……そうですか。不思議なホテルですね」

 もしかしなくても、先生はラブホ未経験者なのか。金持ちだから、普通のホテルに行っていたのだろう。
 無言のまま選んだ部屋の前に着く。平静を装ってはいるものの、緊張しないと言ったら嘘になる。身体を重ねてしまったら、その拍子に想いが溢れてしまったら、とそればかりが頭を過る。

「どうぞ」

 紳士的にドアを開けて先に俺を中に誘導する。中に入るとちょうどよく間接照明だけが点いていた。
 靴を脱いで廊下を歩く足が止まり、後ろを振り返る。初めて身体を重ねたあの日のことを思い出してしまったからかもしれない。先生は冷静に奥の部屋に入るように促した。

「上着掛けますよ」

 先生に言われるままジャケットを脱いで渡す。ここは先に先生にシャワーを浴びてもらって、その間に気を落ち着けておこうなどと考えていると、先生が出入り口とシャワールームがある廊下を塞ぐように立っていた。手には俺のジャケットをハンガーに引っ掛けた状態で持ったまま。

「これで、君に逃げられずに話ができます」

 しまった、と思った。ここは金を支払わないと出られないと自分で話したばかりだ。
 ジャケットのポケットに財布とスマホが入っている。俺が上着のポケットに物を入れることを覚えていたのだろう。

 溜息を吐いてベッドに腰を下ろす。この状況は最も予想していない事態で、平静を装うことなど最早できやしない。

「……こうまでして、話したいことって何です? 謝罪とか、あの時の言い訳とか? それとも、離婚に至った身の上話ですか」

 俺の明らかに嫌そうな態度と物言いに、先生は今日初めて微笑んだ。俺は直視してしまい、動揺して両膝の間に組んだ手に視線を落とす。

「その前に、一つ確かめなければならないことがあります」

 俺がもう逃げ出すことはないと思ったのだろう。ジャケットを壁のフックに引っ掛けて、ベッドサイドにあるソファに腰掛けた。

「脩君が、当時私の妹から婚約者の存在を教えられたと言っていましたが……それはどのような女性でしたか」
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