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陽川花火編
第六話 愛すること⑤
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遠くに聞こえる電車の音に掻き消されそうな小さな声で、先生は「ありがとう」と言った。表情は分からなくても、きっと笑顔だろう。
「……じゃあ、先に行くな」
「はい。お元気で」
先生は片手を挙げて挨拶してから、踵を返し、ぽつぽつと電灯の灯る夜道に消えていった。
「……全部、伝えられたか?」
「うん。ありがとう、花火」
花火の顔を見詰める。と、花火が驚いたように目を見開いている。僕の顔に何かついているのだろうか。
「今……笑った」
「え……?」
「笑ったよな? なあ!」
花火は興奮して僕の両肩を掴み、激しく揺さ振る。
「お前さぁ、今のタイミングは卑怯だぞ! マジで!」
何のことか分からないまま揺すられ、すぐに手を離される。笑う、ということを長らくしていなかったから、きっと変な顔になっていたのだろう。
「……まあいいや。帰ろうぜ」
「うん」
薄暗い道を二人並んで歩く。駅とは違う方向に歩いていることに気付いた。
「どこに行くの?」
「俺ん家。親父には、今日は一人にしときたくねえから家に泊めるって言ってあるから」
他人の家に泊まるなんて、経験したことが無いなと思う。少しどきどきする。
「……てかさ、さっき言ってたの本当かよ」
「何のこと?」
「は? 流石に分かれよ!」
花火の顔が赤くなっているのを見て理解する。そして、羞恥心が今更になって襲ってきて、顔が熱くなる。
「……うん、本当だよ」
足を止めると、二歩先に進んだ花火が振り返る。
「僕は、花火のことが好き」
「……俺も、一温が好きだ」
今が夜で、顔が良く見えないのは互いに良かったと思う。今二人とも、林檎のように真っ赤になっているだろうから。
「よ、よし! さっさと帰ろうぜ!」
「そう、だね……」
二人で歩くのが何だか照れ臭くて、心なしか早く歩いたためか、花火の家にはすぐについた。ちょうど公園の裏手の方に花火の家が位置していたから、近所だったのだろう。
「親父はもう寝てるから、ささっと上がって」
小さく「お邪魔します」と言って家に上がると、廊下の突き当りまで行くように言われ真っ直ぐ進んだ。左手には台所、右手には脱衣所とお風呂がある。
「はい、これ。着替えとタオル。先に風呂入って。俺皿洗いしなきゃなんねえから」
と、強引に渡される。他人の家のお風呂に入るのも初めてで、戸惑いながらも脱衣所で服を脱ぎお風呂場のドアを開けた。
久しぶりに浴槽に湯が張ってあるのを見た。そしてボディソープではなく石鹸が置いてある。
石鹸で身体を、使ったことのない男性用らしいシャンプーで頭を洗って、湯船に浸かった。ほっとして溜息が零れる。一日で色々あって疲労感が拭えないが、それ以上に充足感があった。
ふと、僕と花火は両想いというものになったのだと気付いた。そしてその相手の家に泊まるのである。良くないことを考えてしまいそうで、慌てて湯船から上がった。
用意されていた服は、花火の家でたまに着ている上下のスウェット。ボクサーパンツは新品のようだ。着替えて脱衣所から出ると、ちょうど花火が片付け終わったところのようだった。
「布団、上に用意してあるから。先に寝てろよ」
「……うん」
「……じゃあ、先に行くな」
「はい。お元気で」
先生は片手を挙げて挨拶してから、踵を返し、ぽつぽつと電灯の灯る夜道に消えていった。
「……全部、伝えられたか?」
「うん。ありがとう、花火」
花火の顔を見詰める。と、花火が驚いたように目を見開いている。僕の顔に何かついているのだろうか。
「今……笑った」
「え……?」
「笑ったよな? なあ!」
花火は興奮して僕の両肩を掴み、激しく揺さ振る。
「お前さぁ、今のタイミングは卑怯だぞ! マジで!」
何のことか分からないまま揺すられ、すぐに手を離される。笑う、ということを長らくしていなかったから、きっと変な顔になっていたのだろう。
「……まあいいや。帰ろうぜ」
「うん」
薄暗い道を二人並んで歩く。駅とは違う方向に歩いていることに気付いた。
「どこに行くの?」
「俺ん家。親父には、今日は一人にしときたくねえから家に泊めるって言ってあるから」
他人の家に泊まるなんて、経験したことが無いなと思う。少しどきどきする。
「……てかさ、さっき言ってたの本当かよ」
「何のこと?」
「は? 流石に分かれよ!」
花火の顔が赤くなっているのを見て理解する。そして、羞恥心が今更になって襲ってきて、顔が熱くなる。
「……うん、本当だよ」
足を止めると、二歩先に進んだ花火が振り返る。
「僕は、花火のことが好き」
「……俺も、一温が好きだ」
今が夜で、顔が良く見えないのは互いに良かったと思う。今二人とも、林檎のように真っ赤になっているだろうから。
「よ、よし! さっさと帰ろうぜ!」
「そう、だね……」
二人で歩くのが何だか照れ臭くて、心なしか早く歩いたためか、花火の家にはすぐについた。ちょうど公園の裏手の方に花火の家が位置していたから、近所だったのだろう。
「親父はもう寝てるから、ささっと上がって」
小さく「お邪魔します」と言って家に上がると、廊下の突き当りまで行くように言われ真っ直ぐ進んだ。左手には台所、右手には脱衣所とお風呂がある。
「はい、これ。着替えとタオル。先に風呂入って。俺皿洗いしなきゃなんねえから」
と、強引に渡される。他人の家のお風呂に入るのも初めてで、戸惑いながらも脱衣所で服を脱ぎお風呂場のドアを開けた。
久しぶりに浴槽に湯が張ってあるのを見た。そしてボディソープではなく石鹸が置いてある。
石鹸で身体を、使ったことのない男性用らしいシャンプーで頭を洗って、湯船に浸かった。ほっとして溜息が零れる。一日で色々あって疲労感が拭えないが、それ以上に充足感があった。
ふと、僕と花火は両想いというものになったのだと気付いた。そしてその相手の家に泊まるのである。良くないことを考えてしまいそうで、慌てて湯船から上がった。
用意されていた服は、花火の家でたまに着ている上下のスウェット。ボクサーパンツは新品のようだ。着替えて脱衣所から出ると、ちょうど花火が片付け終わったところのようだった。
「布団、上に用意してあるから。先に寝てろよ」
「……うん」
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