47 / 75
陽川花火編
第三話 再会②
しおりを挟む
「いやいや、不倫は不味い――」
「離婚したんです」
想いも寄らない言葉だった。用意していた台詞も何もかも吹き飛んで、頭が真っ白になる。
「今月ようやく彼女から離婚届が届いて、本日帰国して役所に届け出をしました」
自ら墓穴を掘ってしまった。拒絶するための壁が、こうも易々と飛び越えられてしまうとは思っていなかった。
「……ああ、そういうこと」
しかし状況を把握してくると、先生が突然俺を訪ねてきた理由が理解できて、一瞬でも思い違いをしそうになったことを馬鹿らしく思う。
「独り寝の寂しさを紛らわしにあの店にきたってことですか。昔の相手が居たからちょうどいいやって? 俺も随分軽く見られてたんですね。まあその通りですけど」
俺は先生の手を掴んですぐ側にあったホテルに引っ張っていく。抵抗しないところを見ると、俺の予想が合っているかどうか分からないが、俺と身体の関係を持つことは望んでいたのだろう。
「代金は、どこで?」
タッチパネルで部屋を選んでいる横で、入り口に誰も居ない無人のホテルに驚いている様子だった。そういえば、この人とはラブホテルに来たことはないんだったか。
「部屋で払うんですよ。鍵は開いていて、部屋に入ったらロックされます。機械に金を投入しないと出られない仕組みです」
「……そうですか。不思議なホテルですね」
もしかしなくても、先生はラブホ未経験者なのか。金持ちだから、普通のホテルに行っていたのだろう。
無言のまま選んだ部屋の前に着く。平静を装ってはいるものの、緊張しないと言ったら嘘になる。身体を重ねてしまったら、その拍子に想いが溢れてしまったら、とそればかりが頭を過る。
「どうぞ」
紳士的にドアを開けて先に俺を中に誘導する。中に入るとちょうどよく間接照明だけが点いていた。
靴を脱いで廊下を歩く足が止まり、後ろを振り返る。初めて身体を重ねたあの日のことを思い出してしまったからかもしれない。先生は冷静に奥の部屋に入るように促した。
「上着掛けますよ」
先生に言われるままジャケットを脱いで渡す。ここは先に先生にシャワーを浴びてもらって、その間に気を落ち着けておこうなどと考えていると、先生が出入り口とシャワールームがある廊下を塞ぐように立っていた。手には俺のジャケットをハンガーに引っ掛けた状態で持ったまま。
「これで、君に逃げられずに話ができます」
しまった、と思った。ここは金を支払わないと出られないと自分で話したばかりだ。
ジャケットのポケットに財布とスマホが入っている。俺が上着のポケットに物を入れることを覚えていたのだろう。
溜息を吐いてベッドに腰を下ろす。この状況は最も予想していない事態で、平静を装うことなど最早できやしない。
「……こうまでして、話したいことって何です? 謝罪とか、あの時の言い訳とか? それとも、離婚に至った身の上話ですか」
俺の明らかに嫌そうな態度と物言いに、先生は今日初めて微笑んだ。俺は直視してしまい、動揺して両膝の間に組んだ手に視線を落とす。
「その前に、一つ確かめなければならないことがあります」
俺がもう逃げ出すことはないと思ったのだろう。ジャケットを壁のフックに引っ掛けて、ベッドサイドにあるソファに腰掛けた。
「脩君が、当時私の妹から婚約者の存在を教えられたと言っていましたが……それはどのような女性でしたか」
「離婚したんです」
想いも寄らない言葉だった。用意していた台詞も何もかも吹き飛んで、頭が真っ白になる。
「今月ようやく彼女から離婚届が届いて、本日帰国して役所に届け出をしました」
自ら墓穴を掘ってしまった。拒絶するための壁が、こうも易々と飛び越えられてしまうとは思っていなかった。
「……ああ、そういうこと」
しかし状況を把握してくると、先生が突然俺を訪ねてきた理由が理解できて、一瞬でも思い違いをしそうになったことを馬鹿らしく思う。
「独り寝の寂しさを紛らわしにあの店にきたってことですか。昔の相手が居たからちょうどいいやって? 俺も随分軽く見られてたんですね。まあその通りですけど」
俺は先生の手を掴んですぐ側にあったホテルに引っ張っていく。抵抗しないところを見ると、俺の予想が合っているかどうか分からないが、俺と身体の関係を持つことは望んでいたのだろう。
「代金は、どこで?」
タッチパネルで部屋を選んでいる横で、入り口に誰も居ない無人のホテルに驚いている様子だった。そういえば、この人とはラブホテルに来たことはないんだったか。
「部屋で払うんですよ。鍵は開いていて、部屋に入ったらロックされます。機械に金を投入しないと出られない仕組みです」
「……そうですか。不思議なホテルですね」
もしかしなくても、先生はラブホ未経験者なのか。金持ちだから、普通のホテルに行っていたのだろう。
無言のまま選んだ部屋の前に着く。平静を装ってはいるものの、緊張しないと言ったら嘘になる。身体を重ねてしまったら、その拍子に想いが溢れてしまったら、とそればかりが頭を過る。
「どうぞ」
紳士的にドアを開けて先に俺を中に誘導する。中に入るとちょうどよく間接照明だけが点いていた。
靴を脱いで廊下を歩く足が止まり、後ろを振り返る。初めて身体を重ねたあの日のことを思い出してしまったからかもしれない。先生は冷静に奥の部屋に入るように促した。
「上着掛けますよ」
先生に言われるままジャケットを脱いで渡す。ここは先に先生にシャワーを浴びてもらって、その間に気を落ち着けておこうなどと考えていると、先生が出入り口とシャワールームがある廊下を塞ぐように立っていた。手には俺のジャケットをハンガーに引っ掛けた状態で持ったまま。
「これで、君に逃げられずに話ができます」
しまった、と思った。ここは金を支払わないと出られないと自分で話したばかりだ。
ジャケットのポケットに財布とスマホが入っている。俺が上着のポケットに物を入れることを覚えていたのだろう。
溜息を吐いてベッドに腰を下ろす。この状況は最も予想していない事態で、平静を装うことなど最早できやしない。
「……こうまでして、話したいことって何です? 謝罪とか、あの時の言い訳とか? それとも、離婚に至った身の上話ですか」
俺の明らかに嫌そうな態度と物言いに、先生は今日初めて微笑んだ。俺は直視してしまい、動揺して両膝の間に組んだ手に視線を落とす。
「その前に、一つ確かめなければならないことがあります」
俺がもう逃げ出すことはないと思ったのだろう。ジャケットを壁のフックに引っ掛けて、ベッドサイドにあるソファに腰掛けた。
「脩君が、当時私の妹から婚約者の存在を教えられたと言っていましたが……それはどのような女性でしたか」
0
あなたにおすすめの小説
学校一のイケメンとひとつ屋根の下
おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった!
学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……?
キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子
立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。
全年齢
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件
ひきこ
BL
名ばかり管理職で疲労困憊の山口は、偶然見つけたマッサージ店で、長年諦めていたどうやっても改善しない体調不良が改善した。
せっかくなので後輩を連れて行ったらどうやら様子がおかしくて、もう行くなって言ってくる。
クールだったはずがいつのまにか世話焼いてしまう年下敬語後輩Dom ×
(自分が世話を焼いてるつもりの)脳筋系天然先輩Sub がわちゃわちゃする話。
『加減を知らない初心者Domがグイグイ懐いてくる』と同じ世界で地続きのお話です。
(全く別の話なのでどちらも単体で読んでいただけます)
https://www.alphapolis.co.jp/novel/21582922/922916390
サブタイトルに◆がついているものは後輩視点です。
同人誌版と同じ表紙に差し替えました。
表紙イラスト:浴槽つぼカルビ様(X@shabuuma11 )ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる